新世界~光の中の少年~

Ray

文字の大きさ
3 / 56

第三話

しおりを挟む

 事態は母の思惑通りに末路を迎え、それまでのいじめは一切止んでいた。その代償として教師からちやほやされるという災いが訪れたが、いじめに比べれば随分増しである。美術部への勧誘など鬱陶しいが、日々学校に通う憂鬱はやや軽減され、解放感にしばし満たされた。
 引き続きクラスメートとは隔たりがあったものの、感じる視線は今までと違う。睨みから許容へと変わっていた。お前のことを認めてやる、とは上から目線もいい所だが、人にはそのような性質があるらしい。
 そのまま順調に時が流れると思いきや、悪いことも続かなければ、良いことも続かない。暗雲はすぐそこまで、近づいていた。それは新たなる獲物の出現。奴の次の標的は、同じクラスの女子生徒となった。
 その発端は机の中に置かれていたある紙切れ。すっと取り出すと、そこには目鼻口のある黄色い三日月のようなものが描かれていた。
 次第に両手がプルプルと震え始める。下先端には血の流れる人の体が突き刺さっており、そこに矢印を指した上で、『アゴ コワイ』と書かれていた。
 顔を真っ赤にして、泣きそうで、とても不憫だった。わざわざ人のコンプレックスを嘲笑うために時間を使い、手の込んだ仕打ちをする。そんなことを成し得る人間の思考がわからない。わからな過ぎて、彼女が貴様に一体何をしたのだと、問い質したい程である。
 その子もまたはぐれ者だったことにより、慰める仲間もいない。それからエスカレートする過程は同様、近寄るな、触れるな、気持ち悪い、汚いに変化していった。
 あの頃の我が身がそこに投影され、非常に胸が痛んだが、何をすることもできない。
『正しく生きろ』
という父の言葉が重く伸し掛かる。
 何かしなければいけない、とは思うものの、ただ静観するしかなかった。やがて休みがちになると、哀れみが募る。心の中に芽生えるのは罪悪感。もし、自身がターゲットのままでいれば、この子はいじめられることもなかったのではないか。
 瑞樹はそう考えるようになっていた。
「桜井くん、もう一枚傑作を出せば、高校入試も有利になるよ。」
 デレデレ顔の担任は、更なる快挙を待ち侘びる。そこに不登校の生徒がいることなど、気にも留めないのか。問題には無視を決め込み、名誉には飛びつくこの大人のいやらしさ。
 自分の身近にいた大人は皆素晴らしい人ばかりであった。だからそのギャップには戸惑いしかない。社会というものを悪い意味で知ることへの落胆。学校はくだらない所。そんな瑞樹の結論は、確信に変わろうとしていた。

 中学三年になると少女は完全不登校となった。
 主人のいなくなったその座席。初めのうちは出欠確認で名前を呼んでいた教師もやがてしなくなる。いないことが当たり前の状況を過ごす間に、自らも共犯者のような気にさえなるものだ。
 高校受験を控えた皆々は、今やいじめに現を抜かしている場合ではなく、受験勉強で手一杯の様子。
「お前どこ行くの?」
などと話題は次の進路で持ち切りで、その子の人生が終わったことなど、正に他人事である。
 瑞樹は個人的に学校などもううんざりであったが、母親のことを思うとそうもいかない。それほどまでにやりたいことがあるのならまだしも、何もない。中学を卒業したら就職すると言えば、大抵の親は愕然とするだろう。何故加害者が堂々と学校に通えて、被害者が放り出されなければならないのか。
 そんなの理不尽極まりない。
 そう思うのは、このクラスで僕だけなのだろうか。仕方なく進学を希望することになったが、目指すとなれば、公立一本の選択肢しか道はない。瑞樹は必死に勉強に打ち込んだ。思い返せば女子生徒のことなど、すっかり忘れていた。
 自身も悪い人間への第一歩を踏んだような気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...