平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:3 優生思想のマッドサイエンティスト

ブラシ野郎

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---Gravity Timezグラビティ・タイムズ---
 カーミラの身体と世界とで、物理法則が変化したのを肌身で感じ取った。
 が、彼にそんな隙は与えまいと、ブラシ野郎が特攻してくる。
 人間の限界を超えたスピードで。
 脚足裏で能力を発動させると、空間を圧縮し、一気に解き放つ。
 反動でカーミラの前に出た。
石壁セキヘキ
 能力が間に合わないので、武術で対処する。
 ブラシが、俺の拳と激突し、火花を散らしている。
 俺はその間、右目で、もう一人の回転刃の改造人間を追う。
 彼はビルの壁を蹴り上げると、俺に刃を振り下ろしてくる。
 耳を聾する恐怖が俺の頭上に迫ってくる。
 右手で強引にそれを抑えようとした時、横からカーミラが割り込んでくるのが視界に入り、慌てて手を引っ込める。
 彼は回転刃を黄金剣で受け止めると、空中で身体のバネを使い、男を弾き飛ばす。
 それを見た俺も、負けずとブラシの男を左腕で弾き飛ばした。
「なんだ? 今のは? 」
「急に前に出られると困るよ。」
「悪いな。」
「今は説明している暇は無いかなッ。」
 彼はそう言うと、風を斬り、回転刃の男へと一瞬で距離を詰めた。
 俺も彼の後を追い、ブラシ野郎へと足をすすめた。
「サイボーグか? あんちゃんライセンスは? 」
「嘘つきの公安が決めたルールなんぞに従う義理はねえよなぁ!! 」
「生身の人間に『裏』は使わねえって決めてたけどよ。」
「どうやらそうも行かないみたいだな。」
 彼はおそらく全身の臓器を機械に置き換えているのだろう。
 でなければ、今ごろ反動で身体がグチャグチャになっている筈だ。
「なめんじゃねえぞ!! 」
(キュイーン)
 耳を刺すような金属の悲鳴が、俺に再び襲い掛かる。
 俺に力が有れば、暴力なんて必要ないのだろう。
 だが、今はこうするしか無い。
【裏天岩流】
【漆ノ岩】
石嵐セキラン
 左腕で距離を測り、右腕を後ろに大きく振り絞る。
 石火セッカ穿石センセキのような右ストレート。
 だが、それらの武術とは大きな違いがあった。
 腕のスナップを効かせて、拳を限界まで捻る。
 左腕で狙いを定め、拳を抉り込むように打ち込む。
「グギギギギギ。」
 彼の身体の中で、金属がひしめき合い、嫌な音を出している。
 石嵐はスピードや汎用性では他の技に劣る。
 しかし、溜めが必要な分、それら二つには無い、圧倒的な破壊力があった。
 対象を内部から破壊する力。
 それがこの技の恐ろしいところだ。
 主電源がやられ、ブラシ男の武器が停止する。
 そのまま気絶した彼を確かめてから、壁を走りながら戦っているカーミラを見た。
 回転刃の男のスピードに、生身のカーミラが的確に対処している。
 そればかりか、壁の上でバックステップをして見せていた。
 彼の戦い方からは、重力という法則を感じられない。
 まるで彼の存在だけが、別次元のようだ。 
 回転刃を見切りで交わし、敵の懐に潜り込むと、確実に一発当てていく。
 彼が、再び男と距離を取ろうとしたその時、
 回転刃が男の腕から解き放たれ、カーミラへと襲いかかる。
 突然の奇襲に、彼は大勢を崩した。
「貰ったぞぉ!! 」
 男がその隙を見逃すはずが無かった。
 一気に距離を詰めて、左腕から腕を抜き取ると、二本目の刃を取り出す。
「くっ。」
 彼は後ろに大きくのけぞったまま、左手で、腰の短剣を抜いた。
 次の瞬間。
「どこだ? 」
 彼の姿が消える。
 カーミラは男の後ろに回り込むと、黄金剣を突き立てた。
 男もそれに気がついたようで、(ただのチンピラでは無いようだ。)身体を大きくそらすと、攻撃を避けた。
 されども壁の上で大勢を崩す素振りすら見せない。
 俺は彼の足元を凝視した。
「マグネットか。」
 電気磁石で、うまくバランスをとっているのだ。
 だがカーミラの攻撃は終わらない。
 空間転移と、圧倒的スピードを駆使したヒットアンドウェイが繰り返される。
 流石に男の方も、彼への対処に遅れ始めていた。
 そして……
 彼の腹部へとカーミラの剣が突き立てられる。
「ガシャ。」
 肉の音らしからぬ乾いた音。
 カーミラは男を左腕で担ぎ上げると、こちらに降りてきた。
「これ、どうしたら良い? 」
「待ってろ。公安と、レスキューに連絡する。」
 
 その後、すぐに公安が駆けつけて、彼らを取り押さえた。
 彼らは、アンチサイボーグ施術を受けた後に、お仕置き部屋でみっちり扱かれるらしい。
 彼らの行動が間違っていたとしても、彼らの、その言い分には否定できないところがある。
 俺はその事で複雑な気持ちになった。
 社会に反感を持つ人間を締め上げて、平等社会にとって都合の良い人間にへと『矯正』する。
 これは本当に正しい行いであるのか。
 ふとカーミラの方を見た。
 彼も複雑な顔をして悩んでいる。
「明らかにアイツらは『切り捨てられる』側の人間だ。」
 彼は俺の言葉に相槌を打った。
「ああ、勿論だよ。彼らの、お仲間が僕の国の人間を殺した。能力反応が出なかったんだ。十中八九、彼らの仕業だろう。」
「さぁ行こうぜ。どっちにしろアンタが王として義務を果たすためには、アイツらを切り捨てなきゃいけないんだからさ。」
「ごめん……僕はまだその覚悟が出来ていないだけなのかもしれない。」
「慎二にも、アスィールにも誓ったはずなのに。」
 俺は話題を変えることにした。
「それよりなんだよ。さっきの高速移動は? 」
「ああ。」
 彼はなんの躊躇いも見せない。まぁ俺とて彼に、やましい気持ちなどこれっポチもないのだが。
「僕の周りの時間だけを重力操作で加速させたんだよ。」
「コレ、結構難しいんだよ。自分の周りだけ次元を切り分けて、その空間だけの重力を急激に変化させないといけないんだ。じゃ無いと、敵の時間まで操作してしまうからね。」
 話を聞くに、それと反対のことは出来ないようだった。
 俺も、自分の能力で、それを応用できないか考えたが、重力操作を行うことが出来ない俺には到底無理だろう。
 さっきみたいに、空間を押しつぶして反発力で移動することぐらいが関の山だ。
 そう言っているうちに俺たちはゲートを潜って、異世界へと向かっていた。



 

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