91 / 107
ファイル:6 悪夢再び
ラストプリズン
しおりを挟む
赤錆
コンクリートのヒビ
光のささぬ場所
赤黒い廊下の平行線はどこまでも伸びている。
俺の目は瞳孔を開かせて、目の前の情報を得ようと必死である。
時々遠くから囚人の雄叫びや悲鳴が聞こえる。
監獄内に充満するこの不気味な色彩は、血の紅ではなくて、鉄の錆びた赤だ。
まぁ物質的には同じ意味だし、同素体なのだが、彼らの悲鳴が、余計に雰囲気を醸し出している。
再度確認するが、ここはアトラクションではなく、本当の牢獄だ。
俺はここの住民の一人に用があるので、はるばる、平等社会の辺境までやって来たわけだが。
「元気そうで、何よりだよバットマン。」
おつむの良い研究者は身体を起こすと、ウジに噛まれて痒いのか、背中をさすった。
それから俺の方を見て目を細める。
「命の恩人に掛ける言葉じゃ無いよな。せっかく救ってやったのに、もっと他に言うことは無いのか? 」
大兄弟助の一件を思い出す。
するとなると、アレは俺の幻聴ではなく、この魔法使い様が意図して起こした現象ということになる。
「ありがとう。あの時は助かったよ。」
よく考えると、この男には何度助けられたか分からない。
「あ、『あの時』っつうのは、枷が爆発して死にそうになった時だ。」
恥ずかしいけど、事実だ。
彼には感謝の言葉しか出てこない。
彼は俺のその仕草を見るなり、満足したのか、優越感に浸り、口角を少し上げると、右手でそれを制した。
「良いんだ。良いんだ。私も大兄弟助と同じ。君が必要だったから君を生かした。」
「君に可能性を感じたんだ。この世界の未来に対してのね。」
そうだ……あの一見で俺は大兄弟助と同等か、それ以上の存在になった。
だから彼の予想は正しかったことになる。
「答えは……出たかい? 」
しばしの沈黙。
俺の答えは、彼にとって芳しく無いものかもしれない。
彼の目的は、人類史の衰退を止めること。
俺の回答が、後の人類史にどのような影響をもたらすかは俺自身分からない。
だからこそ、自分の気持ちを、頭の良い彼に打ち明けることが怖かった。
「ああ…… 」
蝠岡は首を傾けると、眉をハの字に曲げ、再び口角を上げて見せた。
「大体わかったよ君の答え。それが君の選択だというのなら、喜んで受け入れよう。いや……元々もう僕に君を止める理由なんてない。だって君はもう…… 」
腕の端末が鳴る。
かつて俺の枷として機能していたそれは、公安からのメッセージを受け、俺にその旨を知らせようとしている。
本堂からのメッセージ。
俺がラストプリズンで蝠岡と話していることに対するお叱りのメールではない。
『大兄弟助が再び動き出した。』
俺を再び仕事に駆り出すための激励のソレであった。
「悪い。仕事だ。」
俺は蝠岡にそう告げると、出口へ向けて歩き出した。
「そうか……彼が…… 」
もちろん彼にはその旨を伝えていない。
俺は顔に出やすいタイプなのだろうか。
「更なる活躍を期待しているよ。真魔法使いくん? 」
* * *
俺が公安に駆けつけた頃には、能力者・スキルホルダーや、その他のフリーランスの賞金稼ぎまでもが、会議に赴き、その強靭な肉体を、貧弱なパイプ椅子に預けていた。
俺は一言詫びを入れてから、鵞利場の横に座る。
本堂は辺りを見廻し、人が揃ったことを確認すると、大きく息を吸ってから、ハキハキと話し始めた。
「よく召集に応じてくれた。頭のネジが外れたイカれ野郎ども。」
「本日10時10分ごろ、公安の通信機器に妙なメッセージが届けられた。」
『ソウゾウシュ、カエッテキタリ、チュウイセヨ。』
スクリーンに、二行の横文字が映し出される。
そして差出人には
『オニ』とそう二文字だけ書かれていた。
公安局員の一人が、手を挙げる。
「発言を許そう。」
「自分は公安刑事課の…… 」
「知っている。今は時間がない。続けたまえ。」
「はい。そのメッセージがイタズラである可能性は? 信憑性のもてる文言なのでしょうか。こうして我々を召集したということは、確固たる理由が? 」
本堂は
「刑事の勘だ。」
と答え、それから話を続けた。
「私は気になって、バットマンの次元装置を入念に調べさせた。」
「その結果。二つの大きな反応がword221へと向かっていることが分かった。」
部屋の中が騒がしくなる。
「友好国の221が? 」
「なぜ。」
また一人の人間が発言権を求めて手を挙げる。
「良いだろう発言したまえ。」
その言葉で辺りが静まり返る。
「ありがとうございます。大兄弟助が、ここではなく、221へと向かっていることは分かりました。ですが、我々がわざわざそこへ赴いてまで、彼を止める理由はなんですか? 先の戦いで、多くの能力者・スキルホルダーが傷つき、戦死し、我々フリーランスたちも痛手を負いました。」
「今は、彼との戦いに向けて、力をつける時なのでは? 」
本堂はこっくり頷く。
「良い質問だ。だがしかし、手負なのは向こうも同じ。なんだって私が直接痛めつけてやったわけだからね。そうそう体力は回復しないだろう。」
「でもね…… 」
その先は俺の言葉が被さった。
「あそこには永久機関がある。奴がそれを手に入れれば、いよいよ俺たちは手が付けられなくなる。」
「ヒュー。」
本堂は口笛を鳴らした。
「正解だ。北条くん。今日の君は冴えているね。そのようであれば、大兄弟助にも九条念にも負けることは無いだろう。」
本堂は皆の方に向き返って、両手を台につくと、まっすぐ前を見た。
「頼む有志たちよ。世界を救ってくれ。」
「報酬は? 」
足を組んだ、二十代後半ぐらいの女がそう一言呟いた。
「君たち賞金稼ぎには、一人100kの前金を出そう。無事討伐した暁には、大家族同盟から報奨金が出ることになっている。」
「100kか。私たちの命は軽いわね。」
「君たちフリーランスの命が重かったことなどあるかね。君も十年その道を貫いて来たプロだろ? 」
一人の男が立ち上がる。
「へっ命の一つや二つ、惜しくぁねえよ。俺は楽して稼ぎたいんだ。」
また一人、また一人と立ち上がった。
公安のモノたちも感覚され、立ち上がる。
俺と鵞利場はほぼ同時に立ち上がると、右拳を挙げた。
「「「平等よ永遠なれ」」」
コンクリートのヒビ
光のささぬ場所
赤黒い廊下の平行線はどこまでも伸びている。
俺の目は瞳孔を開かせて、目の前の情報を得ようと必死である。
時々遠くから囚人の雄叫びや悲鳴が聞こえる。
監獄内に充満するこの不気味な色彩は、血の紅ではなくて、鉄の錆びた赤だ。
まぁ物質的には同じ意味だし、同素体なのだが、彼らの悲鳴が、余計に雰囲気を醸し出している。
再度確認するが、ここはアトラクションではなく、本当の牢獄だ。
俺はここの住民の一人に用があるので、はるばる、平等社会の辺境までやって来たわけだが。
「元気そうで、何よりだよバットマン。」
おつむの良い研究者は身体を起こすと、ウジに噛まれて痒いのか、背中をさすった。
それから俺の方を見て目を細める。
「命の恩人に掛ける言葉じゃ無いよな。せっかく救ってやったのに、もっと他に言うことは無いのか? 」
大兄弟助の一件を思い出す。
するとなると、アレは俺の幻聴ではなく、この魔法使い様が意図して起こした現象ということになる。
「ありがとう。あの時は助かったよ。」
よく考えると、この男には何度助けられたか分からない。
「あ、『あの時』っつうのは、枷が爆発して死にそうになった時だ。」
恥ずかしいけど、事実だ。
彼には感謝の言葉しか出てこない。
彼は俺のその仕草を見るなり、満足したのか、優越感に浸り、口角を少し上げると、右手でそれを制した。
「良いんだ。良いんだ。私も大兄弟助と同じ。君が必要だったから君を生かした。」
「君に可能性を感じたんだ。この世界の未来に対してのね。」
そうだ……あの一見で俺は大兄弟助と同等か、それ以上の存在になった。
だから彼の予想は正しかったことになる。
「答えは……出たかい? 」
しばしの沈黙。
俺の答えは、彼にとって芳しく無いものかもしれない。
彼の目的は、人類史の衰退を止めること。
俺の回答が、後の人類史にどのような影響をもたらすかは俺自身分からない。
だからこそ、自分の気持ちを、頭の良い彼に打ち明けることが怖かった。
「ああ…… 」
蝠岡は首を傾けると、眉をハの字に曲げ、再び口角を上げて見せた。
「大体わかったよ君の答え。それが君の選択だというのなら、喜んで受け入れよう。いや……元々もう僕に君を止める理由なんてない。だって君はもう…… 」
腕の端末が鳴る。
かつて俺の枷として機能していたそれは、公安からのメッセージを受け、俺にその旨を知らせようとしている。
本堂からのメッセージ。
俺がラストプリズンで蝠岡と話していることに対するお叱りのメールではない。
『大兄弟助が再び動き出した。』
俺を再び仕事に駆り出すための激励のソレであった。
「悪い。仕事だ。」
俺は蝠岡にそう告げると、出口へ向けて歩き出した。
「そうか……彼が…… 」
もちろん彼にはその旨を伝えていない。
俺は顔に出やすいタイプなのだろうか。
「更なる活躍を期待しているよ。真魔法使いくん? 」
* * *
俺が公安に駆けつけた頃には、能力者・スキルホルダーや、その他のフリーランスの賞金稼ぎまでもが、会議に赴き、その強靭な肉体を、貧弱なパイプ椅子に預けていた。
俺は一言詫びを入れてから、鵞利場の横に座る。
本堂は辺りを見廻し、人が揃ったことを確認すると、大きく息を吸ってから、ハキハキと話し始めた。
「よく召集に応じてくれた。頭のネジが外れたイカれ野郎ども。」
「本日10時10分ごろ、公安の通信機器に妙なメッセージが届けられた。」
『ソウゾウシュ、カエッテキタリ、チュウイセヨ。』
スクリーンに、二行の横文字が映し出される。
そして差出人には
『オニ』とそう二文字だけ書かれていた。
公安局員の一人が、手を挙げる。
「発言を許そう。」
「自分は公安刑事課の…… 」
「知っている。今は時間がない。続けたまえ。」
「はい。そのメッセージがイタズラである可能性は? 信憑性のもてる文言なのでしょうか。こうして我々を召集したということは、確固たる理由が? 」
本堂は
「刑事の勘だ。」
と答え、それから話を続けた。
「私は気になって、バットマンの次元装置を入念に調べさせた。」
「その結果。二つの大きな反応がword221へと向かっていることが分かった。」
部屋の中が騒がしくなる。
「友好国の221が? 」
「なぜ。」
また一人の人間が発言権を求めて手を挙げる。
「良いだろう発言したまえ。」
その言葉で辺りが静まり返る。
「ありがとうございます。大兄弟助が、ここではなく、221へと向かっていることは分かりました。ですが、我々がわざわざそこへ赴いてまで、彼を止める理由はなんですか? 先の戦いで、多くの能力者・スキルホルダーが傷つき、戦死し、我々フリーランスたちも痛手を負いました。」
「今は、彼との戦いに向けて、力をつける時なのでは? 」
本堂はこっくり頷く。
「良い質問だ。だがしかし、手負なのは向こうも同じ。なんだって私が直接痛めつけてやったわけだからね。そうそう体力は回復しないだろう。」
「でもね…… 」
その先は俺の言葉が被さった。
「あそこには永久機関がある。奴がそれを手に入れれば、いよいよ俺たちは手が付けられなくなる。」
「ヒュー。」
本堂は口笛を鳴らした。
「正解だ。北条くん。今日の君は冴えているね。そのようであれば、大兄弟助にも九条念にも負けることは無いだろう。」
本堂は皆の方に向き返って、両手を台につくと、まっすぐ前を見た。
「頼む有志たちよ。世界を救ってくれ。」
「報酬は? 」
足を組んだ、二十代後半ぐらいの女がそう一言呟いた。
「君たち賞金稼ぎには、一人100kの前金を出そう。無事討伐した暁には、大家族同盟から報奨金が出ることになっている。」
「100kか。私たちの命は軽いわね。」
「君たちフリーランスの命が重かったことなどあるかね。君も十年その道を貫いて来たプロだろ? 」
一人の男が立ち上がる。
「へっ命の一つや二つ、惜しくぁねえよ。俺は楽して稼ぎたいんだ。」
また一人、また一人と立ち上がった。
公安のモノたちも感覚され、立ち上がる。
俺と鵞利場はほぼ同時に立ち上がると、右拳を挙げた。
「「「平等よ永遠なれ」」」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる