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二
第十四話
しおりを挟むもう何日眠り続けているのだろう。
気がつけばいつもベッドの上でぐったりと横たわっている。食事をした記憶もないが、息はしているようだ。
そろそろ死ぬのかな。そしたらその方が、嬉しい。
「瑞樹」
と母の声が聞こえる。
ムクッと起き上がると少し、眩暈がした。
「ねぇ、お参り、しに行かない?」
億劫だが断る理由が無い。力なく返事をする。
それにしてもどうして急に。お参りなどいつぐらい振りだろう、などと戸惑いながらコートを羽織る。つい最近は来年から休職することを告げられたばかりだった。無論自分が原因であることは、間違いない。迷惑かけて申し訳ないと思うべきなのだろうが、その余裕さえなかった。何もかもがもう、どうでもよくなっていた。
大晦日の夜だけあって、車窓には寄り合う人々が映っては通り過ぎ、通り過ぎては映り込んでいた。中にはちらほらと華やかな着物を纏う者も。幸運に恵まれた人々は毎年毎年何不自由なく幸福な日々を、当たり前のように過ごすのだろう。
不運な人間は、神に拝もうが何をしようが不幸に見舞われ、強者に踏み躙られ、苦悶の日々を送る。
だからせめて知って欲しい。その当たり前が、誰かの犠牲の上に成り立っていることを。
降車すれば、ちょっと歩くから、と手袋と懐炉を渡された後、マフラーを首に掛けられる。
以前より少し窶れているようだ。年齢だってまだ若いのに、こんなどうしようもない息子を気遣わなければならないこの人を、不憫に感じた。
そのまま二人は通りをただ黙々と歩き始める。周りの賑わいに染まり、さほど窮屈さは感じない。頬に当たる冷たい空気、浮かれる人々の声、そしてポケットの懐炉がホカホカと温まる感じ。
いつのまにか、鬱々とした心に変化が表れていた。
頑なに塞がれた記憶の箱がそっと開き、流れ出す映像に表情がほのかに綻ぶ。
瑞樹は思い出していたのだ。父と母の間で手を繋ぎ、この道を歩いていたことを。
鳥居を潜ると、懐かしい甘酒の匂いが漂ってくる。窯からゆらゆらと湯気が立ち、寒空の人々を魅了していた。
「ね、後で飲もうよ」
うんと頷いたその抑揚には、童心が宿っていた。
何処を見ても懐かしい。あれもこれも、昔と全然変わらない。辺りをしみじみと眺めていると、「ほら、もうすぐだよ、年明け」という声が聞こえてくる。
賽銭を入れ、礼をし手を合わせると丁度カウントダウンが始まった。
「……五、四、三、二、一、おめでとう!」
辺りは一斉に拍手喝采。母はまだ熱心に願い事をしていた。
鳴り止まない歓喜歓声に振り返るとその様子が一望できた。あの頃はまだ小さく、民衆の中に埋もれていた。
熱気に心も熱くなるが、ただ今の自分は……
「おめでとう」
母の声に振り向くと、社殿の奥を見耽る姿が目に入る。
そしてこちらを見る頃には少し、微笑みを帯びていた。
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