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ファイル:5ネオ・リベリオン
その後
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俺は病室で脚を吊られながら、看護師さんに、腹部の包帯を変えてもらっている。
「アイタタ!! もっと優しくお願いします。」
「もう!! 動かない!! 男なのに情けないですね。」
誰だってこんな光景見たのなら、不謹慎でも笑ってしまうだろう。
だが、それが、この馬鹿どのだということが癪に障る。
「どwうしwてアナタはいつもいつも、そうなるのかしら。」
「うるせえ。俺だって好きでこんな格好をしているんじゃねえよ。」
正式に総統に任命された上司様に俺は指を刺した。
「第一、原因はアンタにもあるんだぞ。労災だ労災。」
「オイ、いつまで笑っていやがる。」
小子は、ツボにハマっており、なかなか抜け出すことが出来ないようだ。
「ホラホラ、ちゃんと安静にしてないと、治らないわよ。」
本堂が、病室のテレビをつける。
テレビには、髪を剃られた無様なビック・ファーザーが、マスコミ各社のシャッターを浴びていた。
罪人に群がるハイエナ供の中には、俺が審判を受けた日に、俺に向かってシャッターを切っていた記者の姿もあった。
「独裁者め地獄に堕ちろ!! 」
「人間のフリをした豚め!! 」
「自由を勝ち取ったぞ。」
野次馬たちは、記者に雇われたサクラだと、そう信じたい。
コレも安田倫子の思惑だとは信じたくも無いが。
俺の感情を理解した本堂が、俺の肩をポンポンと叩く
義手の『ギシ』という重い音と共に身体が軋む。
「アタタタ。」
「時代が変わったんだ。時代が変われば人々の価値観も変わる。そんなに悲観的な目で人を見てはいけないよ。」
俺は頬を膨らませて、彼を指さす。
「アンタみたいな柔軟に動ける舌が何枚もあるような人間こそ出世をする。そういうところが気に入らないんだよ俺は。」
本堂はそれを鼻で笑う。
「私は歯向かって小馬鹿にされるより、逃げて嘲笑される方が好きだからね。結局そういう人間って言うのは、憎い相手をどうにかして貶めてやりたいものさ。」
俺は再びテレビを見た。
俺はかつての自分にビック・ファーザーを重ねてしまう。
気持ちが悪くなったので、チャンネルを変えることにした。
そして話題を変える。
「金川はどうなった? 」
その問いに小子が答える。
「安田総統が、恩赦なされました。」
「GPS付きだと言う条件で。」
そこに本堂が割って入ってくる。
「大変だったのだよ。安田君は。無能力者の一部支持者から猛烈な抗議電話を受けてね。能力者の中にも彼を非難するモノもいたわけだから。驚きだよね。」
俺は首を横に振る。
「いや、何もおかしいことなんてないよ。彼らのせいで、無関係な能力者が貶められていた面もあるから。」
本堂はしばらく考え込んだ。
それから口を開いた。
「そう考えると、元リベリオンの人間に印を残さなかった安田君はグットだね。」
今度は俺が悩んだ。
「その分、世論の矛先は、金川に集中するだろうな。」
「良いじゃない。いい薬になるでしょう。あんなことをしたんだから。」
「そうだな。」
俺は適当に返事をした。
リベリオンで殺しをやっていた人間は大勢いる。
彼はもちろん、九条も。
その怒りの矛先は全て金川に向けられることになる。
そのことには納得が行かないが、コレも彼のケジメ。
彼も、また彼女たちと新たな一歩を踏み出そうとしているのだ。
「それより、浪人専用の職業訓練場の件、ちゃんと話をつけてくれたか? 」
「ああ、着実に進んでいるよ。議会の中には『ガス抜きのために、スラム街は裏社会として存在させておくべきだ。』という意見もあったわけだが。安田君は『能力者と無能力者の溝を埋めただけでは世界は変わらない。』と言う言葉で押し切ったらしい。」
「フン、彼女らしくないな。もっと合理的な理由だと思ったぜ。」
本堂は眉をハの字に曲げた。
「彼女は君が思うより、ずっと義理堅いのだよ? 今回の件も、君の意見だと聞いたら、返事二つで聞いてくれた。」
「大麻の件、彼女は君に凄く感謝をしているみたいだ。」
今度は俺が眉をハの字に曲げた。
「だったら、直接言いに来れば良いのにさ。この命の恩人様にさ。」
ゴツん。
「んってえな。」
「浮かれていないで、怪我が治ったら、早く仕事に復帰しなさい? 新政府設立で、色々と大変なんだから。」
我上司様は勤勉である。
「また仕事かよぉ。通院して、仕事して、通院してぇ。もうイヤンになるぜ。」
「寝言は寝て言いなさい。治安、九条念の捜索、両方やらないといけないんだから。」
九条……
そうだ。
彼女と大兄弟助の消息はまだ掴めていない。
おそらく蝠岡の創った世界のどこかにいるのであろう。
だがしかし、こちらに対抗できる魔法が無い以上、見つけることは難しいだろう。
「おっ? 仕事の顔になったね。ちょっとは目が覚めたかい? 」
「その前に休息だ。退院したら連絡する。こんなところで油を売っている暇もないんだろアンタらは。」
「「はぁー。」」
二人分のため息が聞こえる。
「そのさ、見舞いに来てくれてありがとな。」
「どういたしまして。」
病室のドアが開く。
「それじゃあ、また来るから。病院食はちゃんと食べないとダメだよ。傷が治らないからね。」
「はいはい。俺寝るから。さっさと出て行ってくれ。」
もう俺を糾弾する者は誰もいない。
こんな環境で睡眠が取れるのは何年振りだろうか?
俺は久しぶりに熟睡した。
「アイタタ!! もっと優しくお願いします。」
「もう!! 動かない!! 男なのに情けないですね。」
誰だってこんな光景見たのなら、不謹慎でも笑ってしまうだろう。
だが、それが、この馬鹿どのだということが癪に障る。
「どwうしwてアナタはいつもいつも、そうなるのかしら。」
「うるせえ。俺だって好きでこんな格好をしているんじゃねえよ。」
正式に総統に任命された上司様に俺は指を刺した。
「第一、原因はアンタにもあるんだぞ。労災だ労災。」
「オイ、いつまで笑っていやがる。」
小子は、ツボにハマっており、なかなか抜け出すことが出来ないようだ。
「ホラホラ、ちゃんと安静にしてないと、治らないわよ。」
本堂が、病室のテレビをつける。
テレビには、髪を剃られた無様なビック・ファーザーが、マスコミ各社のシャッターを浴びていた。
罪人に群がるハイエナ供の中には、俺が審判を受けた日に、俺に向かってシャッターを切っていた記者の姿もあった。
「独裁者め地獄に堕ちろ!! 」
「人間のフリをした豚め!! 」
「自由を勝ち取ったぞ。」
野次馬たちは、記者に雇われたサクラだと、そう信じたい。
コレも安田倫子の思惑だとは信じたくも無いが。
俺の感情を理解した本堂が、俺の肩をポンポンと叩く
義手の『ギシ』という重い音と共に身体が軋む。
「アタタタ。」
「時代が変わったんだ。時代が変われば人々の価値観も変わる。そんなに悲観的な目で人を見てはいけないよ。」
俺は頬を膨らませて、彼を指さす。
「アンタみたいな柔軟に動ける舌が何枚もあるような人間こそ出世をする。そういうところが気に入らないんだよ俺は。」
本堂はそれを鼻で笑う。
「私は歯向かって小馬鹿にされるより、逃げて嘲笑される方が好きだからね。結局そういう人間って言うのは、憎い相手をどうにかして貶めてやりたいものさ。」
俺は再びテレビを見た。
俺はかつての自分にビック・ファーザーを重ねてしまう。
気持ちが悪くなったので、チャンネルを変えることにした。
そして話題を変える。
「金川はどうなった? 」
その問いに小子が答える。
「安田総統が、恩赦なされました。」
「GPS付きだと言う条件で。」
そこに本堂が割って入ってくる。
「大変だったのだよ。安田君は。無能力者の一部支持者から猛烈な抗議電話を受けてね。能力者の中にも彼を非難するモノもいたわけだから。驚きだよね。」
俺は首を横に振る。
「いや、何もおかしいことなんてないよ。彼らのせいで、無関係な能力者が貶められていた面もあるから。」
本堂はしばらく考え込んだ。
それから口を開いた。
「そう考えると、元リベリオンの人間に印を残さなかった安田君はグットだね。」
今度は俺が悩んだ。
「その分、世論の矛先は、金川に集中するだろうな。」
「良いじゃない。いい薬になるでしょう。あんなことをしたんだから。」
「そうだな。」
俺は適当に返事をした。
リベリオンで殺しをやっていた人間は大勢いる。
彼はもちろん、九条も。
その怒りの矛先は全て金川に向けられることになる。
そのことには納得が行かないが、コレも彼のケジメ。
彼も、また彼女たちと新たな一歩を踏み出そうとしているのだ。
「それより、浪人専用の職業訓練場の件、ちゃんと話をつけてくれたか? 」
「ああ、着実に進んでいるよ。議会の中には『ガス抜きのために、スラム街は裏社会として存在させておくべきだ。』という意見もあったわけだが。安田君は『能力者と無能力者の溝を埋めただけでは世界は変わらない。』と言う言葉で押し切ったらしい。」
「フン、彼女らしくないな。もっと合理的な理由だと思ったぜ。」
本堂は眉をハの字に曲げた。
「彼女は君が思うより、ずっと義理堅いのだよ? 今回の件も、君の意見だと聞いたら、返事二つで聞いてくれた。」
「大麻の件、彼女は君に凄く感謝をしているみたいだ。」
今度は俺が眉をハの字に曲げた。
「だったら、直接言いに来れば良いのにさ。この命の恩人様にさ。」
ゴツん。
「んってえな。」
「浮かれていないで、怪我が治ったら、早く仕事に復帰しなさい? 新政府設立で、色々と大変なんだから。」
我上司様は勤勉である。
「また仕事かよぉ。通院して、仕事して、通院してぇ。もうイヤンになるぜ。」
「寝言は寝て言いなさい。治安、九条念の捜索、両方やらないといけないんだから。」
九条……
そうだ。
彼女と大兄弟助の消息はまだ掴めていない。
おそらく蝠岡の創った世界のどこかにいるのであろう。
だがしかし、こちらに対抗できる魔法が無い以上、見つけることは難しいだろう。
「おっ? 仕事の顔になったね。ちょっとは目が覚めたかい? 」
「その前に休息だ。退院したら連絡する。こんなところで油を売っている暇もないんだろアンタらは。」
「「はぁー。」」
二人分のため息が聞こえる。
「そのさ、見舞いに来てくれてありがとな。」
「どういたしまして。」
病室のドアが開く。
「それじゃあ、また来るから。病院食はちゃんと食べないとダメだよ。傷が治らないからね。」
「はいはい。俺寝るから。さっさと出て行ってくれ。」
もう俺を糾弾する者は誰もいない。
こんな環境で睡眠が取れるのは何年振りだろうか?
俺は久しぶりに熟睡した。
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