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三
第二十二話
しおりを挟む「もうさぁ、髪型決まんなくて、やだよねぇ」
「ほんとー、マジ勘弁して欲しー」
「雨マジムカつくし」
「だよねー、最悪」
その後ピタッと会話が止まったかと思えば、互いに携帯に没頭していた。時折クスクスと笑いながら、気になる前髪をいじっている。
世の中にはいろんな人がいるもんだ。
瑞樹にはそれが何とも奇妙な光景に思えた。こうして人をマジマジと眺めるなど初めての事。炭酸をストローで吸いながら、辺りをキョロキョロと見回していた。
それは、あの少年を見つけるため。
あれから平穏無事に毎日を過ごせていた。引き続きクラスでは浮き、はぐれ者ではあるものの、あの三人組から攻撃されることは無くなった。
どちらかと言えば、むしろ避けられている様子。一度目が合った時には、バツが悪そうにそっぽを向いたのだ。不可解ではあるが、この束の間の休息を満喫することにした。
このような日々が送れるようになったのも、偏にあの少年のお陰である。あの時助けられていなかったら、と想像するだけで恐ろしい。だから、言いそびれたありがとうという言葉を、是非とも伝えたい。
そんな想いで週末になればこのフードコートに来ているのだが、一向にその願いが叶うことはなかった。
夏休みが始まれば、定期券も切れてしまう。そして時が経ち記憶が薄れ、探すことが困難になるかもしれない。どうしようかと悩んだ末、瑞樹はある計画を立てていた。
プルルル……
「はい、こんにちは。ヘブンズバーガーです。」
「あ、すいません。あっ、お忙しい所すみません。夏休みのアルバイト募集についてなんですが……」
「あー、はいはい」
「あ、興味があるのですが、面接をお願いしても、宜しいでしょうか」
「はい、もちろんですよ。いつでもお越しください」
「はい、ありがとうございます!」
震えで終話アイコンに触れることもままならなかった。トクトクトクと心臓が波打ち、顔が真っ赤に熱を上げている。史上初大胆な行動を取った自分に、本当に大丈夫なのかと不安が襲った。
それでもやるしかない。
テーブルに置いてあった履歴書を手に取り、開き、穴が空くほどじっくりと読み返した。
すぐさま行けば、変な奴になるだろうか。ここは我慢で夜まで待った。手がすく時間帯の方が、迷惑をかけずに済む。
客がひとり、ふたりと去る度に、緊張のボルテージが上がっていく。そして、重い腰を上げゆっくりと戦場へ、向かった。
店奥のドアをノックする。手にかいた汗で封筒が湿りそうだ。慌ててささっとそれを服に擦りつけ拭った。
ガチャッとドアが開く音に、ドキッと反応する。
そこから顔を覗かせた人は、とても穏やかな表情をしていた。
「あぁ、電話の君かな?」
迷子に声を掛けるような、優しいトーンだった。
「あっ、はい! 今お時間大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫だよ」
どうぞどうぞと中へ通される。虎穴に入らずんば、の心境。もう逃げることはできない、立ち向かうのみ。
「雨で大変だったろう。濡れなかったかい?」
「どうだい、飲み物はいるかい?」
との労りの言葉に、孤高の戦士の気張りはだんだん解れていく。どこか祖父の家へでも遊びに来たような、そんな気持ちになっていた。
老眼鏡をかけ、フムフムといった具合に履歴書を眺める。学校の面談を思い出し、品定めされているようで再び身が引き締まった。
「桜井瑞樹君、かぁ。素敵な名前だねぇ」
電話の時から感じていた、この人は良い人だと。
清らかな美しい花を咲かせて欲しい。そんな両親の願いが込めらた名前。お世辞でも褒められれば嬉しいものだ。
自然に笑みがこぼれる。
「高校はどうだい、楽しいかい?」
「へぇ、絵を描くことができるんだ。凄いねぇ」
など、その後も終始世間話のように、アットホームな面接が続いた。
それでもここで働きたいという意志のアピールは忘れずに所々に取り入れる。
「じゃあ、お願いしようかな」
と言われた時、瑞樹は心からの笑顔を放っていた。
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