平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

文字の大きさ
72 / 107
ファイル:4火星の叛逆者

始まりの魔法使い

しおりを挟む
 俺がラストプリズンに着く頃には、背中の爆弾の時報なんていくつ聞いたか覚えてはいないが、感覚的に、一二時間が経つまであと一、二時間だと思っている。
 それまでに俺は九条念を殺さなくてはならない。
 鵞利場にはあんなことを言ったが、一つに二つは選べない。
 彼女を殺さなければ、俺の背中のコレは爆発し、最悪彼女のことを巻き込みかねないからだ。
 俺がラストプリズンの最新部にたどり着いた時、すでに二人は対峙しており……
 決着はほぼついたも同然であった。
 九条の四肢はもがれており、そばには傷だらけでかろうじて立っている鵞利場の姿が。
 彼女は俺を見ると、ふらりと倒る。
「さぁ力、九条さんを捕まえて、今上に連絡するから。『生捕りにしたから爆弾解いてください。』って。」
 彼女は俺を思ってそう言ってくれているそれは受中承知だ。
 だが、それを上層部が飲んでくれることは……おそらく無いだろう。
 もし、上層部がその条件を飲んでくれたとしても、九条は身体中をいじくりまわされて、最後は脳髄を引っこ抜かれて、無能力者たちの腕におさまるだけだ。
 それが彼女にとって幸せ……か。
 答えは最初から決まっていた。
 俺には彼女を殺す義務がある。
「ちょっと待って!!何しようとしているの? 」
 彼女ももう気づいただろう。
「嘘つきッ。」
 彼女は泣いていた。
 俺を責めるのでは無く泣いていた。
 コレだから。
 コレだから、女は嫌いなんだ。
 感情的ですぐに情に訴えかける。
 その彼女の言動が、俺に更なる罪悪感を植え付ける。

 自分だけ助かろうとしていることについてか?

 肉親を殺そうとしていることについてか?

 それとも彼女との約束を破り、彼女を傷つけたことか?

 俺は悪い人間だ。
 全てを裏切り、自分の目的のために利用しているのだから。
「そうやって楽な方に逃げても何も変わらないわよ。」
 俺はその鵞利場の言葉になぜかカチンと来た。
 彼女の言っていることは正しいのに。
 彼女は俺のためにそう言ってくれているのに。
 間違っているのは俺なのに。
「だったらどうしろっていうんだ? このまま死ねっていうのか? 」
 俺の押さえていた理性が爆発する。
 もう、冷静さなんて保ってられない。
「それだけならまだ良い。死んでも良いさ。。」
「俺もどうすれば良いか分からないんだよ。能力者も、無能力者も護りたい。だけどどっちかなんて選べないんだよ。どちらかの味方になるか、どちらかの敵になるしか無い。少なくとも奴らにはそう見えている。俺たちがどう考えようとも……だ。」
 今、この閉鎖的な空間で、後頭部のコレが爆発すれば、九条も、鵞利場も俺の爆発に巻き込まれて死ぬだろう。 
 今の満身創痍の状態では確実に死ぬ。
 間違いなく。
「俺はお前を殺したく無い。だから俺はアイツを…… 」

「コロス。」

 俺は重い足を引き摺りながら、彼女の元へと迫る。
 その間も彼女は必死に本部へとコールをしていた。
 だが、繋がる様子は一向にない。
 虚しくもコール音だけが響いていた。
 俺が彼女の元に歩み寄ると、彼女は安堵の表情を見せた。
「なぁ力。人の愛は素晴らしいな。」
「まざかアンタがやられるなんてな。」
「そう、あの子はとても強かった。生捕ることは殺すことより難しい。乾杯だ。」
「……」
 俺は腰から毒薬を取り出した。
「殺して……くれるのか? 」
「ああ、コレは俺がやらなきゃならない。出来るだけ苦しまないように殺してやる。毒薬を飲め。そしたら痺れが来る前に首を落としてやる。」
 俺が彼女の口に毒薬を注ごうとしたその時。
 ことは起こった。
 奥で拘束されていた能力者。(脳は謎の機材にすっぽり覆われており、男か女かはわからない。)の両手両足の拘束が解かれ、システムダウンする。
 そして、覆面がスッカリ取り除かれると、男はゆっくり立ち上がり、俺から九条を取り上げた。
「汝だな。この俺を長き封印から解放したのは…… 」
 彼の声を初めて聞いた。
 俺は彼の名を知っている。
「大兄弟助ッ。」
 過去に一度、能力者たちを引き連れて、反乱を起こした張本人。
 平等社会きっての大罪人。
 始まりの魔法使い。
「ほう、よりによってお前がコイツを…… 」
 彼はそう意味ありげな言葉を発してから、監獄のテラスの開けている場所へと飛び出した。
 そして空高く登ると、能力者たちに向けて、スピーチを行う。
[虐げられる哀れな子羊たちよ!! 刮目せよ!! 世は帰ってきた!! ]
 脳内に直接響いてくる嫌な音。
 鵞利場も耳を押さえて震えている。
 おそらく能力者たちの脳内に直接話しかけているのだ。
 彼に出来ないわけがない。
 だって彼は、能力者たちすべての脳をいじくりまわしたのだから。
 肌の色を判別できるのも、目の色を判別できるのも、すべて彼が俺たちの脳をいじくりまわしたからだ。
 コレぐらいのことができない訳がない。 
 スクリーンに慌てた様子のビック・ファーザーが映る。
[おい!! コレはどういうことだ!! ファッ? 私? なぜ私の顔がスクリーンに映っている? 今すぐ止めろ。避難する準備だ!! ]
 情けない声を上げる彼を側近のオブライエンが必死に引き留めていた。
[何を……落ち着いてください。閣下。]
 そう、彼は清々しいほどに落ち着いていた。
 まるでこの出来事を予期していたようである。
 スクリーンに映る彼へ向けて、大兄弟助は激励を送った。
「大義であったぞオブライエン。今までお勤めご苦労だった。情報収集を行い。羊たちを導き。そして世を復活させた。」
[またまた、かたじけない。全知全能のアナタ様なら、小生の行いなど、必要なかったはず。ただただ、アナタ様を思うと、この矮小な行動を抑えきれなかっただけでございます。どうかお許しください。」
 そういうと、彼は頬を膨らませてそっぽをむいた。
「お前のその堅苦しいところ。世は嫌いじゃ。」
 彼は持ち上げた彼女向けて、指を弾き、その行動とともに、彼女の四肢が再生される。
「汝にはリワードをやらねばならぬな。」
 彼女は目を開け、不敵に笑うと、大兄弟助の横に静止した。
「何が……どういうことだ? 」
「言ったな北条。私はまだ死ねないと。みんなのためにも。」
「お前のためにも。」
 鵞利場はなんとか立ち上がると、空に浮かぶ二つの化け物を見た。
 そして弟助は俺に手を翳す。
 俺の中で何かが引き抜かれそうになったが、その何か が俺の身体に縛り付き、同時に弟助は苦虫をすりつぶした。
「どうやら能力はお前を気に入ったようだ。」と。
 俺は自分の本質が引っ張り出されたような気がして、咄嗟に叫んだ。
「やめろ!!俺の能力に何をした? 」
 彼はキョトンとした顔をしてからその言葉の意味を理解してから、腹を抱えてクスクスと笑い出す。
か。」
「どうやら鈍いお前はまだ気がついていないようだな。九条だって、金川だって言わなくても気が付いていたぞ。最も、俺のフューチャー・ジャッジメントが、未来を修正するために、新たな魔法を生み出すとは思っていなかったがな。思わぬ誤算であったし、世も知らない魔法の使い方があったとはまた賢くなってしまったわけだが。」
 その時、俺は全てを察した。
「この能力は、俺のものでは無い、彼が俺に貸し与えた物だと。」
「やっと能天気なお前でも飲み込めたようだな。」
「自分だけが特別だと。そう思って、そう自惚れていたのだろうが、それは違う。」
「いつだって人間は愚かだ。」
「そうは思わないか? 北条力。」
「他人から与えられたモノを、自分の力だと勘違いし、自惚れて、他者を見下し、肥えていくサマは。」
「全く。コレだから人間は捨てられんのよ。」
 それから彼の表情は嘲笑から憤怒へと変わる。
「だがな北条。」
 声のトーンは徐々に低くなっていく。
「喜べ。俺の掘り出し物は、どうやらお前を選んだようだ。」
「世は、能力を返してほしい。」
「だが、能力は帰ってこない。」
「ならどうするか? 」
 

<<<<<<<<<殺してでも奪い取る>>>>>>>>





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!

アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。 思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!? 生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない! なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!! ◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

四人の令嬢と公爵と

オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」  ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。  人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが…… 「おはよう。よく眠れたかな」 「お前すごく可愛いな!!」 「花がよく似合うね」 「どうか今日も共に過ごしてほしい」  彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。  一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。 ※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...