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ルナリアン
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コツン……コツン……
乾いた石レンガを弾く乾いた音が、少しずつこちらにやって来る。
ここに人が来るなんて何年振りなのだろうか。
それにしてもアイツは一度もここに来てくれなかった。
やっぱり怒ってるのかな? ほっぽかして、こんなカビ臭い、薄暗い場所でずっと引きこもっていることを。
あー、会いたいな~いやでも、このようじゃ所帯の一つや二つは持っているかも知れんし。
アイツは今年で二十八。少し背が伸びてるかもなw
コツン……コツン……
そして足音は、俺の目の前で止まった。
「聞きなさい。私は公安課から派遣された本堂倫です。」
俺はこうべを上げて、その声の主を見た。
本堂。
そうだ。
彼女の左腕には、能力者を象徴する稲妻の腕章。右腕には無能力者を象徴する7つの突起からなる冠の印のついた腕章をつけている。
俺は改めて確信した。
本堂家とは、能力者と無能力者を結びつける担い手であるということを。
ならば同じく能力者と無能力者の『調停者』である俺も、彼女に力を貸すべきだろう。
俺は魔法で、枷のピッキングを済ませると、立ち上がり、牢獄の出口を目指した。
「いくぞ。俺の力が必要なんだろ。」
* * *
ぱこん
頭に衝撃。
と共に、俺の両腕には懐かしき手枷がつけられた。
「貴方は犯罪者なんです。犯罪者が手錠もつけずにシャバを歩けると思わないで下さいね。」
本堂という女は、誰かさんに似てガサツな、女だった。
犯罪者にだって人権があるんだぞ。
手錠は非常に目立つ。
だって、こんなもんしている能力者なんて今どきいねえからな。
「おい、外してくれよコレ。恥ずかしいだろなぁ今どき能力抑制装置なんてさぁ。」
「ちなみに無理矢理外そうとするとアラームが鳴って、スキルホルダーたちが貴方を処分しに来ますから、気をつけて下さいね。」
ちくしょう。
俺は、俺のことをジロジロ見ている民衆に向かって叫んだ。
「オイ、こりゃあ見せ物じゃねえんだぞ。」
一人の女が俺に問いかけた。
「そういうプレイですか? 」
一瞬唖然とした。
そうか、今の一般人にはそう見えるんだな。五年もたちゃ、そりゃ人の価値観も変化するわなって。
「違うわボケッ。」
プウスカプウスカ茶湯を沸かしてる俺の両腕を彼女が引っ張る。
「おい、アンタ。どこへ行くんだ? そんなに急ぐことなのか? 」
「今からもう一人の協力者のところに行きます。」
俺は見慣れたメインストリートを彼女に引っ張られて、陰でコソコソ無能力者らしき人たちに噂をされながら、懐かしのアライアンスの宿舎へとやって来た。
今は、このタワーも政治的な意味が薄くなり、建物が丸々公務員の職場になっているらしい。
が、公安の犯罪課の階層は変わっていなかった。
彼女が「100」のボタンを押すと、エレベーターは、百階を目指して登り始める。
この、下半身から引き絞られるような懐かしい慣性の感覚。
ゾクゾクと身体で感じ取ってから、平等社会の街並みを見渡した。
「ここ五年で平等社会も大きく変わったな。」
高層ビルは大気圏を突き抜けて、宇宙まで伸びている。
俺がシャバにいた頃よりも、空中住宅は数が増していて、太陽が見えない……
いや、陽が当たらないのは、ビルや住宅のせいではない。
街の街灯が眩しすぎて気が付かなかったが……
「なんだあの宇宙船は…… 」
「あら、流石、公安で働いていただけはありますね。」
んだよその上から目線のコメントは。
「おいおい説明しますから。まずは一緒に働く同僚を紹介しましょう。」
ち、まだ居んのかよ。こんな気の強い女、一人も二人も相手してらんねえぞ。
ん? 待てよ? もう一人って。
いや、そりゃねえな。
この女はもう一人が女だなんて一言も言ってねえし。
五分後。
「知ってた。」
「北おぉぉぉ条ぅぅぅぅぅ。」
不動明王様が、俺の脳天に拳を喰らわせる。
脳が揺れて。俺は叩かれたんだと再確認する。
あんまりだ。久しぶりに会った元バディーにこんな仕打ちを受けるとは。
「なんで、そんなに怒ってるんだ。」
俺の言葉は彼女の逆鱗に触れたようで。
「は? 」
彼女が天鵝流の構えを取る。
「ごめんって。」
彼女はため息をついた。
「何について? 」
俺は咄嗟に脳をフル回転させて、彼女が怒っている理由を推理した。
「ずっとそばにいるとか言ってさぁ。五年も待たせちゃって。自分勝手だったよ。」
「フン。」
彼女はそっぽを向いてしまった。
そこに長官が入って来る。
心持ちか少しシワが増えたような気がする。
が、彼は髪が薄くなった形跡はないし、白髪一つない、大漢といった感じだ。
「まざかアンタに孫がいたとはなぁ。」
「そりゃ家柄だからね。家族の一人や二人はいるってもんよ。」
「さて、そのようじゃ、倫からは何も聞いていないようだね。北条クン。」
「そりゃ、監獄を出るや否や、この通りだからな。働き者だよ。アンタのお孫さんはね。」
「コレ、倫、辞めなさい。」
長官は続ける。
「先日、平等社会の上空に、巨大な宇宙船が出現した。」
「彼らはどうやら、全員が超能力者みたいでねぇ。文明も我々より幾分も発達している星の住民みたいなんだ。」
「彼らが、ここに降り立つや否や、なんて言ったと思う? 」
俺は少し頭を捻った。
「侵略された形跡も……なさそうだな。流石に地上でドンパチリやってりゃ地下にまで響くし。」
「優生思想を拗らせた奴らだ。どうせ、人類の選別とやら大層なことをいってるんだろう? 」
「ビンゴ。」
長官は俺を指差した。
「そのせいで、再び能力者と無能力者の間に溝が出来始めているの。」
「既に選別と称して、無能力者に危害を加える能力者たちもいます。」
「っつどいつもコイツも、俺の気も知らねえで勝手に話を進めやがって。」
「だから貴方を呼びました。貴方と、そしてバディーを組んでいたという伝説の女デカ、鵞利場小子さんを。」
「デカ? チビの間違いじゃないか? アラサーでこの身長ならよ。」
バコん。
俺の脳天に再び拳骨が飛ぶ。
「ゴホン。とにかく頼むよ。治安維持と問題解決。そのためにわざわざ、地獄の底から君を呼んだんだから。」
倫と小子が長官室を出る。
「北条クン。ちょっと良いかね? 」
俺は長官室に一人残る。
「良い機会だ。孫の能力の成長に手を貸してくれ。」
薄々気がついてはいた。
彼女はまだ、長官のように魔法を封じることが出来ないのだ。
「ったくガキの守りかよ。」
「出来れば私が赴いても良かったんだけどね。見ての通り、『実務』は引退さぁ。まだ元気な君なら引き受けてくれると思ったよ。」
「俺も流石に飽きて来たところだったよ。たまに外に出るのも悪くねえかなって。」
俺は長官室を出る。
「任せとけよ。魔法使いの俺にな。」
乾いた石レンガを弾く乾いた音が、少しずつこちらにやって来る。
ここに人が来るなんて何年振りなのだろうか。
それにしてもアイツは一度もここに来てくれなかった。
やっぱり怒ってるのかな? ほっぽかして、こんなカビ臭い、薄暗い場所でずっと引きこもっていることを。
あー、会いたいな~いやでも、このようじゃ所帯の一つや二つは持っているかも知れんし。
アイツは今年で二十八。少し背が伸びてるかもなw
コツン……コツン……
そして足音は、俺の目の前で止まった。
「聞きなさい。私は公安課から派遣された本堂倫です。」
俺はこうべを上げて、その声の主を見た。
本堂。
そうだ。
彼女の左腕には、能力者を象徴する稲妻の腕章。右腕には無能力者を象徴する7つの突起からなる冠の印のついた腕章をつけている。
俺は改めて確信した。
本堂家とは、能力者と無能力者を結びつける担い手であるということを。
ならば同じく能力者と無能力者の『調停者』である俺も、彼女に力を貸すべきだろう。
俺は魔法で、枷のピッキングを済ませると、立ち上がり、牢獄の出口を目指した。
「いくぞ。俺の力が必要なんだろ。」
* * *
ぱこん
頭に衝撃。
と共に、俺の両腕には懐かしき手枷がつけられた。
「貴方は犯罪者なんです。犯罪者が手錠もつけずにシャバを歩けると思わないで下さいね。」
本堂という女は、誰かさんに似てガサツな、女だった。
犯罪者にだって人権があるんだぞ。
手錠は非常に目立つ。
だって、こんなもんしている能力者なんて今どきいねえからな。
「おい、外してくれよコレ。恥ずかしいだろなぁ今どき能力抑制装置なんてさぁ。」
「ちなみに無理矢理外そうとするとアラームが鳴って、スキルホルダーたちが貴方を処分しに来ますから、気をつけて下さいね。」
ちくしょう。
俺は、俺のことをジロジロ見ている民衆に向かって叫んだ。
「オイ、こりゃあ見せ物じゃねえんだぞ。」
一人の女が俺に問いかけた。
「そういうプレイですか? 」
一瞬唖然とした。
そうか、今の一般人にはそう見えるんだな。五年もたちゃ、そりゃ人の価値観も変化するわなって。
「違うわボケッ。」
プウスカプウスカ茶湯を沸かしてる俺の両腕を彼女が引っ張る。
「おい、アンタ。どこへ行くんだ? そんなに急ぐことなのか? 」
「今からもう一人の協力者のところに行きます。」
俺は見慣れたメインストリートを彼女に引っ張られて、陰でコソコソ無能力者らしき人たちに噂をされながら、懐かしのアライアンスの宿舎へとやって来た。
今は、このタワーも政治的な意味が薄くなり、建物が丸々公務員の職場になっているらしい。
が、公安の犯罪課の階層は変わっていなかった。
彼女が「100」のボタンを押すと、エレベーターは、百階を目指して登り始める。
この、下半身から引き絞られるような懐かしい慣性の感覚。
ゾクゾクと身体で感じ取ってから、平等社会の街並みを見渡した。
「ここ五年で平等社会も大きく変わったな。」
高層ビルは大気圏を突き抜けて、宇宙まで伸びている。
俺がシャバにいた頃よりも、空中住宅は数が増していて、太陽が見えない……
いや、陽が当たらないのは、ビルや住宅のせいではない。
街の街灯が眩しすぎて気が付かなかったが……
「なんだあの宇宙船は…… 」
「あら、流石、公安で働いていただけはありますね。」
んだよその上から目線のコメントは。
「おいおい説明しますから。まずは一緒に働く同僚を紹介しましょう。」
ち、まだ居んのかよ。こんな気の強い女、一人も二人も相手してらんねえぞ。
ん? 待てよ? もう一人って。
いや、そりゃねえな。
この女はもう一人が女だなんて一言も言ってねえし。
五分後。
「知ってた。」
「北おぉぉぉ条ぅぅぅぅぅ。」
不動明王様が、俺の脳天に拳を喰らわせる。
脳が揺れて。俺は叩かれたんだと再確認する。
あんまりだ。久しぶりに会った元バディーにこんな仕打ちを受けるとは。
「なんで、そんなに怒ってるんだ。」
俺の言葉は彼女の逆鱗に触れたようで。
「は? 」
彼女が天鵝流の構えを取る。
「ごめんって。」
彼女はため息をついた。
「何について? 」
俺は咄嗟に脳をフル回転させて、彼女が怒っている理由を推理した。
「ずっとそばにいるとか言ってさぁ。五年も待たせちゃって。自分勝手だったよ。」
「フン。」
彼女はそっぽを向いてしまった。
そこに長官が入って来る。
心持ちか少しシワが増えたような気がする。
が、彼は髪が薄くなった形跡はないし、白髪一つない、大漢といった感じだ。
「まざかアンタに孫がいたとはなぁ。」
「そりゃ家柄だからね。家族の一人や二人はいるってもんよ。」
「さて、そのようじゃ、倫からは何も聞いていないようだね。北条クン。」
「そりゃ、監獄を出るや否や、この通りだからな。働き者だよ。アンタのお孫さんはね。」
「コレ、倫、辞めなさい。」
長官は続ける。
「先日、平等社会の上空に、巨大な宇宙船が出現した。」
「彼らはどうやら、全員が超能力者みたいでねぇ。文明も我々より幾分も発達している星の住民みたいなんだ。」
「彼らが、ここに降り立つや否や、なんて言ったと思う? 」
俺は少し頭を捻った。
「侵略された形跡も……なさそうだな。流石に地上でドンパチリやってりゃ地下にまで響くし。」
「優生思想を拗らせた奴らだ。どうせ、人類の選別とやら大層なことをいってるんだろう? 」
「ビンゴ。」
長官は俺を指差した。
「そのせいで、再び能力者と無能力者の間に溝が出来始めているの。」
「既に選別と称して、無能力者に危害を加える能力者たちもいます。」
「っつどいつもコイツも、俺の気も知らねえで勝手に話を進めやがって。」
「だから貴方を呼びました。貴方と、そしてバディーを組んでいたという伝説の女デカ、鵞利場小子さんを。」
「デカ? チビの間違いじゃないか? アラサーでこの身長ならよ。」
バコん。
俺の脳天に再び拳骨が飛ぶ。
「ゴホン。とにかく頼むよ。治安維持と問題解決。そのためにわざわざ、地獄の底から君を呼んだんだから。」
倫と小子が長官室を出る。
「北条クン。ちょっと良いかね? 」
俺は長官室に一人残る。
「良い機会だ。孫の能力の成長に手を貸してくれ。」
薄々気がついてはいた。
彼女はまだ、長官のように魔法を封じることが出来ないのだ。
「ったくガキの守りかよ。」
「出来れば私が赴いても良かったんだけどね。見ての通り、『実務』は引退さぁ。まだ元気な君なら引き受けてくれると思ったよ。」
「俺も流石に飽きて来たところだったよ。たまに外に出るのも悪くねえかなって。」
俺は長官室を出る。
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