平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:1 リべレイター・リベリオン

未成年飲酒ダメゼッタイ

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 昔の記憶を頼りに、バーの場所を探す。
 確か人目につきにくい裏路地の、廃墟ビルの地下に店を構えていたような気がする。
 というか、公安の人間をそんなところに連れて行って大丈夫なのだろうか?
 まぁ前述した通り、俺は裏社会じゃ他人の恨みを買ってきた人間なので、あまり彼らを刺激したくはない。
 特に、手錠で無防備になっている今は。
 ふと後ろを振り返る。
 無表情の上司が、今にも俺の手錠を閉めてやろうと、ボタンに手をかけている。
「ねぇ上司様。ほんとに行かなきゃダメ? 監視カメラとか調べればそれで良くない? 」
 上司様はため息混じりに答えた。
「もう調べたわ。その時間帯だけ、通信障害が起きて、うまく映像が撮れていなかったみたいなの。」
 んまアイツらがそれを対策していないわけが無いよな。
 奴らは俺が思っている以上に巨大な組織なのかもしれない。
 しかし、それだけ大きな組織なら、なぜ痕跡の一つも掴めないのであろう。
「目撃者の事情聴取は? 」
「リベリオンやアンタが能力ぶっ放すから、みんな逃げちゃったらしいわ。公安の人間も、避難誘導をするどころか、彼らの対処に追われていたから、もうみんなパニックになっちゃったらしくて。」
 あの時は周りを気にする余裕が無かった。
 今回の街中での能力者同士の闘争で、俺たちに対して良い印象を抱くものはいないだろう。
「周りが見えていなかった。」
 彼女は首を振った。
「自分の身も自分で護れないのに、他者を守ろうとするなんて愚策よ。」
「貴方が装置をそっちのけにして、民衆を守っていたら、貴方は間違いなく処刑されたでしょうね。上層部はエクシーダーが無能力者と溝を埋めるのを、嫌っている。分かるでしょ。今のこの平等な世界だって、不平等の象徴である能力者を押さえ込むことでなんとか成り立っているの。彼らに対して少しでも同情する声が上がれば、この天秤の均衡は崩れるわ。」
「貴方は私の言う通りにしていなさい。そうすれば命までは取られなくて済むわ。」
 随分とドライな回答。
 だが俺を励ましてくれているのが分かった。
「ありがとう。善処するよ。」
 彼女はため息を付いた。
「気をつけなさい。意志を持つ主人公は、ディストピア小説で必ず破滅するんだから。」
「ここには監視カメラが無くて助かったな。」
 彼女は慌てて口を抑える。
「告げ口する気はねえよ。アンタは俺の命の恩人なわけだし。」
「そうじゃ無くて。」
 彼女が心配そうな顔で俺を見ている。
「なんだっけ? 書物を思想の根源として排除し、燃やし尽くす世界。その世界じゃあ主人公は命からがら逃げることが出来ただろう? 」
「おっ、多分ここだ。」
 地下に続く階段。
 光源が無いので、そこが見えない。
 俺が蝠岡に連れられた時もそうだった。
 理由は明確だ。
 国際政府に知られたく無いのであろう。
「悪い鵞利場、俺の腕章を取ってくれ。あと、公安バッチも。」
「正体は隠しておいた方がよさそうね。」
 彼女は身分が分かるものを全て外すと、階段を降りていった。
「何しているの? 行くわよ。」
 なんの躊躇もないようだ。
 全く、うちの上司様は肝が据わっている。
 流石に俺でも、真っ暗な階段を降りていくことには抵抗がある。
 俺は彼女に続いて階段を一段降りた。
 何にも見えない。
 自分が本当に進んでいるのかも分からない。次第に平衡感覚が薄れていき、右手を壁について、感覚を確かめる。
 が、すぐに光源は見えた。
 片開きのドア。
 息を呑む彼女の横に立ち、冷や汗をかく。
「開けるわよ。」
「ああ。」
 ドアを開けると、能力者たちの談笑が飛び出してきた。
 防音処理、中は穏やかなオレンジ色の光源。
 対照的にカウンターのボトルラックは、青色の光源で落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「おっと嬢ちゃん。ここは子供の来るところじゃねえぞ。帰りな。」
 地雷を踏み抜いていくスタイル。
 彼女はイキナリ心情を逆撫でされるが、あと少しと言うところで耐えている。
 任務云々もあるが、彼女がキレれば、俺の命も危ない。
「お、そこの蝠岡んところの『壁』じゃねえか。ダメだろう、ガキなんぞここに連れてきたらよ。」
「すまない、どうしても外せない用があってな。」
 男は、俺の手錠に気がついていないようだ。
 鵞利場は……
 んまここじゃ手錠が無いのが普通。
 能力者か無能力者かってのを見た目で判断するのは難しい。
 俺はカウンターへと急いだ。
 ここのマスターは身長ニメートル越えの巨漢。
 気前のいい黒人の筋肉リュウリュウマッチョマンだ。
「久しいな『壁』。今日は何しに……ハハんなるほどなぁ。」
「お前、公安の犬になったのか。すると嬢ちゃんは…… 」
 俺の心臓が高鳴る。隣で鵞利場はポーカーフェイスを装いながら、額に汗をかいている。
 ここで嘘をつくのは、余計な不信感を生むだけだろう。
 マスターに隠し通せはしない。
「なんで分かったんだ? 」
 俺は極刑になって、監獄送りになったことになっている。
 正確にはなっていた。
 もちろん俺が執行者になったことは報道されないし、黙秘されている。
 民衆はまだしも、彼らにその情報がいくことはない。
「蝠岡は捕まった。それにお前のその手錠。」
「お前が好き好んでその手錠を付けるとも考えにくい。となれば国際政府から正式な手続きを受けてその手枷がされたことになる。だが、お前は国際政府に見つかれば、十中八九もうシャバの空気を吸えることはないだろう。」
 せめてカモフラージュだけでもしておくべきだったな。
 と思いながら、彼の言葉を聞く。
「まぁ蝠岡から聞いていたけどな。お前がここに来ると。」
 まざかと思うが、この男は監獄の人間とコンタクトを取れるのか?
「いや、お前が思っているとは違うかな。俺が奴から伝言を受け取ったのは、奴が捕まる三日前だ。」
 ますます意味が分からない。
 未来が見えているのなら、いくらでも対策しようがあったはず。蝠岡ならやってのけただろう。
 それよりか、俺が生きていて、ここに来ることも彼は予想していたというのか。
「なんで逃げなかったんだ? 」
「『垣間見た運命からは逃れられない。』確かそう言っていたな。アイツはどうやら研究者じゃなくて哲学者だったみたいだ。」
 俺は眉をハの字に曲げて、首を傾げた。
「んま、何かの縁だ。何か飲んでいけよ。そこの嬢ちゃんはオレンジジュースで良いかな? 」
 彼女は腕を組んでソッポを向いた。
「ミルクでも貰おうかしら。」
 マスターは困った顔をすると、カウンターの下から、白い液体を取り出して、シロップと一緒にシェイカーにぶち込んだ。
 数回シェイクすると、グラスにジンジャーエールを注ぎ、そこへ白い液体を注ぎ込んだ。
 滑走するグラスを鵞利場が受け取る。
「どうもご丁寧に。」
 マスターは続いて俺の方を見た。
「壁はどうする? 蝠岡が置いていったテキーラがあるぞ。ロックでどうだ? 」
「ありがとう今日は遠慮しておくよ。水を一杯頼む。」
 するとマスターは困った顔をした。
「水の水割りぃ? 」
「悪い、今は飲んでいるような気分じゃあ無い。それに仕事だしな。」
 俺はここで本題に切り出した。
「……リベリオンのことについてか? 」
 先に答えたのはマスターだった。
「無理だ。俺はこっち側の人間。お前はあっち側の人間。この意味が分かるな? 」
 あちらこちらから冷たい視線を感じる。
 こっちは能力者二人、能力解放をしたからと言って、相手できるかは正直不安だ。
 というか、まず第一に、ここで争うべきでは無い。
 俺がサンドバックにされてでも、この細い糸は切らずに取っておかなくてはならない。
 そこで沈黙を破ったのは鵞利場だった。
「私は彼のオブザーバーです。もしリベリオンの情報提供に協力していただけたのなら、ここをうまく取り繕いましょう。私たちも、その口実が出来ます。私の腕に手枷がない様に。」

      ガシャン!!

「なぁ嬢ちゃん。大人に鎌かけんなら、相手を選びな!! 」
 彼の懐から、サバイバルナイフが引き抜かれ、鵞利場の眉間に突き立てたれる。
 彼女は動かない。
 瞬きすらしていなかった。
 彼女の鼻を一筋の真紅が伝う。
 しばしの静寂。
 猛獣たちの視線が、俺たちを刺す。
 背筋に冷たいものが走る。
 対照的に顔は赤くなる。
 心拍数が上がる。
 全身が自身の危険を汲み取り、黄色い信号を放っている。
「ふん。覚悟は本物みたいだな。良いぜ。ただし条件がある。アンタを信用できる人間か見極めるためにな。」
「その条件とは? 」
 俺は唾を飲んだ。
「その条件は……」
「お前ら犯罪課の長官室に飾られている秘蔵ボトルを俺にくれ。」
 鵞利場は驚愕している。
「なぜ長官の秘蔵ボトルの在り方を? 」
 いや、そこじゃあねえだろ。
「ほら北条、さっさと行くわよ。これも仕事。」
 ミルクジンジャーを飲み終えた鵞利場の後を、水を流し込んだ俺が追う。
「あ、うちは盗品NGだ。ここの信用に関わるからな。ちゃんと証明書を貰ってきてくれ。長官直々のな。」
「はぁ、ペンと印鑑を口で咥えてもらうしかないわね。」
 彼女はホッとしたように息を吐いた。


「マスター。こっちにもお酒をくれるかしら? 」
 あんな女、いただろうか?
 カウンターに座っているフードの女。
 顔はこちらから見えない。
「あら、やっぱりマスターさんイケメンねぇ。ムキムキで。私のタイプだわ。」
「エヘヘへ。お姉さん褒めても何も出ませんよ。少しばかり安くしときますね。」
 彼女がバーのドアを開ける。
 俺もバーのドアをくぐった。
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