平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:1 リべレイター・リベリオン

人質

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 裂け目を抜けた先は……
「成層圏? 」
 鵞利場が俺の代わりに声を上げた。
 俺もこんな高いところから世界を見下ろしたのは初めてだ。
 一番高いところで……
 そうだ思い出した。幼い頃親と浮遊物件のオープンハウスがあった時。
 あの時はガキだったから、足がすくんでしまったが、今はそれより遥か高い場所から美しいこの異世界を見下ろしている。
「文明のレベルは……平等社会ほどじゃないな。」
 いや、
 俺は俺たちから見て右手の大陸を見て、その言葉を訂正する。
「いや、そうでもないみたいだな。」
 大陸の右半分は緑がほぼ失われていて、文明社会の印である鈍色が、大地を覆っていた。
 世界が自転し、大陸が常闇に沈む。
 やがて鈍色は、都市の光源であろう橙色色へと姿を変えていった。
 足元を見る。
「北条くん。階段だよ。」
 本堂が一歩踏み出す。
 世界の壮大さに唖然としていたが、俺たちは今、透明な床の上に立っていた。
 そして目を凝らせば、光の屈折や乱反射で、透き通った階段が地上に向けて続いているのが分かる。
「ここから地上に? 」
「アンタはここからはたき落とした方が早いかもね。」
 俺は首をブンブンと振る。
「やめて下さい。死んでしまいます。」
 

 階段は無数に続いているようで、いつになっても地上に辿り着けない。
 それはそうと……
「どうやってリベリオンの奴らを探し出すんだ? 」
「現地の人々に聞いて回るしか、方法はないだろうよ。」
「そんな雲をつかむような話、何年かかるか分からないぞ。」
「いや、方法ならあるわ。」
 と鵞利場。
「彼らがこの世界に来て、大人しく雲隠れしている筈がないでしょ? 」
「きっと何か悪いことをして現地人に捕まっているわ。」
 そう簡単にいくものだろうか?
 なんだってリベリオンだ。
 それに。
「なら別の問題も絡んでくるな。」
 長官も頷いた。
「ああ、異世界人が、気前よく犯罪者を赦してくれるとは考えにくい。」
「それに、万が一リベリオンが捕まっていた場合、別の問題も発生する。」
 俺はそこで頭がパンクしそうになる。
 鵞利場が代わりに答えた。
「世界間の国際情勢に発展するかも。」
 長官が相槌を打つ。
「ああ、リベリオンの処理は最悪彼らに任せてもいい。問題は、このリベリオンの問題をダシに交渉を良いように持っていかれることだ。」
 俺は恐る恐る聞いてみた。
「もし、不平等条約を持ちかけられたら? 」
 長官は何も躊躇わず答える。
「平等社会と、この世界で戦争が起こるだろう。」
「な、ならまた次元の裂け目を閉じれば良い。そして蝠岡の創った、あの機材を壊すんだ。そうすれば、奴らは俺たちの世界に入ってこれまい。」
 長官が真剣な眼差しで俺を見る。
「それをビック・ファーザー様が許して下さると思うか? いや、それより君はこの世界を電脳空間と勘違いしているようだが? 」
 俺は本堂が何が言いたいのか分からなかった。
「ここは蝠岡が創った世界の中だろ? ならデリートすれば良いじゃないか? 」
「なぜビック・ファーザー様は破壊ではなく管理を選ばれたのか。それはあの機材を壊しても、この世界が無くなることがないからだ。」
 なぜこの男は俺すら知り得ない情報を持っているのか?
「あの機材は単なる『転移装置』でしかない。アレを潰したところで、ここの生物が死滅することはないよ。」
 俺は恐る恐る聞いてみた。
「なんでアンタが、蝠岡の元で働いていた俺よりも、ここに詳しいんだ? 」
 鵞利場が頭を下げる。
「ごめんなさい。私たち、貴方の雇い主だっていう蝠岡蝙さんと話をしたの。」
 蝠岡と会っただと?
 
「彼は、この世界が、もう一つの現実だと言った。無を反物質と物質に分けたところから始めた、正真正銘のもう一つの平等社会だよ。」

 頭がついていかない。だが、蝠岡がやったことは、俺が思っている以上にヤバい実験だったらしい。
 そう言われると、俺はますますこの世界を、異世界として認識できなくなった。
「さて、本題に戻すが。」
「我々が交渉で優位に立つ方法。」
 俺は力以外のやり方を知らない。
「この世界からも人質を取る他あるまい。」
 俺は、もちろん反対だ。
「納得できません。」
 鵞利場も苦虫を噛んだような顔をしている。
「北条。少しの犠牲で多くの人を助けることもできるのよ。」
 他国から人質を取る。
 それがどんなにリスクのあることか、馬鹿な俺にでも理解できた。
「人質を取ったからって、戦争を阻止できるとも限らねぇ。返って相手を刺激することになるかもしれない。他の手は? 他の手はねえのかよ。」
「貴方の『同胞』をたくさん殺すことになるわ。恐らく、戦場には能力者が優先して送り出されるでしょうね。」
 鵞利場の言う通りだった。コスト面でも、社会的背景でも、能力者を優先的に徴兵しない理由がない。
 もちろん俺も、最前線に立たされるだろう。
 俺のような比較的能力を持って生まれてきた人間ならまだ良い。
 ほぼ無能力者と変わらない力しか持っていない能力者だって、平等社会には、ごまんといる。
 そう言う人間は問答無用で捨て駒とされるであろう。
 長官が手を叩く。
「まぁ机上の空論だよ。我々はまだ、リベリオンの消息をとらえていない。おっ、階段も終わりに近づいてきたみたいだ。」
 今後の方針を話し合っているうちに、俺たちは、地上にたどり着いていたらしい。
「荒野だ。」
____火花が散った。
 よくよく目を凝らしてみると、武器を持った異世界人たちが、リベリオンと闘っているではないか?
 平等社会で禁止されている「武器」という相手を傷つけるためのものが、ここでは平然と使われている。
 俺たち三人は、遺跡らしい場所から離れるや、すぐさま岩影に隠れた。
 鎖で繋がれた二振の刃を携えた少年が、あれは……そうだ金川と戦っている。
 向こうでは、金色のガードを構える青年が、九条と戦っている。
 そして俺たちは、荒野に横たわる一人の少女を見つけた。
「北条クン。分かっているかね? 」
「あの女に、なんの罪があるっていうんだ? 」
 俺はそう言葉を吐き捨てた。
「アンタがやらないって言うなら!! 」
 長官は鵞利場を遮る。
「待て、私がやる。」
 本堂長官は、岩影から出ると、
「《エクステンド》」
絶対領域パーフェクト・レギオン
 辺り一体で、能力の気配が消え、
 男は少女を抱き抱える。
 それから平等社会人と異世界人とのファーストコンタクトが始まるのであった。
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