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第13話 マリーナの実技訓練
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フィンと共に海底探索を終えた俺は探索中の出来事を報告して更にサポートも書いた。
負傷者を出してしまった以上はきちんとそのことも報告しなければならない。
フィンは現在病院にて治療を受けている。幸いにして、命に別状はないし、なんらかの障害も残ることはなさそうだ。
しばらくは療養するだろうが、その内また復帰するだろう。
「ただいまー」
自分のやるべきことを終えた俺は自分の部屋へと帰宅した。
帰宅を告げても誰にもなんの返事もない。
静まりかえった部屋で俺は寂しい気持ちになった。
フィンは現在入院中でしばらくはこの部屋にも戻ってこない。
当然、その間は俺は1人だ。
いつもはいる同居人がいないこの部屋。いつもと同じ部屋なのに、違う空間に感じてしまう。
賑やかなフィンがいないとこうも退屈なものだ。早くフィンの怪我が治り帰ってきて欲しい。
俺は2段ベッドの上で仰向けになって寝る。
上には天井。下にはフィンがいるはずだった。
別に今はフィンがいないから俺が下の段を使っても問題はない。
でも、やっぱりなんとなくいつもと同じところじゃないと落ち着かない。
上る必要がない2段ベッドの上段で俺は目を閉じ静かに眠りについた。
◇
翌日、俺は誰もいない部屋で目覚めてから、そしてダイバー協会へと出向いた。
ダイバー協会の受付にて、俺はユリウスと出会った。
「おお! ジョー。おかえり。無事に帰ってきたんだな」
「無事なものか。俺のせいでフィンが……」
「生きているだけいいじゃないか。お前はよくやったよ」
ユリウスが俺の頭の上にでかい手をぽんと置いた。
「ジョー。親友の負傷を悲しんでいる暇はないぞ。この前も言ったけどお前にはある仕事が与えられた」
「えーと……確かマリーナの実技訓練だっけ?」
「ああ。そうだ。訓練場にてマリーナが待機している。そこに行ってやれ」
「わかった……俺の訓練中はユリウスはどうするんだ?」
俺の質問にユリウスは少し答え辛そうにしている。頭をかきながら慎重に言葉を選ぶように口を開いた。
「あー……アズルさん……フィンのバディと一緒に組んでハンター活動だな」
そうか。今はフィンは入院中だからそのバディのアズルさんが1人になってしまうのか。
ダイバー活動は原則として1人で行うことができない。
だから、手隙のユリウスがそっちのヘルプに入るのは理解できる。
「もし、フィンが負傷してなかったらどんな予定だったんだ?」
「おいおい。俺がわざわざ気を遣ってそこは伏せたのに訊くんかい」
「気を遣ってくれて嬉しいけど……そこまでしなくても大丈夫だ。俺はちゃんと自分の責任と向き合うよ」
「ダイバー活動中の負傷はなにもバディの責任でもないんだけどな。まあいいや……本来なら俺はお前の監督をする予定だった」
実技教官の更にその監督。まあ、俺も教官経験がないし、ちゃんと教えられているかの確認はしといた方が良かったのか。
「まあ、お前ならちゃんとやってくれると信じて、ベテランによる監視はなくなった。このダイバー協会も決して人材が余っているわけじゃないからな」
まあ、それはなんとなくわかっている。
トレジャーダイバーに雑用が回ってきやすいことから人員が結構ギリギリなんだろうなって感じはする。
そんなギリギリの人員だから、マリーナを即刻採用したのも切実な事情があるんだろうな。
「というわけだ。しっかり実技教育のマニュアルを読み込んだと思うけど、しっかりやれよ。マニュアルから大きく逸脱しなければ問題ないはずだ」
「ああ、わかった」
「それじゃあ、俺はアズルさんのところに行ってくる。じゃなあ」
ユリウスは協会の建物の外に向かって行った。なんだかユリウスにも申し訳なくなってくるな。予定外の仕事を入れてしまったから。
まあ、そんなことを気にしていても仕方ないか。いつまでもウジウジとしていたら、俺の目の前の仕事も遂行できないからな。
俺はダイバー協会が管理している訓練施設へと向かった。
この訓練施設は大きな水槽があり、その中身は海水とほぼ同じ成分が再現されている。
ダイバーは基本的にここで訓練をする。候補生はもちろんのこと、ベテランダイバーも訓練を怠ることはない。
訓練不足が死に繋がることもある。何にも予定がない日は訓練に費やすのがダイバーの生活というものだ。
俺は男子更衣室に入る。ここでダイバースーツに着替えるんだが……
俺の目の前にはなぜか……下着姿のマリーナがいた。
「へ……あ! ちょ、ちょっと! マリーナ! ここ、男子更衣室!」
俺はそう言って慌てて男子更衣室のドアを閉めた。
そして、ドア越しに会話を続ける。
「女子更衣室は隣だよ! ほら、そこにいると俺が困るから移動してくれ」
「あー。そうなんだ。ごめんなさい。今移動するね」
男子更衣室のドアが開く。俺は下着姿のマリーナと目が合った。
「いや、下着姿のまま更衣室から出てくんな! 着替え終わってからでいいから!」
なんだこの女……天然か?
それとも海底で酸欠の状態になったせいで脳の思考能力が鈍ってしまったとか。
ダイバーの世界でもよくあることである。空気膜が途中で尽きて呼吸ができなくなったダイバーが命からがら生還をする。
しかし、脳や体に重篤な障害が残ってしまうことがある。
名門大学を出たエリートダイバーが簡単な四則演算すらもできなくなった実例もある。
それだけ、体と脳にとっては酸素は必要なものだ。マリーナも酸素がない状態で放置されていたから、なんらかの身体の異常があってもおかしくはないが……
その辺はどうなんだろう。脳のスキャンとかしたと思うけど。それで仮に異常なしだったのなら……この天然は元からか?
俺はしばらく男子更衣室の前で待っていた。
「お待たせ―」
訓練用のダイバースーツに着替えたマリーナが手荷物を持って出てきた。
「この赤い扉が女子更衣室だ。間違えないでくれ」
「そうなんだ。私は青が好きだから、青色の方に進んじゃった」
む……たしかに。俺は無意識の内に性別で進むべき道が分かれている時は、青や黒は男子、赤やピンクは女子と判断している。
これは俺たちが幼少のころから刷り込まれた潜在意識のようなものだ。
特に学習して学んだわけではない。世界中でそうなっているから自然と覚えた。
いわば、人類ほぼ共通のデファクトスタンダードのようなもののはずだ。
でも、このマリーナはその共通認識がなかった。
ということは、天然とかそういう話ではなくて、そもそもの文化圏が違うのか?
俺も人類全ての文化を知っているわけじゃない。女が青を好んで性別を分ける時は、女側を青でデザインする文化がない保証はどこにもない。
なんて難しく考えすぎだろうか。
ただ、このマリーナという女は出身地や素性。その全てが謎に包まれている。
わかるのはマリーナという名前と34歳という年齢だけ。
俺よりも20歳も上のこの女。存在そのものがミステリアスだな。
◇
人の身長の3~4倍ほどはある巨大な水槽。そこにははしごがかけられていてそこから登り、中に入ることができる。
俺たちははしごの前でお互いに向かい合って立っている。
「それじゃあ、改めて自己紹介をしよう。俺はジョー。現役のトレジャーダイバーだ。まだまだルーキーだけど少なくともマリーナよりは先輩だ。今日は俺が教官を務める。よろしく頼む」
「はい! よろしくお願いします! ジョー教官!」
マリーナはビシっと敬礼をする。
「返事はいいな。とりあえず、この訓練では俺の言うことは絶対に聞いて欲しい。なにがあっても逆らわない。それが約束できなかったらこの訓練は速攻で中止する」
「なんでですか?」
「安全の配慮のためだ。マリーナはまだダイバーとしての知識がない。そこで勝手な自己判断をすれば溺れて死にかねない。それだけ海は……水は怖いんだ」
マリーンは青ざめてぶるぶると震えている。別に脅すつもりはなかったんだけどな。
「きょ、教官! 私教官の言うことはなんでも聞きます! なんでもします!」
「いや、別になんでもはしなくても……俺も変な指示は出さんわ」
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フィンは現在病院にて治療を受けている。幸いにして、命に別状はないし、なんらかの障害も残ることはなさそうだ。
しばらくは療養するだろうが、その内また復帰するだろう。
「ただいまー」
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帰宅を告げても誰にもなんの返事もない。
静まりかえった部屋で俺は寂しい気持ちになった。
フィンは現在入院中でしばらくはこの部屋にも戻ってこない。
当然、その間は俺は1人だ。
いつもはいる同居人がいないこの部屋。いつもと同じ部屋なのに、違う空間に感じてしまう。
賑やかなフィンがいないとこうも退屈なものだ。早くフィンの怪我が治り帰ってきて欲しい。
俺は2段ベッドの上で仰向けになって寝る。
上には天井。下にはフィンがいるはずだった。
別に今はフィンがいないから俺が下の段を使っても問題はない。
でも、やっぱりなんとなくいつもと同じところじゃないと落ち着かない。
上る必要がない2段ベッドの上段で俺は目を閉じ静かに眠りについた。
◇
翌日、俺は誰もいない部屋で目覚めてから、そしてダイバー協会へと出向いた。
ダイバー協会の受付にて、俺はユリウスと出会った。
「おお! ジョー。おかえり。無事に帰ってきたんだな」
「無事なものか。俺のせいでフィンが……」
「生きているだけいいじゃないか。お前はよくやったよ」
ユリウスが俺の頭の上にでかい手をぽんと置いた。
「ジョー。親友の負傷を悲しんでいる暇はないぞ。この前も言ったけどお前にはある仕事が与えられた」
「えーと……確かマリーナの実技訓練だっけ?」
「ああ。そうだ。訓練場にてマリーナが待機している。そこに行ってやれ」
「わかった……俺の訓練中はユリウスはどうするんだ?」
俺の質問にユリウスは少し答え辛そうにしている。頭をかきながら慎重に言葉を選ぶように口を開いた。
「あー……アズルさん……フィンのバディと一緒に組んでハンター活動だな」
そうか。今はフィンは入院中だからそのバディのアズルさんが1人になってしまうのか。
ダイバー活動は原則として1人で行うことができない。
だから、手隙のユリウスがそっちのヘルプに入るのは理解できる。
「もし、フィンが負傷してなかったらどんな予定だったんだ?」
「おいおい。俺がわざわざ気を遣ってそこは伏せたのに訊くんかい」
「気を遣ってくれて嬉しいけど……そこまでしなくても大丈夫だ。俺はちゃんと自分の責任と向き合うよ」
「ダイバー活動中の負傷はなにもバディの責任でもないんだけどな。まあいいや……本来なら俺はお前の監督をする予定だった」
実技教官の更にその監督。まあ、俺も教官経験がないし、ちゃんと教えられているかの確認はしといた方が良かったのか。
「まあ、お前ならちゃんとやってくれると信じて、ベテランによる監視はなくなった。このダイバー協会も決して人材が余っているわけじゃないからな」
まあ、それはなんとなくわかっている。
トレジャーダイバーに雑用が回ってきやすいことから人員が結構ギリギリなんだろうなって感じはする。
そんなギリギリの人員だから、マリーナを即刻採用したのも切実な事情があるんだろうな。
「というわけだ。しっかり実技教育のマニュアルを読み込んだと思うけど、しっかりやれよ。マニュアルから大きく逸脱しなければ問題ないはずだ」
「ああ、わかった」
「それじゃあ、俺はアズルさんのところに行ってくる。じゃなあ」
ユリウスは協会の建物の外に向かって行った。なんだかユリウスにも申し訳なくなってくるな。予定外の仕事を入れてしまったから。
まあ、そんなことを気にしていても仕方ないか。いつまでもウジウジとしていたら、俺の目の前の仕事も遂行できないからな。
俺はダイバー協会が管理している訓練施設へと向かった。
この訓練施設は大きな水槽があり、その中身は海水とほぼ同じ成分が再現されている。
ダイバーは基本的にここで訓練をする。候補生はもちろんのこと、ベテランダイバーも訓練を怠ることはない。
訓練不足が死に繋がることもある。何にも予定がない日は訓練に費やすのがダイバーの生活というものだ。
俺は男子更衣室に入る。ここでダイバースーツに着替えるんだが……
俺の目の前にはなぜか……下着姿のマリーナがいた。
「へ……あ! ちょ、ちょっと! マリーナ! ここ、男子更衣室!」
俺はそう言って慌てて男子更衣室のドアを閉めた。
そして、ドア越しに会話を続ける。
「女子更衣室は隣だよ! ほら、そこにいると俺が困るから移動してくれ」
「あー。そうなんだ。ごめんなさい。今移動するね」
男子更衣室のドアが開く。俺は下着姿のマリーナと目が合った。
「いや、下着姿のまま更衣室から出てくんな! 着替え終わってからでいいから!」
なんだこの女……天然か?
それとも海底で酸欠の状態になったせいで脳の思考能力が鈍ってしまったとか。
ダイバーの世界でもよくあることである。空気膜が途中で尽きて呼吸ができなくなったダイバーが命からがら生還をする。
しかし、脳や体に重篤な障害が残ってしまうことがある。
名門大学を出たエリートダイバーが簡単な四則演算すらもできなくなった実例もある。
それだけ、体と脳にとっては酸素は必要なものだ。マリーナも酸素がない状態で放置されていたから、なんらかの身体の異常があってもおかしくはないが……
その辺はどうなんだろう。脳のスキャンとかしたと思うけど。それで仮に異常なしだったのなら……この天然は元からか?
俺はしばらく男子更衣室の前で待っていた。
「お待たせ―」
訓練用のダイバースーツに着替えたマリーナが手荷物を持って出てきた。
「この赤い扉が女子更衣室だ。間違えないでくれ」
「そうなんだ。私は青が好きだから、青色の方に進んじゃった」
む……たしかに。俺は無意識の内に性別で進むべき道が分かれている時は、青や黒は男子、赤やピンクは女子と判断している。
これは俺たちが幼少のころから刷り込まれた潜在意識のようなものだ。
特に学習して学んだわけではない。世界中でそうなっているから自然と覚えた。
いわば、人類ほぼ共通のデファクトスタンダードのようなもののはずだ。
でも、このマリーナはその共通認識がなかった。
ということは、天然とかそういう話ではなくて、そもそもの文化圏が違うのか?
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なんて難しく考えすぎだろうか。
ただ、このマリーナという女は出身地や素性。その全てが謎に包まれている。
わかるのはマリーナという名前と34歳という年齢だけ。
俺よりも20歳も上のこの女。存在そのものがミステリアスだな。
◇
人の身長の3~4倍ほどはある巨大な水槽。そこにははしごがかけられていてそこから登り、中に入ることができる。
俺たちははしごの前でお互いに向かい合って立っている。
「それじゃあ、改めて自己紹介をしよう。俺はジョー。現役のトレジャーダイバーだ。まだまだルーキーだけど少なくともマリーナよりは先輩だ。今日は俺が教官を務める。よろしく頼む」
「はい! よろしくお願いします! ジョー教官!」
マリーナはビシっと敬礼をする。
「返事はいいな。とりあえず、この訓練では俺の言うことは絶対に聞いて欲しい。なにがあっても逆らわない。それが約束できなかったらこの訓練は速攻で中止する」
「なんでですか?」
「安全の配慮のためだ。マリーナはまだダイバーとしての知識がない。そこで勝手な自己判断をすれば溺れて死にかねない。それだけ海は……水は怖いんだ」
マリーンは青ざめてぶるぶると震えている。別に脅すつもりはなかったんだけどな。
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