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第38話 ボス探し
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クララとミラが昼間から飲んでいるジェフに向かって強める。
「先生! ですから、私たちは聞いたんです! ネズミが地図を作っていて、それを使って街を襲撃しようとしているって!」
「なぁにぃ~? ネズミがチーズだぁ? まあ、確かにネズミはチーズが好物って……ひっく……話はあるもんな」
酒を飲みながらクララの話を聞く。そして、ミラがため息をついて呆れてしまう。
「ダメだ。この酔っ払い。話にならない。そんなんだから、その年になっても独身なんですよ。先生」
「かっかっか。いいじゃねえかぁ。嫁がいたら女遊びもできなくなるからなぁ。ひっひー」
最早、この酔っ払いには、なにを言っても取り付くしまがない。クララとミラは目配せして、日を改めることにした。
◇
アルド、イーリス、クララ、ミラの4人はとある屋敷の前で待ち合わせていた。この屋敷はかつてこの街に住んでいたとされる明主の屋敷で、一族が滅んでからはずっと放置されている。幽霊が出るなんて噂もあるほどである。
この屋敷の近くにある裏路地。そこに下水道の入口がある。長い間管理されていないため、封鎖されていないのだ。
「結局、ジェフさんの協力は得られなかったのか」
「まあ、あの酔っ払いに来られても仕方ないとアタシは思うけどね」
ミラが辛辣に返す。新たな助っ人を……と思ったが、それがいないまま、4人で攻略する運びとなった。
「よし、それじゃあ、僕から先に行く。その後をミラ、イーリス、クララの順番で付いてきて」
「はーい」
アルドが下水道の入口に設置してあるハシゴを降りていく。最も信仰が高くて邪霊の攻撃に強いアルドを先頭に、信仰が高いミラとイーリスを挟んでクララがしんがりを務めるという探索においては安定したものである。
クララが下水道に降り終わった後、ミラがある魔法を唱える。
「ブライト」
ミラの右手から黄色い光の玉がふわっとでてきて、ゆらゆらと揺れながら空中に浮いている。
「それは?」
「黄の魔法だよ。雷と光の魔法。こういう暗がりを照らすのが得意なんだ」
へーと感心するアルド。イーリスもクララも黄の魔法を使えなかったために、現状ではミラしかこの魔法を使えるものはいない。そういう意味では貴重な戦力とも言える。
アルドを先頭に下水道を歩いていくと……ドロドロの黒いヘドロの物体が目の前に現れた。そのヘドロからは「うーうー」とうめき声が聞こえてとても不気味である。ヘドロから人間の手を模した突起がでてきて、それがアルドを掴もうとする。
「こいつは邪霊か!」
アルドは剣を振るい、ヘドロの突起を斬り落とす。斬り落とされた腕はドロっと垂れる。剣越しでも不快なほどの柔らかいヘドロの感覚が伝わって来てアルドは思わず冷や汗をかいてしまった。
「ウィンド!」
最後尾のクララがウィンドの魔法を放った。ヘドロはウィンドの魔法を受けて乾燥をしてしまう。ドロドロだった体がぴきぴきと音を立てて固まっていく。そしてやがてヘドロは動かなくなり、パンと破裂して石片を残して消滅してしまった。
「ヘドロの邪霊は風の魔法に弱い。緑の魔法なら私とイーリスちゃんが使えるから、この程度の邪霊なら私たちに任せて」
「うん、そうする。僕の剣もヘドロでなんかドロドロに汚れちゃったし」
これは後で武器の手入れが必要だなと、アルドはうんざりした表情を浮かべてしまう。風の魔法で倒せるんだったら、先に教えておいて欲しかったと思うアルドであった。
「この地下水道にネズミ以外の邪霊がいるんだね」
イーリスがぽつりとこぼした。確かに地上に出ている邪霊はネズミだけだったが、それ以外の邪霊も下水道に待機していたということになる。
「そうだね。イーリスちゃん。恐らくはこの街を襲撃しようとしているボスの邪霊。そいつが、色んな邪霊たちを呼びよせているんだと思う」
「ああ、そうだな。アタシの見立てによると、この下水道はいつダンジョン化してもおかしくない程に邪霊の気配に満ちている。邪霊を封印する精霊さえ連れて来れば一発でダンジョン化するだろう。どうする? 精霊と話をつければ、この問題は一時的には解決できるけれど」
ミラの提案も1つの案としては正しい。精霊の力を借りて邪霊を下水道に封印する。そうすれば、少なくともダンジョン化した下水道の整備が難しくなるだけで、邪霊が街に出て来ることはなくなるため、平和にはなる。
「私は反対だなあ。人間は精霊の力に頼りすぎている。自分たちの力で倒せるんだったら、そうした方がいい。それにダンジョン化は問題の先送りに過ぎない。ダンジョン化は最終手段として考えるのはアリだけど、それ頼りはやっぱりダメだよ」
ダンジョンで儲けてやろうなんて邪な考えを持たずに、純粋に精霊を助けたいクララはダンジョン化せずに解決できるならそれでいいと思っている。
「うん。私もクララさんの意見に賛成だよ」
「僕もだ」
イーリスがクララに同調する。アルドもイーリスのために同じ考えを示した。本音を言えば、ダンジョン化した方が稼げると言えば稼げる。そうすれば、アルドも副業の収入が上がる可能性がある。しかし、アルドが副業をしているのはイーリスのため、イーリスがダンジョン化を望まないのであれば、アルドも無理して望むことはしない。
「反対多数ってことね。まあ、クララならそう言うと思ったさ。でも、アルドさんも反対派とは意外だったな。ディガーはダンジョン化している方がクリア報酬がもらえたり、素材が発掘できたりして得だと思うけどな」
「まあ、報酬よりも大切なものがあるからね」
「例えば?」
「娘の笑顔とか?」
アルドは淀みない瞳で答える。イーリスは両手を頬に当てて照れている。
「や、やだあ。お父さんってば」
親子のイチャつきを見せつけたところで、次の邪霊が出現した。あのすばしっこいネズミだ。
「チュ、チュウ! 人間だチュウ!」
ネズミはこちらに気づくとすぐに逃げ出そうとする。しかし、ミラが素早く魔法を放つ。
「ロックショット!」
岩の弾丸を飛ばす魔法。それでネズミを撃ち抜いて一撃で倒してしまった。
「わ、わあ……ミラさんすごい」
素早く魔法を唱えて、素早く撃つ。イーリスの方が信仰が高い分、威力が凄まじいものがあるが、こうした素早く撃つような技術的なことはミラの方がやはり上である。
「そうなんだよ。ミラは私と違って魔法が得意なタイプだからね」
「まあ、その代わり、アタシはクララほどの身体能力はない。クララが肉体的な修行をしている間に、魔法の修行に当てただけさ」
「私もいつかミラさんみたいに早撃ちができるようになるかな」
イーリスが目を輝かせてミラを見つめる。
「まあ、できる可能性はあるとは思う。けれど、魔法使いのタイプにも色々あるからな。じっくりとマナを馴染ませてから高い威力を放つのが得意なタイプと、アタシみたいにとにかくスピード勝負なのとな。だから、仮に早撃ちが苦手でも気に病むことはない」
イーリスはこれまで魔法を放つ際にマナをじっくりと体に馴染ませてから放っていた。その間の時間を前衛のアルドが稼ぐというのがこのパーティの王道的な戦い方の1つである。
「そうなんだー。でも、練習はしてみたいかな! ミラさん。今度、早撃ちの修行方法教えてよ」
「うん、やる気があるのは良いことだ。今回の件が片付いたら、いくらでも教えてあげよう。将来有望な子供を育成するのは嫌いじゃないからな」
嫌いじゃないどころか、むしろミラは年下の面倒を見るのが好きなタイプである。
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「なぁにぃ~? ネズミがチーズだぁ? まあ、確かにネズミはチーズが好物って……ひっく……話はあるもんな」
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「ダメだ。この酔っ払い。話にならない。そんなんだから、その年になっても独身なんですよ。先生」
「かっかっか。いいじゃねえかぁ。嫁がいたら女遊びもできなくなるからなぁ。ひっひー」
最早、この酔っ払いには、なにを言っても取り付くしまがない。クララとミラは目配せして、日を改めることにした。
◇
アルド、イーリス、クララ、ミラの4人はとある屋敷の前で待ち合わせていた。この屋敷はかつてこの街に住んでいたとされる明主の屋敷で、一族が滅んでからはずっと放置されている。幽霊が出るなんて噂もあるほどである。
この屋敷の近くにある裏路地。そこに下水道の入口がある。長い間管理されていないため、封鎖されていないのだ。
「結局、ジェフさんの協力は得られなかったのか」
「まあ、あの酔っ払いに来られても仕方ないとアタシは思うけどね」
ミラが辛辣に返す。新たな助っ人を……と思ったが、それがいないまま、4人で攻略する運びとなった。
「よし、それじゃあ、僕から先に行く。その後をミラ、イーリス、クララの順番で付いてきて」
「はーい」
アルドが下水道の入口に設置してあるハシゴを降りていく。最も信仰が高くて邪霊の攻撃に強いアルドを先頭に、信仰が高いミラとイーリスを挟んでクララがしんがりを務めるという探索においては安定したものである。
クララが下水道に降り終わった後、ミラがある魔法を唱える。
「ブライト」
ミラの右手から黄色い光の玉がふわっとでてきて、ゆらゆらと揺れながら空中に浮いている。
「それは?」
「黄の魔法だよ。雷と光の魔法。こういう暗がりを照らすのが得意なんだ」
へーと感心するアルド。イーリスもクララも黄の魔法を使えなかったために、現状ではミラしかこの魔法を使えるものはいない。そういう意味では貴重な戦力とも言える。
アルドを先頭に下水道を歩いていくと……ドロドロの黒いヘドロの物体が目の前に現れた。そのヘドロからは「うーうー」とうめき声が聞こえてとても不気味である。ヘドロから人間の手を模した突起がでてきて、それがアルドを掴もうとする。
「こいつは邪霊か!」
アルドは剣を振るい、ヘドロの突起を斬り落とす。斬り落とされた腕はドロっと垂れる。剣越しでも不快なほどの柔らかいヘドロの感覚が伝わって来てアルドは思わず冷や汗をかいてしまった。
「ウィンド!」
最後尾のクララがウィンドの魔法を放った。ヘドロはウィンドの魔法を受けて乾燥をしてしまう。ドロドロだった体がぴきぴきと音を立てて固まっていく。そしてやがてヘドロは動かなくなり、パンと破裂して石片を残して消滅してしまった。
「ヘドロの邪霊は風の魔法に弱い。緑の魔法なら私とイーリスちゃんが使えるから、この程度の邪霊なら私たちに任せて」
「うん、そうする。僕の剣もヘドロでなんかドロドロに汚れちゃったし」
これは後で武器の手入れが必要だなと、アルドはうんざりした表情を浮かべてしまう。風の魔法で倒せるんだったら、先に教えておいて欲しかったと思うアルドであった。
「この地下水道にネズミ以外の邪霊がいるんだね」
イーリスがぽつりとこぼした。確かに地上に出ている邪霊はネズミだけだったが、それ以外の邪霊も下水道に待機していたということになる。
「そうだね。イーリスちゃん。恐らくはこの街を襲撃しようとしているボスの邪霊。そいつが、色んな邪霊たちを呼びよせているんだと思う」
「ああ、そうだな。アタシの見立てによると、この下水道はいつダンジョン化してもおかしくない程に邪霊の気配に満ちている。邪霊を封印する精霊さえ連れて来れば一発でダンジョン化するだろう。どうする? 精霊と話をつければ、この問題は一時的には解決できるけれど」
ミラの提案も1つの案としては正しい。精霊の力を借りて邪霊を下水道に封印する。そうすれば、少なくともダンジョン化した下水道の整備が難しくなるだけで、邪霊が街に出て来ることはなくなるため、平和にはなる。
「私は反対だなあ。人間は精霊の力に頼りすぎている。自分たちの力で倒せるんだったら、そうした方がいい。それにダンジョン化は問題の先送りに過ぎない。ダンジョン化は最終手段として考えるのはアリだけど、それ頼りはやっぱりダメだよ」
ダンジョンで儲けてやろうなんて邪な考えを持たずに、純粋に精霊を助けたいクララはダンジョン化せずに解決できるならそれでいいと思っている。
「うん。私もクララさんの意見に賛成だよ」
「僕もだ」
イーリスがクララに同調する。アルドもイーリスのために同じ考えを示した。本音を言えば、ダンジョン化した方が稼げると言えば稼げる。そうすれば、アルドも副業の収入が上がる可能性がある。しかし、アルドが副業をしているのはイーリスのため、イーリスがダンジョン化を望まないのであれば、アルドも無理して望むことはしない。
「反対多数ってことね。まあ、クララならそう言うと思ったさ。でも、アルドさんも反対派とは意外だったな。ディガーはダンジョン化している方がクリア報酬がもらえたり、素材が発掘できたりして得だと思うけどな」
「まあ、報酬よりも大切なものがあるからね」
「例えば?」
「娘の笑顔とか?」
アルドは淀みない瞳で答える。イーリスは両手を頬に当てて照れている。
「や、やだあ。お父さんってば」
親子のイチャつきを見せつけたところで、次の邪霊が出現した。あのすばしっこいネズミだ。
「チュ、チュウ! 人間だチュウ!」
ネズミはこちらに気づくとすぐに逃げ出そうとする。しかし、ミラが素早く魔法を放つ。
「ロックショット!」
岩の弾丸を飛ばす魔法。それでネズミを撃ち抜いて一撃で倒してしまった。
「わ、わあ……ミラさんすごい」
素早く魔法を唱えて、素早く撃つ。イーリスの方が信仰が高い分、威力が凄まじいものがあるが、こうした素早く撃つような技術的なことはミラの方がやはり上である。
「そうなんだよ。ミラは私と違って魔法が得意なタイプだからね」
「まあ、その代わり、アタシはクララほどの身体能力はない。クララが肉体的な修行をしている間に、魔法の修行に当てただけさ」
「私もいつかミラさんみたいに早撃ちができるようになるかな」
イーリスが目を輝かせてミラを見つめる。
「まあ、できる可能性はあるとは思う。けれど、魔法使いのタイプにも色々あるからな。じっくりとマナを馴染ませてから高い威力を放つのが得意なタイプと、アタシみたいにとにかくスピード勝負なのとな。だから、仮に早撃ちが苦手でも気に病むことはない」
イーリスはこれまで魔法を放つ際にマナをじっくりと体に馴染ませてから放っていた。その間の時間を前衛のアルドが稼ぐというのがこのパーティの王道的な戦い方の1つである。
「そうなんだー。でも、練習はしてみたいかな! ミラさん。今度、早撃ちの修行方法教えてよ」
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