神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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転界を目指す者たち

変わっちまったな お前は

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 溢れんばかりの光が衝突し、そのエネルギーは周囲のあらゆる建造物を飲み込んだ。
 極東の一般人は全員避難しているはずなので、ここに埋まっているのは契約者ばかりだろう?
 たぶん。
 数メートル先に、神格化を解かれたハムサの器がある。
 器はもう人格を食われたから、そうではないか。
 分からない。
 だが、どっちにしろだ。
 あの光を受けて、生身の人間が生きていられるはずがない。
 たとえ五体満足で存在してようと。
 俺はまた人を殺した。
 殺して、殺して、殺し回って。
 だが、俺にどんな天罰が降り掛かろうとそれは問題ではない。
 俺にそれを拒む権利なんて無いだろう。
「おい、待てよ!! 」
 瓦礫の下から、一人の青年が出てくる。
 間違いない。
 俺の腐れ縁坂田槍馬だ。
「なんの真似だ。」
 彼が俺の目の前に立ち塞がる。
「お前を止めにきた。」
「辞めておけ。今のお前じゃ俺には勝てない。」
 そういうと、槍馬は高笑いを始めた。
「ハハハハハ、『今のお前じゃ俺には勝てない。」って。」
 それから彼は哀れみのこもった目で俺を見た。
「お前、随分見ないうちに、面白くない奴になっちまったな。」
 俺は彼を押し退けた。
「言いたいことはそれだけか? 行くぞ。俺は転界に行かなくてはならない。」
 世界が反転する。
 能力では無かった。
 単に俺が投げ飛ばされただけだ。
「行かせねえよ。」
「邪魔をするのなら、お前といえども容赦はしないぞ。」
 彼は投げ飛ばされた俺を見て笑った。
「お前が俺と? やり合おうってのか? 俺に喧嘩で一度も勝ったことの無いお前が? 」
「生身の人間如きに本気を出すほど俺も馬鹿じゃ無い。負けてやっていたのさ。」
 拳が飛んでくる。
 軽かった。
 彼は本気で俺を殴ったんだと思う。
 昔の俺なら怯んでいた。
 俺は変わってしまった。
 痛みに慣れてしまったばかりに、人の痛みを忘れてしまったのかもしれない。
 だから平然と人を殺せるのだ。
 いや、その表現は語弊があるのかもしれない。
 元々俺に人の心なんて無かった。
 たとえ消滅したとしても死ぬことは無かった。
 腕をもがれても首を飛ばされても、脚を斬り飛ばされても、俺が死ぬことは無かった。
 最初から俺には人の痛みを理解する心すら無かったのかもしれない。
「おい、なんとか言ったらどうなんだ!! 」
 槍馬は何かを言っていた。
 だがなんて言っているかは聞いていなかった。
「なんで無視するんだよ。なんで勝手にいなくなるんだよ。俺はお前を救おうと思っていた。言っただろ? 美奈がお前を恩赦させようとしてくれていたんだ。後、もう少し我慢してくれてい___」
「俺のことは忘れろ。ありがとう。感謝している。幼い頃から、弱い俺を助けてくれたのはお前だ。そして今も。今までもずっと。俺のことを考えてくれて。」
「だけどな。もう俺に縛られる必要もない。」
 槍馬に胸ぐらを掴まれた。
「おい、なんだよそれ。」
「離せ。俺に構うな!! 」
「最初に……最初に俺を救ってくれたのはお前だろうが慎二!! 」
「得美士に村を襲われた時、お前が村を救った。」
「アレは鬼影が勝手にやったことだ。俺は関係ない。」
「違う。お前は、俺たちを救ってくれた。そう、俺だけじゃない。村のみんなを。」
 俺は諦めて彼を振り払うと、バックドア向けて歩き出した。
「どうやら、言葉じゃお前を止められないみたいだな。」
 彼がこちらに走ってくる。
 俺は振り返ると、彼にボディーブローをかました。
「ウッ。」
 彼は気絶し、俺に倒れかかってくる。
 俺はそれを担ぎ上げると、瓦礫や、ガラスなどを掻き分け、そこに彼を寝かせる。
「慎二ッ!! 」 
 黒澄の声だ。
 俺の心が揺れる。
「なんだ、生きていたのか。もう死んだかと思ったぞ。」
 それを押し退けて、鏡子が顔を出す。
「斥は? まだアイツは生きているか? 」
 俺は大声で手を振りかえす。
「安心しろ。ビンビンしてるからよ。ちょっくら行ってくるわ。」
 黒澄はドシドシ歩いてくると、俺にビンタした。
「どいつもコイツも、俺を殴りたがるな? サディストしかいねえのか、ここには。」
「当たり前でしょ。」
「ねえ、全部終わったら帰ってきて。絶対。」
「それ、絶対死んじゃう流れでしょ。」
「馬鹿。」
 もう一発殴られた。
「分かったよ。全部終わったら帰ってくる。絶対にな。」
 俺は嘘をついた。
 もう極東に帰ることはないだろう。
 全部終わったら、この剣をグランディルに返す。
 そこで処刑されて俺の生涯は終わりだ。
 バックドアの前で、斥が立っていた。
「どうした? 挨拶しなくて良いのか? 」
「ああ、それより!! 」
「伊桜里たちを早く援護しないと。」
「そうだ。ひとまずクーデターを抑えないと。」
「全部終わった後は残党狩りで、警備が厳しくなる。」
「優勢なのはどっちだ? 」
「ミーチャたちが援護してくれているから、なんとかグランディル側が均整を保ている。けどいつまで続くか。」
「お前もミーチャか。」
「み、みんながそう呼ぶからよ。」
「行くぞ。」
 俺は動揺する彼を引き連れて、グランディル帝国につながる根へと向かった。
 

 
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