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第5話 再びの海底
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俺がマリーナの教育係。ちょっと言っていることの意味がわからない。
「いやいや。俺はまだまだ現役のダイバーだぞ。どうして教育係にならないといけないんだ! 俺のダイバーとしての仕事はどうなる」
「基礎的な学科はある程度他のやつらが教えてくれる。でも、実技試験だけはどうしても現役のダイバーが見なければならないからな。今のところ手隙のダイバーは俺とお前くらいしかいない」
「なんか俺たちトレジャーダイバーがまるで暇人みたいな扱いだな」
別に俺だって暇しているわけではない。日夜、トレーニングに励んだり、考古学の知識を詰めたりして忙しいのに。
「まあ、仕方ない。上からしてみればトレジャーダイバーは安定して利益が生める仕事ではないからな。どうしても発掘状況により当たり外れというものがある。人員を余らすのがもったいないから潜らせているだけみたいな扱いだ」
「いや、そりゃあ……他のダイバーが利益を生んだりインフラ維持に必要なのはわかってるけどさ……」
観光目的のレジャーダイバーはとにかく利益を落とす。船の航路上にいるティアマトを処理するハンターダイバーは安全確保に必要。その他にも魚介類を採取したり、海底に沈んだ鉱石を発掘するダイバーもいなかったら社会が崩壊するレベルだ。
その点、俺たちトレジャーダイバーは……別に沈んだ文明遺産がなくたって生活には困らないからな。基本的に学術的に価値があるものは持って帰れる。
古代の失われた技術を発掘してきてそのテクノロジーを復活させることも一応できるけど、それも運の要素が絡む割には実入りがあるかと言われたら……
なきゃないで困るけど、緊急性がない。それが俺たちの立ち位置だ。だから雑用が降ってきやすい。
「俺は新人の育成経験があるけど、お前はまだ未経験だろ? 今の内にそういう経験もしておいた方がいいと思ってな。まあ、無理にとは言わないが」
「なんだよ。俺がまるで新人教育にビビって逃げ出すとでも思ってんのか? やってやろうじゃねえか!」
こうして、俺はわけのわからないプライドとテンションでマリーナの教育係を引き受けることになった。
「んで、俺はいつからマリーナと実技訓練をすれば良い?」
「そうだな。1~2週間ほどは座学をみっちり詰め込む。それから実技に入るから、それ以降だな」
「わかった。それ以降は自由に潜れなくなるから、今の内に思う存分潜っておくか」
マリーナの素質がどれだけあるのかもまだわからない。座学も頭が良い奴なら速攻でパスする可能性もあるからな。
「ああ。そうだな。それならもう1度あのポイントに行くか? マリーナを拾ったところ」
「そんな捨て猫みたいな言い方……まあ、あそこの調査もまだ終わってないからな。マリーナが倒れていた付近もよく調べてないし」
流石に人命が第一すぎて周囲の様子をよく見てなかったからな。調査したらまたなにか見つかるかもしれない。
「わかった。それじゃあ、船の手配は俺がしておく。お前はこれでも読んでおけ」
ユリウスはドサっと教育マニュアルを渡してきた。
「ここはちゃんとした組織だからな。教育方法もマニュアル化されている。この通りやれば難しいことじゃない」
「へー。それはありがたいことだな」
新人教育か。俺も経験的にはまだまだ新人に近いと思っていたけれど……後輩ができた以上はいつまでも新人気分でいられないってことだな。
俺は結局自宅に戻り教育マニュアルを読むはめになった。
俺も実技教育を受けてダイバーになった立場だ。教育マニュアルを見ながら、あの時の教育はそういう意図があったのか……とか、色々と思い出して懐かしい気持ちになった。
本を1冊読み終わる頃には夕方になり、フィンが帰宅した。
「たっだいまー!」
「ああ、おかえりフィン」
「ねえねえ、聞いて聞いて。今日、こんな大物仕留めてきたんだよ! こーんな大物を!」
フィンは腕いっぱいを大きく広げて自分の成果をアピールしている。
こいつは航路上にいるティアマトを狩って安全を確保するハンターダイバーだ。
こんな人畜無害そうな顔しといて、能力の強さは俺よりも上だ。俺の加速する能力も弱くはないが、正面からの殴り合いの戦闘になったらこいつにはまず勝てない。
「それは良かったな。そんな大物を仕留めるんだったら出世街道をばく進するんじゃねえのか?」
「ありがとー……ん? フィン。それ何読んでいるの? 教育マニュアル?」
「ああ、まあちょっとした勉強だ。仕事で使うハメになった。」
「そうなんだ」
フィンはそれ以上特になにか訊くようなことはしなかった。
口止めは特にされてないけれど、マリーナのことをべらべらしゃべるのはなんとなく良くない気がした。
「ふぁーあ……」
俺は両腕をあげた。本を読みすぎたせいでどうも肩が凝ってしまった。
これだから本を読むのは苦手なんだよな。
それから、俺はフィンと一緒に飯食っていろんな話をしていたら時間が経過して夜中になってきた。
「もうこんな時間か。明日も朝早いしさっさと寝るか」
「あ、ジョーは明日潜水なんだ。がんばってねー」
「ああ、おやすみ。フィンも夜更かしすんなよ」
「うん。おやすみー」
俺は明日の準備をある程度整えて二段ベッドの上で就寝した。
◇
翌日、俺はユリウスと一緒に船に乗り込んでマリーナを救助した場所まで向かった。
船員たちが錨を下ろして船の位置を固定する。
「よし、ユリウス。こっちの準備は終わった」
「ああ、俺もだ。んじゃ、行くか」
俺はユリウスと一緒に再び海へと潜る。
先日、来た時とそう変わらない光景。ここももう少し岸から近ければ観光スポットとして人気が出ていたかもしれない。
「そろそろマリーナがいた場所に来るぞ」
ユリウスが水深を確認しながら進んでいる。
「よし、このままゆっくりと降りていこう」
マリーナを救助した時は周囲にティアマトがいたため、俺の能力で一気に下った。
だが、今回はその必要がない。先日、いたウミヘビ型のティアマトはもういない。
アクセルダイブは空気膜を消耗するため、できるだけ使用は控えたい。
この先になにがあるのかわからない。空気膜の残量に気を配らなければ、待っているのはゆるやかな死だ。
薄くなっていく空気膜を眺めながら、地上までの残量が足りずに絶望して死ぬのだけはごめんだ。
俺は一瞬で下った道をユリウスと一緒にゆっくりと下っていく。
水圧で体に負担をかけないように。ゆっくりと慣らしながら……
そうして、マリーナがいた地点まで到達した。
四方八方、岩に囲まれている。上空から見ればここは巨大な穴のようだ。
「この周囲になにかあるのか?」
ユリウスが岩肌をコンコンと叩いてみる。しかし、特になにかあるわけでもない。
「マリーナの正体に関わるものがあるかもしれない。探してみよう」
周囲になにかマリーナの持ち物がないか探してみる。
この広い海の中で堕としたものを見つけるのは非常に困難である。というか、ほぼほぼ不可能だろう。
しかし、この大きな穴のような場所で落としたのならば、その中を探せばまだ可能性はあるかもしれない。
潮の関係で落とし物が穴の中でとどまっているというのもないとは言い切れない。
「ん? ジョー。ちょっとこっちに来てくれ」
「どうした? ユリウス」
俺はユリウスに近寄る。ユリウスが下を向いていて、そこには斜め下方向に人が通れるくらいの穴があった。
「うーん。この穴はちょっと狭いな」
「俺は通れそうだが、体が大きいユリウスは無理そうだな」
俺が通れるということは、俺よりも細身なマリーナも通れるということだ。
「ちょっと穴の中をライトで照らしてみよう」
俺がライトで穴を照らすと、それは洞窟のように長くどこかへと続いているようだった。
「さて、ジョーどうする? 俺はここを通れない。今、ここにいるメンバーで通れるのはお前だけだ」
基本的にダイバーの探索行動は2人1組で行うのが原則だ。ここで俺だけがこの穴を通るとユリウスとははぐれてしまう。
どうしたものか。
「いやいや。俺はまだまだ現役のダイバーだぞ。どうして教育係にならないといけないんだ! 俺のダイバーとしての仕事はどうなる」
「基礎的な学科はある程度他のやつらが教えてくれる。でも、実技試験だけはどうしても現役のダイバーが見なければならないからな。今のところ手隙のダイバーは俺とお前くらいしかいない」
「なんか俺たちトレジャーダイバーがまるで暇人みたいな扱いだな」
別に俺だって暇しているわけではない。日夜、トレーニングに励んだり、考古学の知識を詰めたりして忙しいのに。
「まあ、仕方ない。上からしてみればトレジャーダイバーは安定して利益が生める仕事ではないからな。どうしても発掘状況により当たり外れというものがある。人員を余らすのがもったいないから潜らせているだけみたいな扱いだ」
「いや、そりゃあ……他のダイバーが利益を生んだりインフラ維持に必要なのはわかってるけどさ……」
観光目的のレジャーダイバーはとにかく利益を落とす。船の航路上にいるティアマトを処理するハンターダイバーは安全確保に必要。その他にも魚介類を採取したり、海底に沈んだ鉱石を発掘するダイバーもいなかったら社会が崩壊するレベルだ。
その点、俺たちトレジャーダイバーは……別に沈んだ文明遺産がなくたって生活には困らないからな。基本的に学術的に価値があるものは持って帰れる。
古代の失われた技術を発掘してきてそのテクノロジーを復活させることも一応できるけど、それも運の要素が絡む割には実入りがあるかと言われたら……
なきゃないで困るけど、緊急性がない。それが俺たちの立ち位置だ。だから雑用が降ってきやすい。
「俺は新人の育成経験があるけど、お前はまだ未経験だろ? 今の内にそういう経験もしておいた方がいいと思ってな。まあ、無理にとは言わないが」
「なんだよ。俺がまるで新人教育にビビって逃げ出すとでも思ってんのか? やってやろうじゃねえか!」
こうして、俺はわけのわからないプライドとテンションでマリーナの教育係を引き受けることになった。
「んで、俺はいつからマリーナと実技訓練をすれば良い?」
「そうだな。1~2週間ほどは座学をみっちり詰め込む。それから実技に入るから、それ以降だな」
「わかった。それ以降は自由に潜れなくなるから、今の内に思う存分潜っておくか」
マリーナの素質がどれだけあるのかもまだわからない。座学も頭が良い奴なら速攻でパスする可能性もあるからな。
「ああ。そうだな。それならもう1度あのポイントに行くか? マリーナを拾ったところ」
「そんな捨て猫みたいな言い方……まあ、あそこの調査もまだ終わってないからな。マリーナが倒れていた付近もよく調べてないし」
流石に人命が第一すぎて周囲の様子をよく見てなかったからな。調査したらまたなにか見つかるかもしれない。
「わかった。それじゃあ、船の手配は俺がしておく。お前はこれでも読んでおけ」
ユリウスはドサっと教育マニュアルを渡してきた。
「ここはちゃんとした組織だからな。教育方法もマニュアル化されている。この通りやれば難しいことじゃない」
「へー。それはありがたいことだな」
新人教育か。俺も経験的にはまだまだ新人に近いと思っていたけれど……後輩ができた以上はいつまでも新人気分でいられないってことだな。
俺は結局自宅に戻り教育マニュアルを読むはめになった。
俺も実技教育を受けてダイバーになった立場だ。教育マニュアルを見ながら、あの時の教育はそういう意図があったのか……とか、色々と思い出して懐かしい気持ちになった。
本を1冊読み終わる頃には夕方になり、フィンが帰宅した。
「たっだいまー!」
「ああ、おかえりフィン」
「ねえねえ、聞いて聞いて。今日、こんな大物仕留めてきたんだよ! こーんな大物を!」
フィンは腕いっぱいを大きく広げて自分の成果をアピールしている。
こいつは航路上にいるティアマトを狩って安全を確保するハンターダイバーだ。
こんな人畜無害そうな顔しといて、能力の強さは俺よりも上だ。俺の加速する能力も弱くはないが、正面からの殴り合いの戦闘になったらこいつにはまず勝てない。
「それは良かったな。そんな大物を仕留めるんだったら出世街道をばく進するんじゃねえのか?」
「ありがとー……ん? フィン。それ何読んでいるの? 教育マニュアル?」
「ああ、まあちょっとした勉強だ。仕事で使うハメになった。」
「そうなんだ」
フィンはそれ以上特になにか訊くようなことはしなかった。
口止めは特にされてないけれど、マリーナのことをべらべらしゃべるのはなんとなく良くない気がした。
「ふぁーあ……」
俺は両腕をあげた。本を読みすぎたせいでどうも肩が凝ってしまった。
これだから本を読むのは苦手なんだよな。
それから、俺はフィンと一緒に飯食っていろんな話をしていたら時間が経過して夜中になってきた。
「もうこんな時間か。明日も朝早いしさっさと寝るか」
「あ、ジョーは明日潜水なんだ。がんばってねー」
「ああ、おやすみ。フィンも夜更かしすんなよ」
「うん。おやすみー」
俺は明日の準備をある程度整えて二段ベッドの上で就寝した。
◇
翌日、俺はユリウスと一緒に船に乗り込んでマリーナを救助した場所まで向かった。
船員たちが錨を下ろして船の位置を固定する。
「よし、ユリウス。こっちの準備は終わった」
「ああ、俺もだ。んじゃ、行くか」
俺はユリウスと一緒に再び海へと潜る。
先日、来た時とそう変わらない光景。ここももう少し岸から近ければ観光スポットとして人気が出ていたかもしれない。
「そろそろマリーナがいた場所に来るぞ」
ユリウスが水深を確認しながら進んでいる。
「よし、このままゆっくりと降りていこう」
マリーナを救助した時は周囲にティアマトがいたため、俺の能力で一気に下った。
だが、今回はその必要がない。先日、いたウミヘビ型のティアマトはもういない。
アクセルダイブは空気膜を消耗するため、できるだけ使用は控えたい。
この先になにがあるのかわからない。空気膜の残量に気を配らなければ、待っているのはゆるやかな死だ。
薄くなっていく空気膜を眺めながら、地上までの残量が足りずに絶望して死ぬのだけはごめんだ。
俺は一瞬で下った道をユリウスと一緒にゆっくりと下っていく。
水圧で体に負担をかけないように。ゆっくりと慣らしながら……
そうして、マリーナがいた地点まで到達した。
四方八方、岩に囲まれている。上空から見ればここは巨大な穴のようだ。
「この周囲になにかあるのか?」
ユリウスが岩肌をコンコンと叩いてみる。しかし、特になにかあるわけでもない。
「マリーナの正体に関わるものがあるかもしれない。探してみよう」
周囲になにかマリーナの持ち物がないか探してみる。
この広い海の中で堕としたものを見つけるのは非常に困難である。というか、ほぼほぼ不可能だろう。
しかし、この大きな穴のような場所で落としたのならば、その中を探せばまだ可能性はあるかもしれない。
潮の関係で落とし物が穴の中でとどまっているというのもないとは言い切れない。
「ん? ジョー。ちょっとこっちに来てくれ」
「どうした? ユリウス」
俺はユリウスに近寄る。ユリウスが下を向いていて、そこには斜め下方向に人が通れるくらいの穴があった。
「うーん。この穴はちょっと狭いな」
「俺は通れそうだが、体が大きいユリウスは無理そうだな」
俺が通れるということは、俺よりも細身なマリーナも通れるということだ。
「ちょっと穴の中をライトで照らしてみよう」
俺がライトで穴を照らすと、それは洞窟のように長くどこかへと続いているようだった。
「さて、ジョーどうする? 俺はここを通れない。今、ここにいるメンバーで通れるのはお前だけだ」
基本的にダイバーの探索行動は2人1組で行うのが原則だ。ここで俺だけがこの穴を通るとユリウスとははぐれてしまう。
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