神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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侵略者

入国

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 俺たちはセル帝国の砦門を潜る。
 門番たちは一瞬俺たちを睨んでから、ヤテンとリームを確認して敬礼する。
 顔パス。
 改めてこの二人がどのような身分の人間であるかを悟った。
「今日は襲撃に遭って疲れただろう。任務は明日からでいい。宿を紹介しよう。」
 俺は思いきって彼に聞いてみた。
「ハムサは? 母体はどうなった? 」
「双薔か? 双薔なら生きている。」
双薔きゅんが死ぬわけないじゃ無い。」
 きゅん?
「双薔はみんなの双薔だ。お前のじゃ無い。そして俺のでもある。」
 そうだコイツらみたいなバカに聞くんじゃなかった。
「ハムサは母体の魂を食っていなかったんだな。」
 ヤテンは首をかしげる。
「詳しいことは知らん。」
 「だが、なんらかの制約があったんだろうな。」
「お前はどうだったんだ? 」
 今度はヤテンが俺に聞いてきた。
「よく覚えていない。生まれてまも無い頃のことだったからか。母さんによれば、父さんがコイツで封印してくれていたらしい。」
 俺たちはメインストリートで人混みに揉まれていた。
 屋台では野菜や食料、日用品の他に、怪しげな人物が魔術具を売っている。
「悪魔術は消えなかったんだな。」
「ああ、だからこうやって王宮の護衛を続けられているよ。そこの女もな。」
「ワー!! コレ双薔きゅんにそっくり。」
 リームという女は、雑貨屋のぬいぐるみに夢中だった。
 ハムサにそっくりな人形。
 いや、その双薔という少女を模したぬいぐるみだろう。
「はい、50ハムサね。」
「極東通貨にすると、50銭、つまり500厘だ。」
 彼女は五枚の札を店員に渡すと、ぬいぐるみを抱きしめて戻ってきた。
「ハフハフゥ~フフフフ。」
 それは新潟と戦う際に見せた表情とも、さっき俺と握手する時とも違った完全な少女の顔だった。
「敬遠するか? 」
「いや、別に? 」
 確かにコイツらはポンコツだが、アスィールにしては、これ以上には無い人材であろう。
 扱いやすいし、クーデターの心配もない。
「お前は? お前は皇后のことをどう思っている? 」
 美奈と俺の関係。
 彼女の記憶が戻ってからは、彼女とは溝が出来てしまっていたかもしれない。
「忠誠? とも畏敬とも違うかな。」
「そういうのじゃないけど、表すことが難しい。出会いも普通じゃなかったからな。」
「王と家臣の関係なんて色々あると思うんだ。心酔とか、崇拝とか、あるいはビジネスパートナーとか、友人なのかもしれない。」
「王も家臣も人間だろ? なら『こうであるべきもの。』なんて存在しないんだよ。」
 すると彼は付き物が落ちたような表情をした。
「ゴツン。」
 また俺の頭に拳骨が飛んでくる。
 誰かは分かっている。
「何をジロジロ、他の女ばっかり。」
「色気がない。可愛げがない。すぐに人を殴る、貶す。こんなんじゃ縁談も決裂だな。」
「ちょっと!! なんでそのこと知ってるのよ誰から聞いたの? 」
 肩を激しく揺さぶられる。脳震盪を起こしそうだ。
「お、ついたぞ。」
 横町の少し入った場所にそれはあった。
 石造の建物が多い中で、ここだけは木造であり、三角屋根。
 周りの建築物は豆腐のように四角いので余計に目立っている。
「極東人は木造が好きと聞いてな。」
「気遣いありがとよ。」
 千代は俺を突き飛ばすと、宿に飛び込んだ。
「わー凄い!! コレどうなっているの? 」
 どうやら、この建築物には中庭があるようで、立派な大樹をガラス越しに見ることが出来る。
「いらっしゃいませ。」
 眼鏡をかけた真面目そうな少女が、奥から出てくる。
「まぁ極東のお客さんなんて珍しい。」
「あの……一泊するかもなんだけど、もしかしたら一週間ぐらい泊まることになるかも。」
「よおハーキマ。外交官だ。頼むぜ。」
「アンタねぇ!! 」
「そういうことは事前に言っておいてって言ったでしょ。あと、ここをそういうことに使わないでって。」
「悪い、アスィールからの急な任務だ。理由があって王宮には入れられない。」
「でしょうね。極東の方なんて。」
「報酬は国庫から出る。コッソリな。公になるとまずい。」
 彼女はこちらを見て、愛想笑いをすると、俺たちを客室へと案内した。
「部屋はツイツ? ダブル? そ・れ・と・も、シングルにいたしましょうか? 」
「シングル二部屋というのは……」
「一部屋の方がお得ですよ。」
 そうだ、俺たちはこの国の税金で宿に止まっている。贅沢は言えないだろう。
「千代は? それで良いか? 」
「別にどっちでも。
「でも変な気起こしたらぶっ殺すから。」
「はいはい、それじゃぁツインでお願いします。」
 俺たちは大樹の見える内側の部屋に案内された。
 二0六号室。それが俺たちの部屋だ。
 入るや否や、千代はベットの周りに荷物を広げる。
「ここから固定電話の真ん中までが私の場所だから、絶対に入ってこないで。」
「ホイホイ、んなら固定電話からこっちのベットまでが俺の場所な。」
 彼女が俺をじっと見つめる。
「なんだ? 」
「なんだって何? 分かるでしょ? 」
「分かったよ。出ていきゃ良いんだろ。ホラ、ホラ部屋の鍵、一つ持って行くぞ。」
 どうやら彼女は汗を流すためにシャワーに入るらしい。
 そのために俺を追い出したいのだ。
「何分ぐらい? 二十分か? 」
「うんそれぐらい。勝手に入ってきたら殺すから。」
 今日はヤケに当たりが強い。
 また羽々斬に理由を聞ければ良いんだけど、今は…‥.大体職務の時間だな。
「お客様、外に出られるのですか? そのフード、しっかり被っておいた方が良さそうです。」
 フロントでリームに引き止められる。
「気をつけて台与鬼子、ここまでにくる間に、貴方たちのことを見ていたセルが十一人いたから。」
「お前の声に反応していんじゃなくて? 」
「それは……悪かったわ。」
「んならさ。おい、ヤテン。お前らとはまだ話したいことが沢山ある。」
「業務の説明がてらに付き合ってくれよ。」
「分かった。」「良いわよ。」
 俺たちはハーキマさんの宿を後にした。
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