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転界を目指す者たち

最後の剣を求めて

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 バックドアを抜けた先は、乱戦状態であった。
 グランディル軍の陣形は既に崩壊している。
 中には、グランディルの紋章を掲げたモノどうしでの戦闘も行われていた。
「裏切りか? 」
「どうやら工作兵がいたようね。これのせいで、敵味方が全く分からなくなってしまっている。」
「今はそれに乗じて革命軍側に加わる兵士もいるわ。」
 向こうでは神格化したセイが、革命軍や、グランディルの紋章を掲げる兵士たちと戦っていた。
「ウラララァ!! 」
 雄叫びを上げた兵士が伊桜里に斬りかかってくる。
「「オラっ。」」
 ドミートリィと斥がそれを防いだ。
「邪魔だ。伊桜里は俺に任せろ。」
「いや、お前が邪魔だ。お前は戦闘に参加しろ。」
「二人とも!!真面目にやって!! 」
 それから横目で俺を見た。
「慎二は宮殿に向かって。ここは斥が来てくれたからなんとかなりそう。」
「分かった。悪いな。」
 俺は城内に入る。
 城の中は間抜けの殻だった。
 革命軍の工作兵らしき兵士たちが、城内で何かをやっていたので、彼らを気絶させると、寝室へと急いだ。
 アイシャはまだカーミラの看病をしているのだろうか?
 それとも外に出て戦闘をしているかもしれない。
 迷った。
 もちろん標識とか無いし、広すぎる。
 こんなの掃除の方が大変だろ。
 と、右往左往していると、クラウソラスが俺に話しかけてきた。
---カーミラ様の部屋は三階よ---
 俺は螺旋階段を見つけると、一歩、また一歩と歩き始めた。
 そして、一つの小さな部屋へとたどり着く。
「おい、本当にここであっているんだろうな。」
 城のデカさに比べたら、倉庫みたいな部屋だ。
 扉の大きさがそれをモノがっていた。
 俺は扉を勢いよく開け、壁に隠れると、中から神聖魔術が飛んでこないかを確認する。
 中では星詠みがカーミラの看病をしていた。
「それ以上近づくな!! 両手を上げろ。」
 アイシャは鋭い極東語で俺を牽制した。
 俺はそれにグランディル語で返す。
「もう座れるようは回復したようだなカーミラ。」
「お前のせいだろうガッ!! 」
「アイシャっ!! 」
 カーミラがアイシャを止めた。
「悪い、席を外してくれ。」
 星詠みはそう言われると、無言で部屋から出ていった。
「あの話の続きをしたい。」
 綺麗な極東語だった。
 俺はそれにグランディル語で返した。
「ああ、そうだな。俺たちは武器を交わしてばかりで、言葉を交わしたことなんて無かった。」
「仕方ないよ。僕の言葉は君には届かなかったし、君の言葉を、僕は理解できなかった。」
 カーミラは俺の腰のホルスターを指差した。
「それは? お前がいっつも脳天むけてトリガーを弾いてるやつ。」
 俺は素直に答えた。
「これは銃鬼、母の形見だ。」
「お前がいっつも持っている、短剣、それはなんでいうんだ? 」
 彼は素直に答えてきた。
「これは吸血牙、母親のことは覚えていないけど、父さんが、母さんの形見だって言ってた。」
「お前だけ腹違いだったんだな。」
「そうだね。兄さんたちはみんな人間だから。」
 カーミラは言いにくそうな口調で、俺に訊いてきた。
「あの、その、君の母さんは。」
「聖に殺された。」

「でもそれはお前がやったんじゃ無いだろう? 」

 カーミラは弱っている身体で盛大に笑った。
「おい、笑うことねえんじゃねえか? 」
「いやいや、だって君、変わってるじゃないか。普通、肉親を殺されたらそんな答えなんて出てこないよ。」
 そうだ、俺はカーミラの兄貴を殺した。
「……すまなかった。」
 俺は彼の前で額を地面につけた。
「それは、極東式の謝罪だね。美奈に教わったよ。」
「本当に兄は君が殺したの? 」
「ああ、俺だ。すまない。謝って許してもらえるモノじゃ無いけど、俺は間違っていた。」

      「嘘だよ。」

---この聡明なガキには、嘘が通用しないみたいだぜ慎二---
 まずい、鬼影が出てきた。
 俺は慌てて逃げようとする。
 が、カーミラに引き止められた。
「君だね兄を殺したっていうのは。」
---そうだぜ。だったら俺を殺すか? ぼっちゃん---
 彼は静かに首を横に振った。
「君たちとちゃんと話して良かった。誤解が解けたじゃ無いか。」
「解けたってお前なぁ。」
 カーミラは再び鬼影に話しかけた。
「なぁ、最後、兄さんは、なんて言ってたんだい? 」
「オイ、止めろ。」
 鬼影は正直に答えるだろう。だから俺は彼を止めた。
---カーミラを殺して、セイを封印して、自分が王になるってよ---
「……」
 彼は涙を手で吹いていた。
「そうか兄さんらしいや。」
「カーミラッ。」
「優しいんだね君は。本当のことを黙っていようとしてくれて。」
「んなことねえよ。お前らの他の兄弟だって斬り殺したし。」
「生きてるよ。プラウド兄さんたちは。」
「君が消さなかったからだ。」
「ブレイブ兄さんに聞いたよ。埋まりそうになった時、私を連れて、脱出しようとしてくれたって。」
「チッ。覚えてやがったのか。あの慇懃ヤロウ。」
 カーミラは俺に自分の愛剣を差し出した。
「転界に行くんだろう? コレが必要なら持っていくと良い。ああ、外は気にするな。もう少しで力が戻りそうだ。それに、君の仲間たちも頑張ってくれている。」
「ああ、神をぶっ飛ばしに行ったら、必ず返す。」
---いけないなぁ。代行者君。君にはちゃんと使命を言い渡したはずだけど---
 俺たちは辺りを見回した。
 が、どこにもソレはいない。
 転界の支配者、全知全能の神からの言葉。
 カーミラに雷が降りかかる。
---さぁ、そこにある奴のカリバーンを奪い取って。そうすれば、君の兄は生き返らせようじゃないか---
「…貴方は。」

「貴方は僕に嘘を付きましたね。知っているんですよ。」

---嘘をついているのは、そこにいる鬼畜生の方だよ。君の寛大さに漬け込んで私腹を肥やそうとしているのさ---
「ならなぜ外では彼の仲間たちが戦っているのですか? 」
---簡単なことさ。アグスが落ちれば、剣を奪い取るのが難しくなる。だから混乱に乗じてやってやろうって算段さ。彼らが君達に加勢するのも、出来るだけ争いを長引かせるためにだろうね---
「なぜお前は、カーミラを助けなかった? ここが落ちれば、ハムサがお前のところに行っていたかもしれないぞ。」
---……ええとそれはねえ。代行者のことを助けようとはしていたよ。でも僕って神様だし、あんまり現実世界に干渉したらまずいかなって---
「うおおおおォォォォォォ。」
 代行者は自らの力で雷を弾き飛ばした。
「すみません。貴方のことはもう信用できません。」
 パワーが満ち溢れた彼に俺はジゲンキリを投げた。
「お前も働け。健康な人間を置いておくほど、事態は芳しく無い。」
「何言ってんだ。君が僕のために働くんだろ? 」

   「僕はこの国の王なんだから。」

---オイ、待てえ。ええい、この分からずやめ!! ---
 更なる罰が俺たちに降りかかると思っていたが、ソレは来なかった。
 なぜだろう。
 不意に彼女は姿を消した。
 俺たちは窓から飛び降りる。
 そして、グランディル軍に加勢した。


 
 

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