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侵略者
変態コンビ
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そっちの赤茶色の髪をした青年は、白のインナーにコレまた赤茶色のマントを着込んでおり、胸にはセル帝国の紋章が付いている。
そして右腕に握られている片刃の剣には、刻印のようなモノが刻まれていた。
おそらく魔導剣の類いなるものだろう。
もう一人の女は、マントというよりはフード。
そう、オレンジ色のフードを身に纏っているピンク髪の女性。
いや、訂正しよう。年は青年と同じぐらいであるが、大人びている。
思い出した。凛月を取り返しに行った時、新潟の相手をしていた女だ。
俺は無意識のうち、凛月を強く握っていた。
落ち着いているからだろうか?
すました顔であるが、俺が見ると愛想笑いを見せる。
一見敵意の無いようなそぶり。
こちらを警戒させないためか。
だが、右手はおそらくルーンが入っているであろうポーチに当てられている。
俺は本能的に車両の天井から漏れ出る陽の光を鬼影で塞ごうとしていた。
「オイまて、お前、武器を下ろせ。」
青年の発する声へ、先に解答を出したのは槍馬だ。
「あのイカれた侍はお前らの仲間か? 」
青年が剣を構え直す。
「この汽車で何をしていた? 」
「質問を質問で返すな!! 」
すると我に帰った美奈がズカズカまえにでてくる。
「まず名乗りなさい無礼者。この者たちは私の護衛です。」
すると彼らは跪いた。
「申し遅れました。我らはセル帝国アスィール様の近衛。こっちの変態がアニーサ・リームで、私がバー・ヤテンです。」
「御無礼失礼。しかし、極東の皇后様といえども、車内で暴れられるなど…… 」
「「暴れてたのは俺たちじゃねえ。」」
彼はとぼけた。
「はぁ、と言いますと暴れていたのは。」
俺は我慢しきれず奴の胸ぐらを掴んだ。
「テメェのせいで逃げられちまったんだろうが。同落とし前つけてくれんだ? あ? 」
ヤテンは足をバタつかせる。
「おい、それ以上はやめとけ。極東の人間が、セル帝国の近衛に傷害事件を起こすなど、国際問題沙汰だぞ。」
この後に及んで見苦しい。
俺は彼を下ろした。
「すると、セル帝国の治安維持に応援にきた兵たちと言うのは? 」
「俺と、コイツ。」
「ズカッ。」
頭がジーンとする。
また毛細血管が二、三本イッたかもしれない。
「私は黒澄千代。極東の契約者。」
「能力は明かしといた方がいいかしら? 」
再び場の空気が凍りつく。
「いや、問題ない。これから双薔が帰ってくるまでの期間。よろしく頼む。」
「うんよろしく。」
ヤテンは千代と握手した。
「よろしくな。」
俺も手を差し出す。
すると彼は手を引っ込めた。
「極東の悪魔だ。握手をした隙に能力で感電死させられるかもしれん。」
「……やっぱり殴っていいか? 」
「よろしくね。極東の鬼神さん? 」
代わりに手を差し出してきたのはリームという女だ。
手がひんやりと冷たい。
また手刀が飛んでくる。
今度は能力で強化した金剛のカイナが。
「あがっ。」
遠くで美奈が笑っている。
槍馬も天子も笑っていた。
そうしている間に列車はセル帝国についた。
「んじゃ。悪いな、あの剣士のことも。気がかりだが。」
槍馬と美奈が降りるのはアグスの駅であるので、ここではお別れだ。
「お前こそ美奈のこと、頼んだぞ。」
「任せとけよ。」
俺と千代はヤテンとリームに連れられて、駅のホームを出た。
「なんか幻想的。」
第一声を上げたのは、俺の合方さん。
確かに、俺の語彙力では表すことができない感慨深さがあった。
街自体は石造りで、奥には、極東の技術を応用したような鉄塔の群生地がある。
街全体を這うように光る「根」のようなものが張っており、(おそらくグランディルの地脈がここまで来ているのだ。)街の至る所に電柱が建っており、それを無数の混雑した電線が結んでいる。
グランディルの街並みとも、極東の街並みとも取れない奇妙な街。
それが今のセル帝国だ。
「お前たちは表向き、極東の外交大使館ということになっている。」
まぁそうなるだろうな。
表立ってセル帝国に極東の軍人を入れるなんて。
前述した通りだ。
「特にお前、お前は素性を隠しておけ。」
俺はセル帝国の悪魔を殺した憎き悪魔。
彼らにはそう映っているだろう。
幸い、もうツノは生えてないし、鬼であった時の力を使えるわけでも無い。
うまくやれば隠し通せるだろう。
「分かった。」
彼から無言で一枚の洋皮紙が押しつけられる。
そこには偽名と設定が書かれていた。
田中太郎
age:20
・
・
・
「ベタな名前。」
黒澄が口を抑えている。
「すまんな。俺は極東語に疎くて。グランディルの人々はジャックといえば、大体振り返ってくれるみたいだから。極東の人間も、太郎といえば___」
もう突っ込むのもめんどくさくなってきた。
「ありがとよ。分かった。今から俺は田中太郎な。」
「よろしくな。太郎。」
「よろしくね。太郎。」
「よろしく。タロちゃん。」
そして右腕に握られている片刃の剣には、刻印のようなモノが刻まれていた。
おそらく魔導剣の類いなるものだろう。
もう一人の女は、マントというよりはフード。
そう、オレンジ色のフードを身に纏っているピンク髪の女性。
いや、訂正しよう。年は青年と同じぐらいであるが、大人びている。
思い出した。凛月を取り返しに行った時、新潟の相手をしていた女だ。
俺は無意識のうち、凛月を強く握っていた。
落ち着いているからだろうか?
すました顔であるが、俺が見ると愛想笑いを見せる。
一見敵意の無いようなそぶり。
こちらを警戒させないためか。
だが、右手はおそらくルーンが入っているであろうポーチに当てられている。
俺は本能的に車両の天井から漏れ出る陽の光を鬼影で塞ごうとしていた。
「オイまて、お前、武器を下ろせ。」
青年の発する声へ、先に解答を出したのは槍馬だ。
「あのイカれた侍はお前らの仲間か? 」
青年が剣を構え直す。
「この汽車で何をしていた? 」
「質問を質問で返すな!! 」
すると我に帰った美奈がズカズカまえにでてくる。
「まず名乗りなさい無礼者。この者たちは私の護衛です。」
すると彼らは跪いた。
「申し遅れました。我らはセル帝国アスィール様の近衛。こっちの変態がアニーサ・リームで、私がバー・ヤテンです。」
「御無礼失礼。しかし、極東の皇后様といえども、車内で暴れられるなど…… 」
「「暴れてたのは俺たちじゃねえ。」」
彼はとぼけた。
「はぁ、と言いますと暴れていたのは。」
俺は我慢しきれず奴の胸ぐらを掴んだ。
「テメェのせいで逃げられちまったんだろうが。同落とし前つけてくれんだ? あ? 」
ヤテンは足をバタつかせる。
「おい、それ以上はやめとけ。極東の人間が、セル帝国の近衛に傷害事件を起こすなど、国際問題沙汰だぞ。」
この後に及んで見苦しい。
俺は彼を下ろした。
「すると、セル帝国の治安維持に応援にきた兵たちと言うのは? 」
「俺と、コイツ。」
「ズカッ。」
頭がジーンとする。
また毛細血管が二、三本イッたかもしれない。
「私は黒澄千代。極東の契約者。」
「能力は明かしといた方がいいかしら? 」
再び場の空気が凍りつく。
「いや、問題ない。これから双薔が帰ってくるまでの期間。よろしく頼む。」
「うんよろしく。」
ヤテンは千代と握手した。
「よろしくな。」
俺も手を差し出す。
すると彼は手を引っ込めた。
「極東の悪魔だ。握手をした隙に能力で感電死させられるかもしれん。」
「……やっぱり殴っていいか? 」
「よろしくね。極東の鬼神さん? 」
代わりに手を差し出してきたのはリームという女だ。
手がひんやりと冷たい。
また手刀が飛んでくる。
今度は能力で強化した金剛のカイナが。
「あがっ。」
遠くで美奈が笑っている。
槍馬も天子も笑っていた。
そうしている間に列車はセル帝国についた。
「んじゃ。悪いな、あの剣士のことも。気がかりだが。」
槍馬と美奈が降りるのはアグスの駅であるので、ここではお別れだ。
「お前こそ美奈のこと、頼んだぞ。」
「任せとけよ。」
俺と千代はヤテンとリームに連れられて、駅のホームを出た。
「なんか幻想的。」
第一声を上げたのは、俺の合方さん。
確かに、俺の語彙力では表すことができない感慨深さがあった。
街自体は石造りで、奥には、極東の技術を応用したような鉄塔の群生地がある。
街全体を這うように光る「根」のようなものが張っており、(おそらくグランディルの地脈がここまで来ているのだ。)街の至る所に電柱が建っており、それを無数の混雑した電線が結んでいる。
グランディルの街並みとも、極東の街並みとも取れない奇妙な街。
それが今のセル帝国だ。
「お前たちは表向き、極東の外交大使館ということになっている。」
まぁそうなるだろうな。
表立ってセル帝国に極東の軍人を入れるなんて。
前述した通りだ。
「特にお前、お前は素性を隠しておけ。」
俺はセル帝国の悪魔を殺した憎き悪魔。
彼らにはそう映っているだろう。
幸い、もうツノは生えてないし、鬼であった時の力を使えるわけでも無い。
うまくやれば隠し通せるだろう。
「分かった。」
彼から無言で一枚の洋皮紙が押しつけられる。
そこには偽名と設定が書かれていた。
田中太郎
age:20
・
・
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「ベタな名前。」
黒澄が口を抑えている。
「すまんな。俺は極東語に疎くて。グランディルの人々はジャックといえば、大体振り返ってくれるみたいだから。極東の人間も、太郎といえば___」
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