平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:2幻略結婚

ぶん殴ってやる

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 俺は助走をつけるとゆっくりと走り出した。
「私たちの神聖な儀式を穢す、不届き者を排除しろ!! お前ら!! 」
 薬漬けになっている人々が俺に向けて襲い掛かってる。
 俺はそいつらを、死なない程度に殴り飛ばした。
 横目で安田を見ると、彼女も足どめを食らっているようだ。
 俺は洗脳されている人間の一人を掴むと、彼女の方へ向けて投げ飛ばした。
 彼女にまとわりついていた人間たちが、崩れ落ちる。
「ありがとう!! 」
 彼女は実弾銃を放り投げると、催眠銃を出現させた。
「一般人に対してバカスカ撃っていいものなのかしら、コレって。」
「知るか。俺よりアンタの方が法律には詳しいんだろ? 」
 よせくる人間の波を、己の肉体のみで押し返した。
 そして俺は内陣へと乗り込む。
 そこで俺の前に現れたのは……
 鵞利場だった。
 彼女は目に涙を溜めながら、拳を掲げている。
 彼女の拳が俺の腹部へと直撃する。
 俺は能力を切った。
 鋭い電流が走る。
 鵞利場の能力。手足に電流が走る。
 手足が思うように動かない。
 心臓が苦しい。
「ええいッ。」
 無理やり右腕を動かすと、自分の胸を殴った。
 心臓が再び動き始める。
「なんで? 」
 聞かれるまでも無い。
「ここで鵞利場と壁を作っちまったら、全部壊れちまうかもしれない。一生後悔するかもしれないからだ。」
「でも私、貴方を殺しちゃうかも。」
「どうせ後悔するなら、自分で未来を選びたい。たとえその先が地獄だったとしても、絶望しても。」
 俺は彼女を優しく抱き抱えると、長椅子に座らせた。
「そこで見ていろ。どっちがお前にふさわしいか、そこで見ていれば良い。」
 俺は教壇の上に立つ彼を見上げた。
「つくづく泥臭い奴ですね。アナタは。」
「ムカつくんだよ何度も何度も、さっさと死んでくれ、この犯罪者風情が!! 」
 普段の大麻からは考えられないような罵詈雑言が彼と共に飛び込んでくる。
 薬物とはどうやらその人物の人格まで変えてしまうらしい。
 いや、その言い方は正しいのだろうか?
 コレが、彼自身の本性なのかもしれない。
 俺は彼の右拳を、両手で防ごうとした。
「ギギギギィ。」
 鈍い音と共に、俺の骨が軋む。
 能力は再び発動させたはず。
「ああ、キミの能力は最強だよ。なんせ大兄弟助が与えた魔法なんだから。」
「だけどね。こうやって、対策してしまえば、キミはただの無能力者だよ。」
 両腕に、金属のメリケンサックのような武器を握っている。
 おそらくあの力で、俺の能力を無力化しているのだろう。
「どういうカラクリかは知らねえが、それも長官の能力の断片だろ。」
「生意気言っていられるのも、ここまでだぞ。お前を嬲り殺しにしてやる。お前は能力者だから不起訴だ。お前が死んでも、俺が罪に問われることはない。私はだからな。」
 当たらなければ、どうということでも無い。
 彼の攻撃は素人そのもの。
 大ぶりで隙が大きい。オマケに身体の使い方がなってない。
 彼は攻撃をやめ、息を荒げている。
 薬が切れかけている証拠だ。
「クソ、化け物めッ。」
 目が流れる血液で赤く染まり始める。
 無理な血液循環で、毛細血管が破れ始めている。
 俺はすかさず彼の腹部に石火をお見舞いした。
「グォォ。」
 生き物らしからぬ声を上げてぶっ飛んだ。
 そして惨めにも腹を抱えて、のたうち回っている。
「ほら、早く立てよ。さっきまでの威勢はどうした? 」
「グボ。」
 吐血している。
 おそらく彼の内臓はもう……
 俺は彼の胸ぐらを掴むと、思いっきりぶん殴った。
「痛いか? コレが殴られた時の痛みだ。」
「ふん、人の痛みも分からない鬼畜生が。偉そうに。」
 鵞利場が俺を突き飛ばし、大麻の前に立ちはだかった。
「もうやめて、私が悪かったから。ごめんなさい。」
「フフフ、こんな貧相な女でも、多少は利用価値があるようだな。」
 彼女が目に涙を溜め始める。
「……今の言葉、もう一度言ってみろよ!! 」
「ああ!! こんな貧相な女、俺のタイプじゃないしな。飽きたら捨ててやる。俺が欲しいのは鵞利場家との繋がりだけだ。」
「このクソやろぉぉぉぉぉぉぉぉ。」
(銃声)
 安田が、大麻の首筋に催眠弾を打ち込んだ。
「……効くものか……私には薬物耐…性…が…… 」
 彼は両膝をつくと、音もなく倒れた。
 みんなの洗脳が解除される。
「あれ…私? 」
 鵞利場も正気に戻ったらしい。
 彼女は混乱していた。
 自分がなぜ泣いているのかが分からないのだろう。
「なんで殺さなかったんだ、奴を。」
 安田はセーフティーをかけ、銃を消滅させる。
「彼を恨んでいる人間は、思いのほか、多いみたいなんだって。」
「なら私が殺してしまったら、他の人間に悪いでしょ。」
「君みたいに。」
 俺はその先が聞いて見たくなった。
「ならコイツはどうするんだ? 」
「もちろん、ちゃんと立件させて、法で裁かせる。」
 法に懐疑的な俺も、今回ばかりは、すんなりとそれを受け入れることができた。
「ところでキミ、民衆を薬漬けにしたトリックを暴けたかしら。」
「ああ、もちろんだ_____

      * * *
 
 深夜なので人通りは少ないわけだが、この格好は流石に恥ずかしい。
 腕の中の彼女が俺に話しかける。
「私、何か変なこと言ってた? 」
 どうやら彼女は、洗脳されていた時のことを覚えていないらしい。
 それは、国際政府の人間も、民衆たちも同じだろう。
 答えはYESだ。
「いいんや別に? 」
 彼女はとても不安そうな顔をした。
「好大さんが、私を洗脳…… 」
 彼女は少しだけ震えているようだ。
「彼はなんて? 」
「お前を一生幸せにするってさ。」
 そういうと、彼女は安心したようだ。
「嘘つき。」
 それ以降、帰宅するまで、彼女は何も言わなかった。
 そうだ俺は嘘つきだ。
 大麻と同じく。
 嘘をつくことでしか、彼女を安心させることができない。
 それぐらいちっぽけな存在なんだ。

 



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