海底文明のティアマト

下垣

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第8話 新たなバディ

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 海底古代遺跡から帰還した俺は翌日ユリウスに呼び出された。

「ジョー。あの海底の古代遺跡だがまた調査することになった。前回調査したお前がもう1度あそこに潜るのが適任だろうと上は判断した」

「いや、俺が向かうのは別にいいんだけど、ユリウスはあの遺跡には入れないだろう?」

「ああ。その通りだ。だから、一旦は俺とお前のバディは解消だ」

 まあ、予想はしていたけど、別のバディと組んであの古代遺跡を調査することになったか。

「それでだ。現在手隙のトレジャーダイバーはいない」

「なんでだよ」

「ほとんどが雑用を押し付けられてしまっているからな」

 トレジャーダイバーとは一体……

 生産性と緊急性がない部門の扱いなんてこんなものか。

「だからハンターダイバーの誰かと俺が入れ替わることになった。いわゆるバディ交換だな。とりあえず、お前のバディ候補となるハンターダイバーはこいつらだ」

 ユリウスからリストを渡される。そこにはずらーっとトレジャーダイバーの名前が書かれてあった。

「とりあえずあの穴に通れそうな体格のやつをピックアップしておいた。お前みたいにひょろい野郎か細身の女が大半だ。メンバーにパワータイプがいないのは勘弁してくれ」

 まあ、遺跡調査にそこまでパワーが要求されるようなことはないだろうけど……

 それでもあの空間にティアマトみたいな危険な存在がいないとは限らない。できるだけ強いやつがいいな。

 それでいて俺と“息”がぴったりあうやつ。最有力候補はやはりこいつだろう。

「ユリウス。フィンは空いているか?」

「フィンか。たしかお前のルームメイトだったよな」

「ああ。フィンとは関係が出来上がっているから仕事がやりやすい」

 ダイバーのバディはお互いに命を預ける仲だ。実力はもちろんのこと人間として信頼できるかどうかも重要になってくる。

 いくら実力があっても、万一の時に自分を裏切るような人間とは組みたくない。そう思うのが信条だ。

 だから、お互いにこいつは裏切らない。そんな信頼が不可欠。

 フィンは実力と人間性。そのどちらも俺にとっては申し分ない。むしろ、この要求は少し贅沢だと感じるくらいだ。

「まあ、フィンの返答次第だな。俺が言うよりかはジョーが直接言った方が話は早いだろう」

「ああ。交渉の結果はまた報告する」

 こうして、俺はフィンを呼び出して話をすることにした。

 海底古代都市について説明する。そこを通るには一定以上の大きさだと無理。ユリウスは巨漢なせいで通れなかった。

 だから、新しいバディが必要だ。そんな話をフィンにする。

「んー。それで僕がいない間は誰がアズルちゃんと組むの?」

 アズルはフィンのバディである。まあ、フィンもダイバーでバディを組んでいる相手がいるから当然の疑問だな。

「それはユリウスだ」

「ユリウスさんかー。それならいいかな。うん。安心してアズルちゃんを任せられる!」

 なんだかフィンが保護者目線を発動しているけれど、アズルさんの方が先輩だぞ。

 まあ、元々のバディが自分の代わりに変な相手と組まされるってなったら、俺だっていやだから気持ちはわかる。

「それじゃあよろしく。ジョー」

「ああ、よろしく頼む」

 俺はフィンと握手を交わして一時的にバディを組むことになった。



 俺とフィンは船に乗り、例の海域まで向かった。

 俺はここに来るのは3回目であるため、景色は見慣れているがフィンは初めて来るのでなんだか落ち着かない様子だ。

「こんな航路上から外れたところに来るんだね」

「ああ。フィンはいつも決まった航路のところを警備しているもんな」

「うん。海路の安全を守るのが僕の仕事だからね」

 フィンはハンターダイバー。航路上にいる危険生物やティアマトを倒して交易船や遊覧船等が安全に通れるようにしている。

 俺たちトレジャーダイバーはそうした航路上以外のところの未知の部分を探索するダイバーだ。だから、船上の移動も危険がないわけではない。

「ねえ。もし船を走らせている時にティアマトが来たらどうするの?」

「ソナーで近くにティアマトが接近しているかどうかはわかる。近づいてくるなら航路を変更して逃げるか……それでも追ってくるときは仕方ないから戦うしかないな」

 別に俺たちの目的はティアマトを倒すことではない。戦闘を避けられるんだったら、それに越したことはない。

 ティアマトを倒したところで別になにか利益があるわけでもないし。

「さて、そろそろポイントに着くぞ。フィン。潜水の準備をしておけよ」

「うん」

 俺とフィンは潜水の準備をする。装備の確認だったり、入念な準備体操。深呼吸して精神を落ち着かせるのも重要だ。

 海ではパニックになった奴から死ぬという格言もあるくらいに平常心が重要だ。

 ダイバーたるもの常にメンタルはケアしなければならない。

 準備を整え終わった頃、船が停泊をした。もういつでも潜水できる状態だ。

「よし、フィン。準備ができたら行くぞ」

「うん」

 俺とフィンは海に飛び込んだ。

 ユリウスほどではないが、フィンもかなり頼りになる。背中を預けるには十分すぎる。

 俺は海に潜って先導して古代遺跡を目指す。

「フィン。しっかりついてくるんだ。ついでに周囲の警戒を頼む。なにか異常があったら知らせてくれ」

「了解」

 海は広大で四方八方から危険が迫ってくる。

 1人ならば2つの目しかないが、バディならば4つの目であらゆる方向からの危険を察知できる。

 死角をなくせるのもバディがいることの強みだ。

「この大穴を更に下っていくぞ」

 マリーナが倒れていた大穴付近までやってきた。俺はフィンが背後から付いてきていることを確認して大穴の中に入る。

 そのまま穴の底を目指す。そして、先日と様子が全く変わっていない古代遺跡へ通じる通路を発見した。

「ここだ」

「おー。この穴が通路になってんの? けっこう狭いね。僕でもギリギリなくらい。そりゃ、ユリウスさんは通れないねー」

 フィンが穴の中を覗き込もうとしている。

「とりあえず、この通路は1人ずつ通ろう。2人同時に入ると挟み撃ちにされた時に詰まって退避できなくなる」

 この通路を俺たちだけが通るとは限らない。凶悪な生物やティアマトとかちあうリスクはないとは言えない。

「先に俺が通って安全を確保する。腕輪の通信で合図を送るから、そうしたらフィンも来てくれ」

「りょーかい!」

 俺は細長い通路に入る。この狭い中で戦闘になったら俺はまず死ぬ。

 俺のアクセルダイブは広いところで真価を発揮する能力だ。こんなところでは何の役にも立たない。

 俺はトライデントを構えて慎重に先へと進んでいく。

 今回も特に通路に危険はなかった。

 無事に遺跡にたどり着いた。腕輪でフィンを呼ぼう。

「フィン。俺だ。ジョーだ。通路内は安全だった。来てくれ」

「おっけー!」

 フィンが俺に続く。通路の入口からフィンがひょこっと出てきた。

「とーちゃーく!」

「おつかれ」

 前回来た時は1人だったから少し心細かったが、今回はフィンがいるからかなり心強い。お互いに助け合える仲間というものはいいものだ。

「ここがジョーが言っていた海底古代都市かー。おー、すごいねー。僕、海底遺跡なんて初めてみたよ」

「そうか。なら貴重な体験ができたな。俺が前回探索した建物をもう1度探索しよう。まだなにかあるかもしれない」

「うん」

 俺はフィンと一緒に建物の中に入った。多少は警戒していたけれど、前回1人で入った時よりかは緊張はしていない。

 隣にフィンがいるからか、スムーズに建物に侵入できた。

「ここが遺跡内の建物? あんまり僕たちが使っている建物と間取りは変わらないね」

「たしかにな。元々はここも地上にあった都市だ。大きく文明が異なるなんてことはないのかも」
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