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一
第五十二話
しおりを挟む七人を輝かしく照らしつける後光、白波がその抑揚を沸き立てる。
楽しかった、とは率直な感想だった。人の干渉を嫌うこの性分も、仲間に限っては例外であるようだ。じっと携帯の待ち受けを眺めては、うっすらと微笑みを浮かべた。
『お天道様はね、ちゃんと見ているんだよ』
父は時折、太陽のことをお天道様と、そう呼んだ。正しく生きれば、きっと報われる。絶望の底に儚く砕け散ったその言葉。
じゃあ何でお父さんは病気になって死んだのか。そんな話は嘘だと自ら証明したようなものじゃないか。
そのように考えては、悲観した。代わりに空虚な心身へ流れ込んだのは、理不尽や矛盾。世の中は父の言う様には成り立っていない。むしろ正反対であると結論付けた。だがこの清々しい皆の笑顔を前に、あの言葉が息を吹き返したようだった。
瑞樹はクローゼットから黒塗りの絵をかき集め、一枚を画架へ立て掛けた。手には白い絵具、それをパレットへ溢れんばかりに乗せる。
キャンバスには、深い深い闇が広がっていた。これほどまでに、重厚であっただろうか。そう感じるほど、陰鬱を帯びていた。
そこへ線を、すっと入れる。
相対する色のコントラスト、明るさはその背景が暗ければ暗い程、より引き立つ。ただのこれだけで、心がふっと軽く感じる不思議。
それを繰り返すと、黒は不服顔で姿を消していった。
一枚終われば、また一枚。絵具の殻はひとつふたつと折り重なり、やがてカランと音を立て崩れ落ちる。瑞樹はそこで、手を止めた。
まだ潤いを保ったその白塗りは照明に当たり、キラキラと眩しい。しばらくその雪化粧に捉えられた後、最初の一枚をそこへやる。そして無造作に別の色を追加し、再び筆を進めた。
使い慣れた古筆は思いも寄らぬ色を含ませ、幾分新鮮味を感じているようだ。そこに描かれたのは実に優し気な雰囲気のある、挿絵だった。
瑞樹はそっと言葉を添える。
暗い暗い闇の中、ひとりぼっちで泣いていた。
すると君が、星と共に降りてきた。
そして、友達になってくれた。
僕を光で、照らしてくれた。
もうさみしくない。
もうこわくない。
もう悲しくない。
君が、いてくれるから。
―ありがとう—
その言葉に君は、微笑んだ。
そして、いっちゃった。
月の夜空に、消えちゃった。
光の粒を僕の手に、残して。
すーっと涙が零れ落ちる。
瑞樹はその絵本のタイトルを、『光の中の少年』とした。
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