平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:2幻略結婚

間話

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「『快楽ボックスを使い、民衆を麻薬中毒に、人々を扇動して国家転覆。』ね。」
 女は長官室に我が者顔で居座ると、ユートピアタイムズを開いている。
 彼女は復讐を成したのだ。
 しかし、今の彼女の態度を見ていると、複雑な気持ちになる。
 本当は全部、俺を唆すための演技だったんじゃ無いかって。
 それぐらい彼女の「底」は見えなかった。
「なぁ、それより鵞利場の姿が見当たらないんだが。」
 安田はユートピアタイムズを閉じると、顔を上げた。
「彼女は事後処理に追われているわ。大麻の件で一家ともに面目丸潰れでね。それにネットじゃぁ(端末を俺に見せてくる。)彼女のことや、鵞利場家の人間への攻撃が絶えないわ。彼女も鵞利場家も、この一連の事件に関わっていたんじゃ無いかってね。」
 彼女は被害者なのに、俺がなんとかしなくては!!
「お~い。ちょっとキミぃ。もうちょっと後先考えてくれるかなぁ。」
「俺が出て行って何か問題でもあるんですか? 」
 安田がため息をついた。
「君は仮にでも北条家の人間。」
「本家なら、オヤジの代から勘当されてますよ。」
「キミはそう思っていても、世間はどう思うかね。批判の矛先は小子ちゃんや鵞利場家だけでなく、条家の人間にも向くよ。事態をさらに深刻化させるだけだ。」
「それなら尚更ですね。彼らには一泡吹かせたいと思っていたので。」
 長官様は、俺の脚にしがみついてくる。
「ちょーっと待った。北条本家からキミに伝言があるんだ。止まって見てはいかがかなぁ? 」
「なんですかぁもう。」
 彼女は立ち上がると、一通の折形を取り出した。
 俺は、それを煩雑に開封すると、中を読み始めた。
「どう? 本家の人間は今回のキミの働きを評価してくれているみたいよ。」
「ふん。あんな差別主義者どもに褒められても嬉しく無いですよ。」
「君は本家に褒められた。その意味が分かるかしら? 」
「盾として認められた。ですが……彼らにとって盾とはなんですか。自分に都合のいいモノだけを守ってくれる存在ですか? 俺はこう言うところが嫌いなんです。」
「私は北条家がどうあるべきかは分からない。だって北条家の人間でも、条家の人間ですら無いし。」
「でもアナタのやったことは、社会的に評価されることよ。コレで能力者の肩身も鉄道で座席に座れるぐらいには広くなったんじゃ無いかしら。」
「そうだと良いですね。」
 俺は照れ臭くなって、長官室を出ようとした。
「ちょっと待って、まだ解決していないことがあるでしょうが。」
「なんなんですか、もう。俺は仕事に戻りますよ。」
「宜野座、例のモノを持ってきて。」
 秘書の宜野座さんが、アタッシュケースを持ってきた。
 安田が、それを開けて、俺に見えるようにする。
「ナニコレ、業務用アンドロイドの破片ですか? 」
「流石に大麻も、一人であんな大それたことは出来ないわ。必ず協力者がいたはずなの。」
「キミ、護衛任務中に、アンドロイドに襲われたってね。」
「いくらなんでも話を飛躍しすぎでしょ。なんでそれが大麻と繋がるんですか? 」
 安田は肘をついた。
「小子ちゃんは会っていたの。大麻と。」
「他の公安の犯罪課の人間ともね。」
 俺はあの時、必死になって糸の大元を探っていた。
 その時都合よく現れるだろうか、大麻が。
「どうやら、その奇妙な事案は、平等社会だけじゃなくて、ワールド221でも発生しているようでね。事実確認をしているところなの。」
 もう彼女が何を言いたいのかは分かった。
 任務だ。俺に新しい仕事が入ったのだ。
「でも鵞利場場いませんよ。俺一人でやるんですか? 」
「そういうと思っていたわ。入ってきてちょうだい。」
 


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