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第17話 女神様と初デート?
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「だって君、無戸籍なんでしょ?」
「はい……。日雇いも無理ですか?」
「あー、繁忙期に臨時で入る的なね。無理だね」
そんな……。
「確かに、君が言うように日雇いなら労働者名簿への記載は必要ないよ? でもね。賃金台帳には記載しなきゃいけないから。つっても賃金台帳の提出自体は臨検監査の時とかだから、それまでバレなきゃいいみたいな話ではあるけど、そんなリスク背負ってまで君を雇う必要がどこにあるの?」
俺はそれ以上何も言えなかった。
柿本さんが日雇いなら問題ないと言っていたのは嘘で、柿本さんはリスクを抱えて俺を雇ってくれていたのだ。感謝してもしきれない。
俺はコンビニを後にし、隣のネットカフェに入った。ずっと公園暮らしになるセラフィーラさんに何かしらの娯楽を提供したいと思ったからだ。
まぁ、当たり前だが、身分証がないからネットカフェの会員証を作ることができなかった。
俺は途方に暮れた。
日雇い期限の1ヶ月をすぎたら職を失ってしまう。柿本さんのような人にまた出会える確率はほぼ0に等しい。
これではっきりした。最終的な目標は『セラフィーラさんのためのちゃんとした家を手に入れること』だが、目先の目標はなんとしてでも『1ヶ月以内に戸籍を取得する』だ。
セラフィーラさんに調べてもらってはいるが自分でも全力で調べなくては。
昼までは情報収集に励もう。
◇
昼にセラフィーラさんと合流し、コンビニで買った肉まんを食べながら事情を全て話した。
「はやとさん、お疲れ様でした」
「何の成果も得られなくてすみません……。1ヶ月以内に戸籍を取得できるよう、頑張ります」
「まだこれからです! 一緒に頑張りましょう! それにお仕事がなくても、今日の空き缶回収がうまくいけば、きっとなんとかなります!」
「そうですね。まずは午後の空き缶回収ですね」
今日はあいにくの曇り空。傘を買っておけばよかったかな。
俺たちはトングとビニール袋を装備して公園から出発した。
これは見ようによっては、デートと呼べるかもしれない。
いや、流石に厳しいか。
先に声を発したのはセラフィーラさん。
「あの三色のランプはなんでしょうか? 至る所にありますが」
「ん? 何って信号機ですよね?」
「あぁ! あれが信号機なのですね」
「えっ信号機を知らないってことは、昨日の昼はアレを無視してきたんですか? だめですよ!」
「そうだったのですか!? 申し訳ございませんっ!」
セラフィーラさんは頭を下げた。
普通に捕まるよ。次からは事前に教えておかなければ。
「上空からだったのでよく見えておりませんでした」
「はぁ!? 空飛んできたんですか!?」
「はい」
セラフィーラさんはさも当然のように答えた。
「あら、そうでした。人間は通常、飛ばないのでしたね」
うっかりがすぎる。
「その場合ですけど多分、人間が乗り物を使わずに飛ぶなんて想定されてないので、航空法の適応外になって法律的にも何の問題もないと思います……」
「では、飛んでもよい、ということですね!」
「目立つからダメです!」
強く言いすぎてしまったかもしれない。
セラフィーラさんは少ししょんぼりしていた。
俺たちはそんな調子で
「あのダイイングメッセージは何ですか? 犯人の名前ですか?」
「止まれという道路標識です」
「あの矢印は何ですか?」
「一方通行です。そっちの矢印は左折可です。さらに奥の矢印は指定方向外進行禁止です」
「全部同じではありませんか」
「……」
などと談笑しながら、路上、空き地、河川敷など様々な場所をまわって空き缶を回収した。
「だいぶ集まりましたけど、山田さんが目安で言っていた量には届きませんね」
「やはり上から見るのがよいのではないでしょうか?」
「いやだから、人が空飛んだら目立ちますって」
「人でなければ、よいのですね!」
セラフィーラさんは何かを閃いたようで両の手を大きく広げた。
すると、電柱に止まっていた雀の大群がブワーっと一斉にセラフィーラさんの元へ集まってきた。
怖い、怖い、怖い、怖い。
「恐縮ですが、空き缶が落ちている場所をご教示いただけますでしょうか?」
しかも雀に敬語で語りだした。側から見たらやべぇ人。
雀たちがめっちゃチュンチュン言っとる。
「なるほど、なるほど」
「まぁ! なんと、そんなところにまで」
「みなさま、ありがとうございました」
セラフィーラさんがおじぎをすると同時に雀たちは散っていった。
恐ろしいものの一旦を垣間見てしまった気がする。
「はやとさん。あちらの突き当たりを右に行くと、空き缶が落ちているそうです」
本当にあった。
俺たちは雀に教わった地点をまわっていった。中には、雀の巣に捨てられていた空き缶も。
俺の中で凄いという思いと、なら初めからやってくれよという思いが錯綜していた。
俺たちは半日かけて集めた空き缶を、全て換金した。推定よりも多めの金を入手することができた。
セラフィーラさんは初めて自分の手でお金を稼げたことがよほど嬉しかったのか、とても満足げだった。
「夕食は近くの屋台でラーメンでも食べましょうか!」
「大賛成です! 屋台で一度食べてみたかったのです!」
それにしても風が強くなってきた。
俺たちの段ボールテントが吹き飛ばされないか心配だ。
しかしすぐに、俺の悪い予感は的中するのであった。
====================
【セラフィーラ様の秘密】
慈悲深きセラフィーラ様に敬服した鳥たちはファンクラブを結成した。
「はい……。日雇いも無理ですか?」
「あー、繁忙期に臨時で入る的なね。無理だね」
そんな……。
「確かに、君が言うように日雇いなら労働者名簿への記載は必要ないよ? でもね。賃金台帳には記載しなきゃいけないから。つっても賃金台帳の提出自体は臨検監査の時とかだから、それまでバレなきゃいいみたいな話ではあるけど、そんなリスク背負ってまで君を雇う必要がどこにあるの?」
俺はそれ以上何も言えなかった。
柿本さんが日雇いなら問題ないと言っていたのは嘘で、柿本さんはリスクを抱えて俺を雇ってくれていたのだ。感謝してもしきれない。
俺はコンビニを後にし、隣のネットカフェに入った。ずっと公園暮らしになるセラフィーラさんに何かしらの娯楽を提供したいと思ったからだ。
まぁ、当たり前だが、身分証がないからネットカフェの会員証を作ることができなかった。
俺は途方に暮れた。
日雇い期限の1ヶ月をすぎたら職を失ってしまう。柿本さんのような人にまた出会える確率はほぼ0に等しい。
これではっきりした。最終的な目標は『セラフィーラさんのためのちゃんとした家を手に入れること』だが、目先の目標はなんとしてでも『1ヶ月以内に戸籍を取得する』だ。
セラフィーラさんに調べてもらってはいるが自分でも全力で調べなくては。
昼までは情報収集に励もう。
◇
昼にセラフィーラさんと合流し、コンビニで買った肉まんを食べながら事情を全て話した。
「はやとさん、お疲れ様でした」
「何の成果も得られなくてすみません……。1ヶ月以内に戸籍を取得できるよう、頑張ります」
「まだこれからです! 一緒に頑張りましょう! それにお仕事がなくても、今日の空き缶回収がうまくいけば、きっとなんとかなります!」
「そうですね。まずは午後の空き缶回収ですね」
今日はあいにくの曇り空。傘を買っておけばよかったかな。
俺たちはトングとビニール袋を装備して公園から出発した。
これは見ようによっては、デートと呼べるかもしれない。
いや、流石に厳しいか。
先に声を発したのはセラフィーラさん。
「あの三色のランプはなんでしょうか? 至る所にありますが」
「ん? 何って信号機ですよね?」
「あぁ! あれが信号機なのですね」
「えっ信号機を知らないってことは、昨日の昼はアレを無視してきたんですか? だめですよ!」
「そうだったのですか!? 申し訳ございませんっ!」
セラフィーラさんは頭を下げた。
普通に捕まるよ。次からは事前に教えておかなければ。
「上空からだったのでよく見えておりませんでした」
「はぁ!? 空飛んできたんですか!?」
「はい」
セラフィーラさんはさも当然のように答えた。
「あら、そうでした。人間は通常、飛ばないのでしたね」
うっかりがすぎる。
「その場合ですけど多分、人間が乗り物を使わずに飛ぶなんて想定されてないので、航空法の適応外になって法律的にも何の問題もないと思います……」
「では、飛んでもよい、ということですね!」
「目立つからダメです!」
強く言いすぎてしまったかもしれない。
セラフィーラさんは少ししょんぼりしていた。
俺たちはそんな調子で
「あのダイイングメッセージは何ですか? 犯人の名前ですか?」
「止まれという道路標識です」
「あの矢印は何ですか?」
「一方通行です。そっちの矢印は左折可です。さらに奥の矢印は指定方向外進行禁止です」
「全部同じではありませんか」
「……」
などと談笑しながら、路上、空き地、河川敷など様々な場所をまわって空き缶を回収した。
「だいぶ集まりましたけど、山田さんが目安で言っていた量には届きませんね」
「やはり上から見るのがよいのではないでしょうか?」
「いやだから、人が空飛んだら目立ちますって」
「人でなければ、よいのですね!」
セラフィーラさんは何かを閃いたようで両の手を大きく広げた。
すると、電柱に止まっていた雀の大群がブワーっと一斉にセラフィーラさんの元へ集まってきた。
怖い、怖い、怖い、怖い。
「恐縮ですが、空き缶が落ちている場所をご教示いただけますでしょうか?」
しかも雀に敬語で語りだした。側から見たらやべぇ人。
雀たちがめっちゃチュンチュン言っとる。
「なるほど、なるほど」
「まぁ! なんと、そんなところにまで」
「みなさま、ありがとうございました」
セラフィーラさんがおじぎをすると同時に雀たちは散っていった。
恐ろしいものの一旦を垣間見てしまった気がする。
「はやとさん。あちらの突き当たりを右に行くと、空き缶が落ちているそうです」
本当にあった。
俺たちは雀に教わった地点をまわっていった。中には、雀の巣に捨てられていた空き缶も。
俺の中で凄いという思いと、なら初めからやってくれよという思いが錯綜していた。
俺たちは半日かけて集めた空き缶を、全て換金した。推定よりも多めの金を入手することができた。
セラフィーラさんは初めて自分の手でお金を稼げたことがよほど嬉しかったのか、とても満足げだった。
「夕食は近くの屋台でラーメンでも食べましょうか!」
「大賛成です! 屋台で一度食べてみたかったのです!」
それにしても風が強くなってきた。
俺たちの段ボールテントが吹き飛ばされないか心配だ。
しかしすぐに、俺の悪い予感は的中するのであった。
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