101 / 107
ファイル:EX オーバーロード
繁華街
しおりを挟む
「その顔ムカつくんだけど。」
「良いでしょ。相手に敵意が無いことが分かったんだし。アンタが、頑張ってたのは知ってるから。」
どうやら俺は気難しい顔をしていたらしい。
「ねえどうして距離を取るの? 」
そんなもん恥ずかしくて言える訳がねえ。
俺にだってプライドがある。
「ねえ。なんであの時も、黙ってラストプリズンになんて行っちゃったの? 」
「私のこと嫌い? そりゃ短期だし、すぐ力のことを叩くしさ。」
そんな訳がない。
だけど、誤解を生んでいるのも、俺がちゃんと面と向かって彼女と話をしないせいなのだ。
「こんな手錠つけた男と歩いていたら、お前の顔が立たないだろ? だから気が引けるんだよ。それにさ。罪人と……その恋人関係だとか。お前のキャリアに傷が付くし、お前のお家にも悪いじゃん。」
彼女は一瞬口をポカンと開けた。
それから口で手を押さえて、
「ぷっふふ。」
と堪えきれずに笑い出した。
「馬鹿らしい理由。力らしいね。」
俺らしいってなんだよ。馬鹿にしてんだろ。
「馬鹿にしてんのよ。」
彼女は跳躍すると、俺の眉間にデコピンをかました。
「イッつ。」
「なんだよ。急に。心を読んでくんな。」
「心なんて読んでないよ。力、顔に出やすいからね。」
「そりゃどーも。」
彼女は地面に着地すると、両腕を身体の後ろに組み、前屈みになると、俺の前で後ろ歩きを始めた。
その仕草に俺は、思わず目を背けてしまう。
「ちょっと訂正。力はさぁ。私とアンタが対等な関係だと思っている見たいだけど。鵞利場家の人間は代々、女当主だから。」
「私が主人で、貴方が伴侶。分かった? 」
多分嘘だ。あの大麻野郎にシャブ漬けされてた時は、アイツに言いくるめられて、うっとりしていたくせに。
「ハイハイご主人。ところで。婚姻とかそういうの当人だけで勝手に決めて良いのかよ? 」
「両親には承諾貰えたわよ。私は両親から信頼されているからね。」
「いちいち、俺にマウント取ってきてさぁ。どうせ縁談も全部断られて来たんだろ? そんなんだから2…… 」
「断ったの全部私だよ。」
彼女は真顔になって食い入るように答えた。
「誰と? 」
しまったと思った時には遅かった。
「全部嘘に決まっているでしょ。両親も、思い人がいる子供に、そんなことさせないわよ。それどころか。相手方の家に挨拶しに行きなさいって。」
北条家に……
いや、本家にも?
実家とは散々迷惑事を起こした末に勘当された仲だ。
彼女に知られたくないわけではない。
彼女が俺のことを嫌いになるわけでもないんだけど。
「行ったのか? 北条の分家に? 」
「ダメだった? 本家にも挨拶しに行ったわよ。力の許嫁ですって。」
何やってくれてんだよ。
「お父様も、当主様もとても気の良い人だったよ。『ウチの力をお願いします。』『あの放蕩少年が随分大きくなったな』って。昔はヤンチャしてたらしいじゃないの。」
「昔も何も、小子と仕事をする前は、アウトローだっただろ。俺。」
「良かったね。認めてもらえて。」
「そうだな。コレでお前を避ける理由が無くなったってわけだ。」
彼女は首を振った。
「うんうん? 君のことだよ。北条家で君の名前を聞いて、嫌な顔をする人は一人も居なかった。君の公安での活躍は当然、あの人たちの耳にも入っているはずだし。」
「そんなもん。他所の家の人間……それも鵞利場家の人間が来れば、他所行きの顔にもなるさ。」
「くらーい。こんなのがパートナーだなんて嫌だなぁ。」
そうだ。彼らに許されようとだなんて思わない。
だけど。俺のやって来たことを彼らはちゃんと見てくれている。
それだけで充分ではないのか?
「分かった。俺、明るい人間になれるように頑張るわ。」
「素直でよろしい。」
俺は不審な動きをする能力者を片目で追った。
「良いところなのに。」
「そんなこと言うなよ。倫に命じられたのはパトロールなんだからさ。久しぶりのバディーでの仕事。楽しまなきゃだろ? 」
「アンタにしては生意気だけど。それもそうね。最近書類関係ばっかりだったから。」
「ブランクで足引っ張るなよ。」
「そっくりそのまま返すわよ。」
俺は不審者の後ろ、彼女は前方向から、彼を囲い込もうとした。
俺たちに気づいた不審な男は、かがみ、両腕を地面に近づけると、跳躍の姿勢を見せた。
周りの人間たちが危ない。
俺は慌てて世界境界を展開して、彼らを守る。
俺の魔法の技量はここ数年で飛躍的に伸びた。
蝠岡に教えてもらった、卵を上から投げて、魔法で割れないように受け取る方法だ。
コツを掴めば簡単だった。
落とした卵の衝撃を吸収するように次元の壁を調整するだけだ。
と言っても、目の前で危険に晒されているのは、生卵ではなく、生身の人間だ。
俺は瞬時に物理法則を計算してから、人間を守るより、能力者の両手から出る噴射口を覆った方が効率的だと考え、彼の両手の周りに、魔法を張る。
「シャボン玉……シャボン玉……」
『ポヨン』
奇怪な音を立てながら、人々が俺の能力で弾かれる。
急な出来事だったので、彼らは悲鳴……を上げていたけど。まぁ大丈夫だろう。
圧死も雑踏もない。
尻餅をついた女性も、魔法で受け止めた。
能力者はと言うと、俺の作った空間で推進力を殺され、地に落ちる。
すかさずそこへ小子がやって来て、能力者に手錠をかけた。
「ちょっと手錠は不味いんじゃね? 」
「この男のせいで負傷者が出そうになったのは確かよ。」
事件は解決した。
問題は、その男が、ビックファーザーの賛同を呼びかける封書を持っていたということだ。
「良いでしょ。相手に敵意が無いことが分かったんだし。アンタが、頑張ってたのは知ってるから。」
どうやら俺は気難しい顔をしていたらしい。
「ねえどうして距離を取るの? 」
そんなもん恥ずかしくて言える訳がねえ。
俺にだってプライドがある。
「ねえ。なんであの時も、黙ってラストプリズンになんて行っちゃったの? 」
「私のこと嫌い? そりゃ短期だし、すぐ力のことを叩くしさ。」
そんな訳がない。
だけど、誤解を生んでいるのも、俺がちゃんと面と向かって彼女と話をしないせいなのだ。
「こんな手錠つけた男と歩いていたら、お前の顔が立たないだろ? だから気が引けるんだよ。それにさ。罪人と……その恋人関係だとか。お前のキャリアに傷が付くし、お前のお家にも悪いじゃん。」
彼女は一瞬口をポカンと開けた。
それから口で手を押さえて、
「ぷっふふ。」
と堪えきれずに笑い出した。
「馬鹿らしい理由。力らしいね。」
俺らしいってなんだよ。馬鹿にしてんだろ。
「馬鹿にしてんのよ。」
彼女は跳躍すると、俺の眉間にデコピンをかました。
「イッつ。」
「なんだよ。急に。心を読んでくんな。」
「心なんて読んでないよ。力、顔に出やすいからね。」
「そりゃどーも。」
彼女は地面に着地すると、両腕を身体の後ろに組み、前屈みになると、俺の前で後ろ歩きを始めた。
その仕草に俺は、思わず目を背けてしまう。
「ちょっと訂正。力はさぁ。私とアンタが対等な関係だと思っている見たいだけど。鵞利場家の人間は代々、女当主だから。」
「私が主人で、貴方が伴侶。分かった? 」
多分嘘だ。あの大麻野郎にシャブ漬けされてた時は、アイツに言いくるめられて、うっとりしていたくせに。
「ハイハイご主人。ところで。婚姻とかそういうの当人だけで勝手に決めて良いのかよ? 」
「両親には承諾貰えたわよ。私は両親から信頼されているからね。」
「いちいち、俺にマウント取ってきてさぁ。どうせ縁談も全部断られて来たんだろ? そんなんだから2…… 」
「断ったの全部私だよ。」
彼女は真顔になって食い入るように答えた。
「誰と? 」
しまったと思った時には遅かった。
「全部嘘に決まっているでしょ。両親も、思い人がいる子供に、そんなことさせないわよ。それどころか。相手方の家に挨拶しに行きなさいって。」
北条家に……
いや、本家にも?
実家とは散々迷惑事を起こした末に勘当された仲だ。
彼女に知られたくないわけではない。
彼女が俺のことを嫌いになるわけでもないんだけど。
「行ったのか? 北条の分家に? 」
「ダメだった? 本家にも挨拶しに行ったわよ。力の許嫁ですって。」
何やってくれてんだよ。
「お父様も、当主様もとても気の良い人だったよ。『ウチの力をお願いします。』『あの放蕩少年が随分大きくなったな』って。昔はヤンチャしてたらしいじゃないの。」
「昔も何も、小子と仕事をする前は、アウトローだっただろ。俺。」
「良かったね。認めてもらえて。」
「そうだな。コレでお前を避ける理由が無くなったってわけだ。」
彼女は首を振った。
「うんうん? 君のことだよ。北条家で君の名前を聞いて、嫌な顔をする人は一人も居なかった。君の公安での活躍は当然、あの人たちの耳にも入っているはずだし。」
「そんなもん。他所の家の人間……それも鵞利場家の人間が来れば、他所行きの顔にもなるさ。」
「くらーい。こんなのがパートナーだなんて嫌だなぁ。」
そうだ。彼らに許されようとだなんて思わない。
だけど。俺のやって来たことを彼らはちゃんと見てくれている。
それだけで充分ではないのか?
「分かった。俺、明るい人間になれるように頑張るわ。」
「素直でよろしい。」
俺は不審な動きをする能力者を片目で追った。
「良いところなのに。」
「そんなこと言うなよ。倫に命じられたのはパトロールなんだからさ。久しぶりのバディーでの仕事。楽しまなきゃだろ? 」
「アンタにしては生意気だけど。それもそうね。最近書類関係ばっかりだったから。」
「ブランクで足引っ張るなよ。」
「そっくりそのまま返すわよ。」
俺は不審者の後ろ、彼女は前方向から、彼を囲い込もうとした。
俺たちに気づいた不審な男は、かがみ、両腕を地面に近づけると、跳躍の姿勢を見せた。
周りの人間たちが危ない。
俺は慌てて世界境界を展開して、彼らを守る。
俺の魔法の技量はここ数年で飛躍的に伸びた。
蝠岡に教えてもらった、卵を上から投げて、魔法で割れないように受け取る方法だ。
コツを掴めば簡単だった。
落とした卵の衝撃を吸収するように次元の壁を調整するだけだ。
と言っても、目の前で危険に晒されているのは、生卵ではなく、生身の人間だ。
俺は瞬時に物理法則を計算してから、人間を守るより、能力者の両手から出る噴射口を覆った方が効率的だと考え、彼の両手の周りに、魔法を張る。
「シャボン玉……シャボン玉……」
『ポヨン』
奇怪な音を立てながら、人々が俺の能力で弾かれる。
急な出来事だったので、彼らは悲鳴……を上げていたけど。まぁ大丈夫だろう。
圧死も雑踏もない。
尻餅をついた女性も、魔法で受け止めた。
能力者はと言うと、俺の作った空間で推進力を殺され、地に落ちる。
すかさずそこへ小子がやって来て、能力者に手錠をかけた。
「ちょっと手錠は不味いんじゃね? 」
「この男のせいで負傷者が出そうになったのは確かよ。」
事件は解決した。
問題は、その男が、ビックファーザーの賛同を呼びかける封書を持っていたということだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!
アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。
思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!?
生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない!
なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!!
◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる