平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:4火星の叛逆者

監獄マールス

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「ご用件は? 」
「兄に会いにきたんです。」
 俺と鵞利場は同時にパスポートを提示した。
「ああ、話は聞いている。君の兄さんも喜ぶだろう? 」
 怪しまれることが無かったのが幸いである。
 多分ここの受付のシフト制なのだろう。
 だから名前と顔の整合性が、彼らの間で共有されていない。
 だからパスポートさえ偽造できれば、簡単に監獄へ入り込むことが出来るのだろう。
 錆臭さとカビ臭さが混じった嫌な匂いに鼻をつまむ。
 ここはとても暗い。(明るい監獄など、存在するはずがないが。)
 雰囲気がまず暗い。
 俺はなぜそう思うのか少し当たりを見回して考えてみた。
「光源が少ない。」
 コストの削減だろうか、光源が少ないと、それだけ脱走のリスクが上がる気がするが、それに脱走を試みる囚人が増えて、逆に看守の労力が増えるのでは?
 それにここは太陽の陽も届きにくい場所だ。そのせい昼間でも薄暗い。
 こんな場所に住んでいて、病気にはならないのだろうか?
 それにあちこち埃まみれだ。
「どうしたボウズ、何か気になることがあるのか? 」
「ここの掃除は誰がしているんだ? 」
「囚人が当番制でな。なにしろここに来た屑野郎にそんなことをする気力なんてねぇよ。当番なんて名ばかりだ。そんなことをしたって、何も自分の得になるわけでもねえし。」
「少し前までは几帳面な奴がいて、ソイツがやっていたんだが、ソイツも釈放されて居なくなってからこのザマよ。」
「良いのか? 掃除をさせなくて。」
「良いんだよこれで。国際政府もこんな辺境の囚人にコストをかけてられないんだ。」
「だからこんな場所にスクラップどもを隔離している。」
 行く先々で、両側から俺たちに鋭い眼光を向けられる。
 俺は気にせずに前だけを見た。
「ホラ、ついたぞ。面会室だ。」
 俺たちは古びた椅子に腰をかけると、窓の向こう側から囚人服を来た男と、看守服を着た青年が出てきた。
「オイ、オマエ、あとは頼んだぞ。」
 俺たちの会話を監視する為ためだろうか? 青年は毅然とした態度でドアの前に立っている。
「ったく。んな俺は受付の業務に戻るから、なんかあったら知らせろ。」
 そういうと、看守は部屋から出ていった。
「よくきたな鵞利場。」
 俺は慌てた。看守の見張りがいるのに、この男は鵞利場を本名で読んだからだ。
「大丈夫よ北条。あの人も公安の潜入官。私たちの味方だから。」
「こんにちは鯣雑エキゾウさん。」
 それから彼は、俺の方を見て話した。
「君が北条くんだね話は聞いている。」
「自己紹介が遅れたね。私は魚鯣雑さかな えきぞうだ。」
「どうだ。本堂長官は元気か? 」
 鵞利場は黙り込んでしまう。
 彼はそれから何も聞かなかったが、俺たちの心境を察したようで、話題を転換させる。
「さて本題だが。」
「この監獄に、リベリオンの内通者がいる。」
 彼は俺たちに一枚の写真を差し出した。
「この女だ。後であそこの看守に運ばせる。」
 見たところ、なんの変哲もない二十代後半の女性といったところだ。
「なぜ? 根拠は? 」
「彼女だけだ。ここ一週間で外出し、外を出歩いたのは。」
「監視は? 」
「そこにいる彼にやってもらった。だが目立った動きは無いようだった。」
 俺は扉の近くの看守を睨む。
 彼は軽く咳払いをするだけだ。
 俺は彼女の詳細プロフィールを見た。
 能力は……危険度ランク1:身体強化。
 そんなに恐ろしいものでは無かったが、問題はその罪状だ。
『執行者及びスキルホルダーの大量殺害。』
「なんでこんなに恐ろしい奴が、ここに来ているんですか? 」
「それよりも…… 」
「そうだ。ランクに対して罪状が重すぎる。そもそもこの能力じゃ、公安のスキルホルダーを一人殺せるかも怪しい。」
「私たちの任務とは…… 」
「そうだ鵞利場ちゃん。君たちには彼女の事情聴取をしてもらう。」
「奴らに俺たちの顔は割れているぞ。」
 彼は苦虫を噛み殺した。
「承知の上だ。もう時間がない。彼らは大麻の件や、リングィストの件の裏側で、着々とその準備を整えていた。」
「もう彼らは平等社会に攻め入る気だ。すぐにでも。」
「今日は我々が用意した来客用のホテルで一泊して、明日彼女に会うと良い。」
「明日は今日の看守が非番の日だ。」
「アンタは? アンタにも協力してほしい。」
 彼は両手を広げると、首を傾げてみせた。
「私にはまだ九百年分の刑期が残っている。ここから出ることなんて出来ないよ。」
「アンタ、公安の潜入官だって…… 」
 それを遮るように、鵞利場が俺の手を引いた。
「行こうお兄ちゃん。もう時間だよ。」
「健闘を祈る。必ず平等社会を救ってくれ。」



 
 
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