平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー

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ファイル:6 悪夢再び

ラストプリズン

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 赤錆
 コンクリートのヒビ
 光のささぬ場所
 
 赤黒い廊下の平行線はどこまでも伸びている。
 俺の目は瞳孔を開かせて、目の前の情報を得ようと必死である。 
 時々遠くから囚人の雄叫びや悲鳴が聞こえる。
 監獄内に充満するこの不気味な色彩は、血の紅ではなくて、鉄の錆びた赤だ。
 まぁ物質的には同じ意味だし、同素体なのだが、彼らの悲鳴が、余計に雰囲気を醸し出している。
 再度確認するが、ここはアトラクションではなく、本当の牢獄だ。
 俺はここの住民の一人に用があるので、はるばる、平等社会ユートピアの辺境までやって来たわけだが。
「元気そうで、何よりだよバットマン。」
 おつむの良い研究者は身体を起こすと、ウジに噛まれて痒いのか、背中をさすった。
 それから俺の方を見て目を細める。
「命の恩人に掛ける言葉じゃ無いよな。せっかく救ってやったのに、もっと他に言うことは無いのか? 」
 大兄弟助の一件を思い出す。
 するとなると、アレは俺の幻聴ではなく、この魔法使い様が意図して起こした現象ということになる。
「ありがとう。あの時は助かったよ。」
 よく考えると、この男には何度助けられたか分からない。
「あ、『あの時』っつうのは、枷が爆発して死にそうになった時だ。」
 恥ずかしいけど、事実だ。
 彼には感謝の言葉しか出てこない。
 彼は俺のその仕草を見るなり、満足したのか、優越感に浸り、口角を少し上げると、右手でそれを制した。
「良いんだ。良いんだ。私も大兄弟助と同じ。君が必要だったから君を生かした。」
「君に可能性を感じたんだ。この世界の未来に対してのね。」
 そうだ……あの一見で俺は大兄弟助と同等か、それ以上の存在になった。
 だから彼の予想は正しかったことになる。
「答えは……出たかい? 」
 しばしの沈黙。
 俺の答えは、彼にとって芳しく無いものかもしれない。
 彼の目的は、人類史の衰退を止めること。
 俺の回答が、後の人類史にどのような影響をもたらすかは俺自身分からない。
 だからこそ、自分の気持ちを、頭の良い彼に打ち明けることが怖かった。
「ああ…… 」
 蝠岡は首を傾けると、眉をハの字に曲げ、再び口角を上げて見せた。
「大体わかったよ君の答え。それが君の選択だというのなら、喜んで受け入れよう。いや……元々もう僕に君を止める理由なんてない。だって君はもう…… 」
 腕の端末が鳴る。
 かつて俺の枷として機能していたそれは、公安からのメッセージを受け、俺にその旨を知らせようとしている。
 本堂からのメッセージ。
 俺がラストプリズンで蝠岡と話していることに対するお叱りのメールではない。
『大兄弟助が再び動き出した。』
 俺を再び仕事に駆り出すための激励のソレであった。
「悪い。仕事だ。」
 俺は蝠岡にそう告げると、出口へ向けて歩き出した。
「そうか……彼が…… 」
 もちろん彼にはその旨を伝えていない。
 俺は顔に出やすいタイプなのだろうか。
「更なる活躍を期待しているよ。使くん? 」


      * * *


 俺が公安に駆けつけた頃には、能力者・スキルホルダーや、その他のフリーランスの賞金稼ぎまでもが、会議に赴き、その強靭な肉体を、貧弱なパイプ椅子に預けていた。
 俺は一言詫びを入れてから、鵞利場の横に座る。
 本堂は辺りを見廻し、人が揃ったことを確認すると、大きく息を吸ってから、ハキハキと話し始めた。
「よく召集に応じてくれた。頭のネジが外れたイカれ野郎ども。」
「本日10時10分ごろ、公安の通信機器に妙なメッセージが届けられた。」
『ソウゾウシュ、カエッテキタリ、チュウイセヨ。』
 スクリーンに、二行の横文字が映し出される。
 そして差出人には
『オニ』とそう二文字だけ書かれていた。
 公安局員の一人が、手を挙げる。
「発言を許そう。」
「自分は公安刑事課の…… 」
「知っている。今は時間がない。続けたまえ。」
「はい。そのメッセージがイタズラである可能性は? 信憑性のもてる文言なのでしょうか。こうして我々を召集したということは、確固たる理由が? 」
 本堂は
「刑事の勘だ。」
 と答え、それから話を続けた。
「私は気になって、バットマンの次元装置を入念に調べさせた。」
「その結果。二つの大きな反応がword221へと向かっていることが分かった。」
 部屋の中が騒がしくなる。
「友好国の221が? 」
「なぜ。」
 また一人の人間が発言権を求めて手を挙げる。
「良いだろう発言したまえ。」
 その言葉で辺りが静まり返る。
「ありがとうございます。大兄弟助が、ここではなく、221へと向かっていることは分かりました。ですが、我々がわざわざそこへ赴いてまで、彼を止める理由はなんですか? 先の戦いで、多くの能力者・スキルホルダーが傷つき、戦死し、我々フリーランスたちも痛手を負いました。」
「今は、彼との戦いに向けて、力をつける時なのでは? 」
 本堂はこっくり頷く。
「良い質問だ。だがしかし、手負なのは向こうも同じ。なんだって私が直接痛めつけてやったわけだからね。そうそう体力は回復しないだろう。」
「でもね…… 」
 その先は俺の言葉が被さった。
「あそこには永久機関♾️がある。大兄弟助がそれを手に入れれば、いよいよ俺たちは手が付けられなくなる。」
「ヒュー。」
 本堂は口笛を鳴らした。
「正解だ。北条くん。今日の君は冴えているね。そのようであれば、大兄弟助にも九条念にも負けることは無いだろう。」
 本堂は皆の方に向き返って、両手を台につくと、まっすぐ前を見た。
「頼む有志たちよ。世界を救ってくれ。」
「報酬は? 」
 足を組んだ、二十代後半ぐらいの女がそう一言呟いた。
「君たち賞金稼ぎには、一人100kの前金を出そう。無事討伐した暁には、大家族同盟から報奨金が出ることになっている。」
「100kか。私たちの命は軽いわね。」
「君たちフリーランスの命が重かったことなどあるかね。君も十年その道を貫いて来たプロだろ? 」
 一人の男が立ち上がる。
「へっ命の一つや二つ、惜しくぁねえよ。俺は楽して稼ぎたいんだ。」
 また一人、また一人と立ち上がった。
 公安のモノたちも感覚され、立ち上がる。
 俺と鵞利場はほぼ同時に立ち上がると、右拳を挙げた。
「「「平等よ永遠なれ」」」
 




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