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ファイル:4火星の叛逆者
冷たい殺意
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俺は目を細めて意識を集中させるが、彼女の攻撃はまるで見える気がしなかった。
右ストレート左回し蹴り。
俺はテーブルの上のコーヒーのマグカップを持ち、ベルフェ向けて投げつけた。
それを事前に予測していた彼女は、武器の傘を開くと、それを防御する。
傘が閉じられると共に、左ストレートが俺の鼻に直撃した。
防御姿勢すら取らせない速さとパワー。
彼女の攻撃はまだ終わっていない。
そのまま威力を殺さずに、回転しながら飛び上がっているのが見える。
"ここは威力を殺さず後ろに下がる。"
俺の目の前で、彼女の華奢な脚が振り落とされて、俺の鼻先を掠った。
俺が予想していたよりも、射程がだいぶ伸びている。多分関節が柔らかいのだろう。
俺はすぐさま体勢を低くした。
傘の水平切りが迫ってくる予感がしたからだ。
俺の予想通り、俺の頭上で何かがサシュっと通り過ぎた。
続く振り下ろしを後方転回で避ける。
"しまっ、着地狩り!"
足元を傘で払われた俺は体勢を崩して無様に倒れる。
そこに飛んできた銃弾を猫のように飛び上がりながら避けてから、裏路地へと逃げ、角で倒れ込んだ。
「凄いでしょ。私。女鳥姉さんや、鋼座右衛門さんにも負けたことないのよ。」
カタ…カタ…と足音が聞こえてくる。
その余裕が俺にとっては何とも不気味だった。
奴は俺に勝てると、そう確信している。
「ソイツは凄えな。で?さっきの攻撃に名前とか無いの? 」
そういうと、彼女はクスッと笑い、
「無いわよ。そんなの。私は武家じゃ無いし、そもそも生まれてすぐに、教会に捨てられたのよ。」
と答えた。
足音がだんだん近くなってくる。
この先は行き止まり。
さっきのは俺の位置を確認するための会話だったのか。
だが、どちらにせよ。この先は行き止まりだ。
上に逃げるにしても彼女は容易に追ってくくるだろう。
行くも帰るも……
なら!!
俺は彼女の前に飛び出すと、意を決した。
「守っているだけじゃ勝てない。」
そうだ。さっきから俺は能力で彼女の攻撃を見切り、防御に徹することで精一杯であり、彼女と闘おうとしていなかった。
この能力は守る為だけのものでは無い。
リングィストと戦った時、そう感じた。
自分の能力を広げて他者を自分の場所に引き込むことだってできる。
俺は自分を覆うこの能力を少しだけ広げる。
彼女の閉じられた傘が、俺の領域に触れたことを感じ取る。
コンマ一秒先の彼女のモーションを予測して、少し左によけると、渾身の右ストレートを放つ。
【石火】
裏天岩流最速の技。
それが彼女の柔らかい腹部へとネジのこまれた。
アバラが何本か逝ったのが肌身で感じ取れる。
しかし彼女は表情ひとつすら変えなかった。
逆に左腕で俺の腹部を抉り、建物の屋上へと投げ飛ばす。
打ち上げられ、背中に強い衝撃を受けた俺を跳躍で上がってきた彼女が見下ろしている。
「アハハ。九条さんが言った通り、アナタ痛みに弱いのね。」
彼女は口から血を垂らしながら傘を俺の喉笛へと押し当てる。
いや、そんなことは無い。
俺は確実に痛みへの耐性が付いている。
自分の『殻』を破ったその日から。
本当の痛みを、本当の悲しみを知り始めている。
俺は足を回転させ、今度は彼女を転かした。
彼女は倒れるが悲鳴一つすら上げない。
「アンタは……痛いのか? アバラが折れたことが分かっているのか? アバラが折れると、人はどれほどの苦痛にもがき苦しむか分かっているか? 」
彼女のファイルには、彼女の能力は軽い身体強化だと書かれていた。
だが、戦ってみて分かった。
彼女は能力以前に、彼女自身の身体が常人を逸している。
「君も他のスキルホルダーたちと同じことを言うのね。」
俺は深呼吸した。
なんか
呆れたというか
吹っ切れたというか
それは彼女にではなく、彼女のことを信じていた過去の自分に……だ。
「やっぱりアンタは狂っているよ。狂ってて安心した。」
彼女はこの言葉を聞いても眉を1ミリたりとも動かすことは無かった。
多分コレは彼女の体質から来ている反応ではなく、彼女の置かれていた環境から来るものだろう。
彼女の痛みを理解出来るわけでもないが、何か親近感が湧くのだ。
どこかそういうところが、自分が彼女に惹かれていたところなのかもしれない。
だがこういう歪んだ自己愛こそ、ふと気が付いた時に吐き気がするモノだ。
「残念……ね。君になら理解してもらえると思ったのだけど、この感情。」
「過去の俺ならば……な。」
「でも、今は違う。俺は痛みというモノを知った。」
俺は両手のネットワーク障害で機能しなくなった手錠を掲げる。
「最初はタダの枷だと思っていたんだ。でもそれは違う。彼女が教えてくれた。」
クスススススススス
ベルフェの失笑を見た。
彼女はこんな顔も出来るのだ。
「スッカリ公安に染まっちゃって。手懐けられたワンちゃんみたい。」
「ああ、昔の俺ならそうやって嘲笑していただろうよ。だが今の俺はアンタとは違う。他人の痛みを知っているし、だからこそ……俺は、お前を止めないと行けないと思っている。」
「余計なお世話ね。私にもリベリオンにも。」
「余計なお世話はこっちのセリフだ人格破綻者。俺は俺の好きにさせてもらうぜ。」
[今のアナタたちの置かれている環境が続いたとしても?]
その言葉に一瞬心が揺らいでしまう。
だが、俺は決めた。
自分で能力者が無能力者と共存できる道を探す。
彼女はその一瞬の隙すら見逃さない。
素早く足元の砂を撒いてくる。
手で払えば視界が狭まる。
目を瞑れば視界が閉じる。
凝視すれば目がやられる。
ならばどうするか
【 滑昇風】
身体を大きく後ろに倒し、体勢を崩すフリをしながら、右脚で膝蹴りを放つ。
この技を、ここまで取っておく甲斐があった。
思いもよらぬ初見殺しで、やっと彼女の動揺する姿を見ることが出来た。
全身のバネと、能力の反発力を利用し、さらなる追撃に挑む。
空を舞う対象にて使える武術。
【天岩烈破】
岩戸を塞ぐ岩をも砕く俺のアッパーが彼女の顎にクリーンヒットした。
俺は着手すると、宇宙から落ちてくるベルフェをガッチリ受け止めた。
「身体が上手く動かないだろう?さっきの仕返しだ。」
脳震盪を起こしている彼女は上手く喋ることが出来ていない。
だから代わりに俺が話してやることにした。
「お前は殺さない。だって俺は公安の犬じゃないからな。殺せとも言われたっけ。でも無力化しろとも言われたからな。」
俺は彼女が動けるようになる前に、彼女を近くの電信柱にくくり付つける。
「悪いな。俺たち信用されてなくてさ。手錠なんて貸してくれないんだわ。」
俺はベルフェに手を振ると、九条と戦っている鵞利場の元を急いだ。
右ストレート左回し蹴り。
俺はテーブルの上のコーヒーのマグカップを持ち、ベルフェ向けて投げつけた。
それを事前に予測していた彼女は、武器の傘を開くと、それを防御する。
傘が閉じられると共に、左ストレートが俺の鼻に直撃した。
防御姿勢すら取らせない速さとパワー。
彼女の攻撃はまだ終わっていない。
そのまま威力を殺さずに、回転しながら飛び上がっているのが見える。
"ここは威力を殺さず後ろに下がる。"
俺の目の前で、彼女の華奢な脚が振り落とされて、俺の鼻先を掠った。
俺が予想していたよりも、射程がだいぶ伸びている。多分関節が柔らかいのだろう。
俺はすぐさま体勢を低くした。
傘の水平切りが迫ってくる予感がしたからだ。
俺の予想通り、俺の頭上で何かがサシュっと通り過ぎた。
続く振り下ろしを後方転回で避ける。
"しまっ、着地狩り!"
足元を傘で払われた俺は体勢を崩して無様に倒れる。
そこに飛んできた銃弾を猫のように飛び上がりながら避けてから、裏路地へと逃げ、角で倒れ込んだ。
「凄いでしょ。私。女鳥姉さんや、鋼座右衛門さんにも負けたことないのよ。」
カタ…カタ…と足音が聞こえてくる。
その余裕が俺にとっては何とも不気味だった。
奴は俺に勝てると、そう確信している。
「ソイツは凄えな。で?さっきの攻撃に名前とか無いの? 」
そういうと、彼女はクスッと笑い、
「無いわよ。そんなの。私は武家じゃ無いし、そもそも生まれてすぐに、教会に捨てられたのよ。」
と答えた。
足音がだんだん近くなってくる。
この先は行き止まり。
さっきのは俺の位置を確認するための会話だったのか。
だが、どちらにせよ。この先は行き止まりだ。
上に逃げるにしても彼女は容易に追ってくくるだろう。
行くも帰るも……
なら!!
俺は彼女の前に飛び出すと、意を決した。
「守っているだけじゃ勝てない。」
そうだ。さっきから俺は能力で彼女の攻撃を見切り、防御に徹することで精一杯であり、彼女と闘おうとしていなかった。
この能力は守る為だけのものでは無い。
リングィストと戦った時、そう感じた。
自分の能力を広げて他者を自分の場所に引き込むことだってできる。
俺は自分を覆うこの能力を少しだけ広げる。
彼女の閉じられた傘が、俺の領域に触れたことを感じ取る。
コンマ一秒先の彼女のモーションを予測して、少し左によけると、渾身の右ストレートを放つ。
【石火】
裏天岩流最速の技。
それが彼女の柔らかい腹部へとネジのこまれた。
アバラが何本か逝ったのが肌身で感じ取れる。
しかし彼女は表情ひとつすら変えなかった。
逆に左腕で俺の腹部を抉り、建物の屋上へと投げ飛ばす。
打ち上げられ、背中に強い衝撃を受けた俺を跳躍で上がってきた彼女が見下ろしている。
「アハハ。九条さんが言った通り、アナタ痛みに弱いのね。」
彼女は口から血を垂らしながら傘を俺の喉笛へと押し当てる。
いや、そんなことは無い。
俺は確実に痛みへの耐性が付いている。
自分の『殻』を破ったその日から。
本当の痛みを、本当の悲しみを知り始めている。
俺は足を回転させ、今度は彼女を転かした。
彼女は倒れるが悲鳴一つすら上げない。
「アンタは……痛いのか? アバラが折れたことが分かっているのか? アバラが折れると、人はどれほどの苦痛にもがき苦しむか分かっているか? 」
彼女のファイルには、彼女の能力は軽い身体強化だと書かれていた。
だが、戦ってみて分かった。
彼女は能力以前に、彼女自身の身体が常人を逸している。
「君も他のスキルホルダーたちと同じことを言うのね。」
俺は深呼吸した。
なんか
呆れたというか
吹っ切れたというか
それは彼女にではなく、彼女のことを信じていた過去の自分に……だ。
「やっぱりアンタは狂っているよ。狂ってて安心した。」
彼女はこの言葉を聞いても眉を1ミリたりとも動かすことは無かった。
多分コレは彼女の体質から来ている反応ではなく、彼女の置かれていた環境から来るものだろう。
彼女の痛みを理解出来るわけでもないが、何か親近感が湧くのだ。
どこかそういうところが、自分が彼女に惹かれていたところなのかもしれない。
だがこういう歪んだ自己愛こそ、ふと気が付いた時に吐き気がするモノだ。
「残念……ね。君になら理解してもらえると思ったのだけど、この感情。」
「過去の俺ならば……な。」
「でも、今は違う。俺は痛みというモノを知った。」
俺は両手のネットワーク障害で機能しなくなった手錠を掲げる。
「最初はタダの枷だと思っていたんだ。でもそれは違う。彼女が教えてくれた。」
クスススススススス
ベルフェの失笑を見た。
彼女はこんな顔も出来るのだ。
「スッカリ公安に染まっちゃって。手懐けられたワンちゃんみたい。」
「ああ、昔の俺ならそうやって嘲笑していただろうよ。だが今の俺はアンタとは違う。他人の痛みを知っているし、だからこそ……俺は、お前を止めないと行けないと思っている。」
「余計なお世話ね。私にもリベリオンにも。」
「余計なお世話はこっちのセリフだ人格破綻者。俺は俺の好きにさせてもらうぜ。」
[今のアナタたちの置かれている環境が続いたとしても?]
その言葉に一瞬心が揺らいでしまう。
だが、俺は決めた。
自分で能力者が無能力者と共存できる道を探す。
彼女はその一瞬の隙すら見逃さない。
素早く足元の砂を撒いてくる。
手で払えば視界が狭まる。
目を瞑れば視界が閉じる。
凝視すれば目がやられる。
ならばどうするか
【 滑昇風】
身体を大きく後ろに倒し、体勢を崩すフリをしながら、右脚で膝蹴りを放つ。
この技を、ここまで取っておく甲斐があった。
思いもよらぬ初見殺しで、やっと彼女の動揺する姿を見ることが出来た。
全身のバネと、能力の反発力を利用し、さらなる追撃に挑む。
空を舞う対象にて使える武術。
【天岩烈破】
岩戸を塞ぐ岩をも砕く俺のアッパーが彼女の顎にクリーンヒットした。
俺は着手すると、宇宙から落ちてくるベルフェをガッチリ受け止めた。
「身体が上手く動かないだろう?さっきの仕返しだ。」
脳震盪を起こしている彼女は上手く喋ることが出来ていない。
だから代わりに俺が話してやることにした。
「お前は殺さない。だって俺は公安の犬じゃないからな。殺せとも言われたっけ。でも無力化しろとも言われたからな。」
俺は彼女が動けるようになる前に、彼女を近くの電信柱にくくり付つける。
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