神の壜(カミのフラスコ)

ぼっち・ちぇりー

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報復

サイコメトリー

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 飛び膝蹴りを避けて、勢いよく跳躍すると、屋上に出た。
 すると彼女も壁を登り、屋上へと上がってくる。
 さっきとは構え方が変わる。
 まるで別人みたいだ。
「あらー、こんな人目につくところまで上がっちゃって。」
「もしかして、そういうプレーがお好みですか? 」
「狭い場所じゃお前も、そのエモノを振るいにくいだろう。」
 俺も狭い場所が苦手というわけでは無い。
 凛月を両手に構えれば接近戦で奴らに引けを取ることもないだろう。
 しかし、俺は西郷と接近戦を行うことを躊躇った。
 先ほどの奴の身体能力は中々のものであったが、それよりも。
 凶器を握ったことで彼女の身のこなしが、ガラリと変わったからだ。
 廃墟から出てきたときの足の送り方と、今ナイフを握っている時の筋肉の使い方はまるで違う。
 武術を心得た者の動き方というものは、一般人のそれとは違う、なんというか年期の入ったそれになる。
 それは槍馬もそうだったし、玉鉄だってそうだ。
 彼らの動きには一つ一つに無駄がない、洗礼された動きをしている。
 筋肉の動きを極限にまで効率化し、音、摩擦、などいうエネルギーの無駄を省くとこで、体内のエネルギー効率を良くしている。
 今、目の前にいる短剣使いも例外ではなかった。
 奴が地面を蹴り、俺の懐に飛び込んでくる。
"ギリギリまで両手で凛月を構え、回避不可能になったところで、奴の脳天を小太刀で穿つ。"
【蛇紋流】
蛇捻ネジレヘビ
 彼女の体の関節が外れ、蛇のように畝る。
 小太刀は、彼女の髪を掠り、屋上の手すりへと突き刺さる。
【蛇紋流】
蛟竜毒蛇コウリョウドクダ
 彼女の右腕の牙が、俺の首元へと迫る。
 俺はチャクラムでそれをガードするとともに、コイル内の電流を操作し、手すりに突き刺さっている小太刀を引き抜く。
蛇尾トカゲモドキ
 足を蛇の尻尾のように扱うと、回し蹴りを放ってきた。
 彼女の足元で何かが光っている。
"隠しナイフッ!! "
 紙一重、攻撃をかわした。
 バックステップで一旦下がると、反対側の手すりを足で蹴飛ばして、再び彼女へと向かう。
 西郷に遠距離攻撃を行うのは危険だ。
 そう判断した俺は、右手に小太刀を持ち替えると、彼女に斬りかかった。
---雷刃ライジン---
 不敵に笑う毒蛇が、自分の頭上からの攻撃にどう反応するのかは興味がある。
 今度は俺が猛禽類ハンターで彼女が被食者獲物
 !!
"構えが変わった!! "
 彼女はまるで身体にスイッチでもあるかのように、構えを変えた。
 握っていたナイフが、逆手に持ち替えられる。
【鮫噛流】
鮫刃コウジン
 彼女の牙が再び俺の懐に迫る。
 避けることは出来ない。
 空中では身体の自由が効かないからだ。
「まが…れっ。」
 身体を捻り、回転させる。
 遠心力で移動することに成功し、今度は俺が懐に潜り込む。
「うおおォォォォォォぉ。」
 受け流されている。
 触れた感覚はあった。
 が、しかし、肉を斬った手応えがない。
鮹廻タコマワシ
 身体をゲル状態に擬似変化させることで、攻撃を受け流された。
 コイルを操作し、後退する西郷に小太刀をお見舞いする。
 彼女は腕をしならせると、凛月の小太刀を弾き飛ばした。
「中々面白い武器ね。」
「その武器私に___
       「断る。」
「ったく冗談よ。これだからアンタみたいな男は……」
 ざわっ。
 砂の民の風が俺を撫でる。
「これは俺の魂だ。冗談でもそんなこと言うな。」
 彼女は両手を広げると、無邪気な少女のように回り始めた。
「だって、そうすれば、その武器に私の武術がそなわり……」
「……最強に見えない? 」
 彼女が俺の耳元で囁く。
 今のは多分、再空壊を発動していても見えなかった。
 今度はなんだ?
 それより彼女はなんなんだ?
 古今東西の武術を極めきった秀才か?
 そんなもの……
 坂田家の人間だって、一生を一つの型に費やし、やっとあの領域に達することができていると言うのに。
 左鎖骨下から右脇腹までを切り裂かれる。
"まずい。"
"この状況は。"
 同様で頭が回らなくなっている。
 今、闇雲に彼女と戦うのは危険だ。
 反応速度外からの攻撃。
 それがこんなに恐ろしいものだとは思わなかった。
 どんなに強大な力を持ってしても、俺が反応速度という点で遅れを取ったのは、ただ一人だけ。
"逃げろ!! "
 本能がそう囁く。
 俺は愚かにも敵に背中を見せると、一目散に逃げ出した。
 隣の荒い吐息が俺にかかり、隣で悶えるバケモノを見て絶句する。
 その造形はあまりにも悍ましく、心臓が二回ほど飛んだ。
 生存本能が功を奏し、なんとか巻くことが出来た。
 いや、わざと逃されたのかもしれない。
 彼女は楽しんでいるのだ。
 この状況を。
 俺とのゲームを。
 傷口を抑えながら、室外機の影に倒れ込む。
「クソっ!! 」
 俺はこれまで戦いから逃げたことがない。
 そう自負していた。
 しかしそうじゃない。
 逃げなかったんじゃなくて、逃げる必要が無かったのだ。
 ピンチの時は仲間が駆けつけてくれたし、そのピンチになったこと自体少なかった。
 だが奴は違う。
 完全に格上の相手だ。 
          
          「ボウヤどーこ行ったのかな。」


「こっちかな。オーイ。今度はお姉さんと、か・く・れ・ん・ぼ。したいのかな? 」

 戻りかけていた心拍数が再び上昇し始める。
 未知の敵。
---おーい---
 未知の能力。
---オイ---
 未知の武術
---しっかりしろ。痴れ者---

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