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第2章『聖女王フローラ』
閑話「愚王クラウスの末路①…呪われた指輪」
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ぐうう、腹が減った……お、おう、私は聖王クラウスだ。
こんなみすぼらしい格好をしているが王だった男だ。
不義理な家臣共に、国を奪われてしまった……
しかし、腹が減って死にそうだ……
「ちょっと兄さん?」
ひもじさに苦しむクラウスに、40代くらいの美しい女性が声を掛けてきた。
若くはないが、色気と艶っぽさと、それらに相反する落ち着きを備えている。
彼女を良く観察すれば、その身なりから魔導師だと分かったはずだ。
「聞いているの?」
お、おに、にいさん?
ぶ、無礼な女だ……
「な、なんだ、私に何か用か?」
ほう? なかなか美しい女じゃないか。
まあ、若くは無いが美味そうな身体をしておる。
「何か困ってるみたいだし、ウチ来なよ。ごはん食べるでしょ」
「あ、ああ、かたじけない。恩に着る」
ほう? この女、私に惚れてしまったのか。
無理もない。
仕方がないな。
今回は特別に誘いに乗ってやろう。
うはははははは
モテる男は辛いな!
―――
げふう。
久しぶりに満腹になったわ。
あの王都の戦いから今日まで、ろくな物を口に入れていない。
これほど食い物に感謝した事はなかったな。
思えば民たちのお陰で、私は贅沢をできていたのだな。
王位を取り戻した暁には、更に民を愛する王になろう。
今までよりも更に、更に、慈悲深い王にな!
「兄さん、お風呂入っちゃいなよ。あたしはもう済ませたし」
魔導師の女性は全裸にタオル一枚の格好になっていた。
久しぶりの女性の柔肌に、クラウスはたちまち興奮し始める。
「お、おう、分かった! すぐに出てくるから、待っておれ!」
うははははははは。
可愛い奴め。
私が王位に返り咲いたら側室に……
いや、恩を返すつもりで、王妃にしてやろう。
―――
「……ハッ……! んん? 私は何時の間に眠っておった?」
「なんだい? 独り言かい? んふふ」
クラウスの隣には半裸の魔導師の女性が寝そべっている。
「ああ、ヒルダ。昨夜は心地よかったぞ」
「兄さん、激しすぎて壊れちゃうかと思ったわ」
「うはははは、これでも女の経験は豊富だからな!」
そうだろう?
伊達に王をやっていたわけではないぞ。
何人もの美女を味わったしな。
しかし、フローラは惜しい事をした。
あそこまでの美女もそうはおらぬ。
「兄さん、あんたこれからどうするんだい?」
「あ、ああ、うむ。そなたには本当の事を教えよう」
クラウスはヒルダにこれまでの経緯を全て話して聞かせた。
普通に考えて、こんなみすぼらしいオッサンが『実は王なんだ』と言った所で、頭がおかしいと思われるだけだが、意外な事にヒルダはクラウスの話を信じると言ってきた。
「そうかい。苦労したね王さま、よし! あたしも魔導師の端くれだ。王さまの王位奪還の協力をするよ」
「お、おお、分かってくれるのか! そなたに限ってはどんな行いも咎めぬ!!」
「はは、何を言ってるんだい。じゃあまあ、まずは金を稼ぎなよ。商品は私が卸してやるからさ、初回はタダでいいよ?」
「おお、かたじけない。王位を取り返したら厚く報いるぞ!」
ヒルダは微笑みつつ『期待しないでおくよ』と言った。
クラウスはすっかりヒルダに恋をしていた。
このままヒルダと二人で生きるのも悪くはないと思いはじめていた。
この日の午後、クラウスはヒルダから商品を受け取って街頭に立った。
どれだけ愚かだったとはいえ、一国の王だったクラウスがいまや、露店のオヤジである。
「ちょっと、あんた聞いてるの?」
身の不幸を嘆く妄想に耽っていた所、記念すべき最初の客が訪れた。
どこにでもいるような、気の強そうなオバサンだった。
「……あ、ああ、らっしゃい」
かつて王だった男が『らっしゃい』である。しかも意外と板についている。
「もう。あんた気持ち悪いわよ。これとこれちょうだい」
「……き、きさ、へ、へい! 二つで銅貨30枚になります!」
ぶ、無礼者め! しょ、処刑だ!! し、しかし、今は軍資金を……
「あら、安いわね」
「有難うございました!! またのお越しを!」
あ、あの、ばばあ!
この聖王クラウスを『気持ち悪い』だと!!
無礼者め!
く……しかし、今は力を蓄える時だ、我慢するんだ……
しかし、あのおばさん、巨乳だったな、また来ないかな……
「クククク」
素晴らしい。
飛ぶように売れるではないか!
既に金貨3枚の売り上げになったぞ。
まあ、3枚ぽっちの金貨など大したことはないが。
どうやら私には商才もあったか!
そんな幸せな妄想に夢中になっているクラウスの元に、物々しい格好をした者たちが押し掛けてきた。
彼らの表情からするに、ただ事では無さそうだ。
全く身に覚えのないクラウスは、腑に落ちない顔をしていた。
「貴様がこの露店の主か!!」
人だかりの向う側から、騎士風の男が前に進み出てきた。
「……そうですが」
無礼者だが騎士を相手にはできん。
我慢だ……
「この指輪はお前が売っていた物だな?」
「あ、ああ、はい。そうですが……」
「こんなふざけた物を売るとは、貴様はどういうつもりだ!!」
はあ?
どういうってただの指輪だろう。
指輪自体が『ふざけたもの』だと言うのか?
この騎士は頭がおかしいのか?
「普通の指輪ですよ、騎士さま」
「普通の指輪が、こんな卑猥な発言をするのか!」
なんだって?
指輪に対話機能でもついていたのか?
「え、ちょっと、どういう事かわかりません……」
それはそうだろう。
クラウスはこの件については無実だ。
「だったら貴様が指輪をはめてみろ!!」
「は、はあ、じゃあ、そうしますよ」
何だコイツは?
怒鳴りまくりおって、周りの迷惑を考えたらどうなのだ。
まったく親の顔が知りたいわ。
でもまあ、言う事を聞くしかないだろう。
(嵌めましたけど……?)
(ん……声が出ぬぞ!! なんだ! どういう事だ!!)
「あらん♥ 騎士さま、す・て・き・うふふん♥」
突然、クラウスのはめた指輪が『クラウスの声』で騎士を口説き始めた。
クラウスが指輪をはめると同時に、彼の声が封じられて、変わりに指輪が喋りだしたのだ。
「き、貴様! 私を愚弄する気か!」
(ち、ちがう! 私じゃないんだ!! くそ! この指輪、外れんぞ!!)
「あはん♥ そっちのトマトさんも素敵♪」
「ト、トマト? おい、貴様、頭は大丈夫か?」
(だから! 私じゃない!! トマトなど口説くか!!!)
「そっちの鉛筆さん♥ 私を貫いて、く・れ・る? うふふん♥」
「き、貴様! ええい、このド変態をひっ捕らえろ!! 不良品売買の現行犯で逮捕する! 売り上げと商品も没収する!!」
(そ、そんな! それは私が自分で稼いだ金だあああ!!)
「そんなに鉛筆が好きなら、拷問係によく伝えておくから楽しみにしておけ!!」
「あはあん♥ 筋肉モリモリのお兄さんをお願いするわぁ♪」
(ぐおおおお!! 黙れ! このクソ指輪があぁぁぁ!!)
「ご要望に沿った男好きの拷問係を用意してやる! 続きはそいつとやってろ!! 気持ち悪くてしょうがないわ!」
「ああん♥ 思う存分、私を貫いてええええ♥」
(や、やめろ! 私はそっちの趣味はないんだ!! いやだああああああああああああ!!!)
この数日後、クラウスはようやく釈放された。
筋肉モリモリお兄さんと、どうなったかは全宇宙の支配者(作者)も知らなかった。
彼もきっと死ぬまで語るつもりは無いだろう。
―――
「おう、ヒルダ」
ヒルダの魔法用品店に、近所の鍛冶屋の店主がやってきた。この二人はかつて冒険者だった頃からの古い友人だった。
「何か用?」
ヒルダは面倒そうな顔つきで、ぶっきらぼうに返事をした。
「相変わらずだな。聖女さまにしか興味はないのか?」
「あたしにとって、あの方は女神さまなの、フローラさまのなさったことで、あたしは今こうして生きていられるし、他のみんなもそうでしょ」
遠くを見つめるような目で、ヒルダはフローラを語っている。
フローラとユハが救った人間は大勢居る。恐らく彼女もそんな一人なのだろう。
「まあな。俺も聖女さまには感謝してるよ」
鍛冶屋の店主も同意していることから彼にも覚えはあるようだ。
「で、何?」
「いやお前よ、そろそろ士官したらどうだ。お前の能力なら、どの王国でも重臣待遇だろうよ」
「ふん。あたしは自分の好きに魔法を研究できればそれでいい。あたしの作ったものがみんなの役に立てればいいんだよ。そしていつの日か凄いものを作れたら、それをフローラさまに差し上げたい。それで喜んで下さる顔を見たいんだよ」
「まあ、お前がそんなだから、俺もお前を世話するんだけどな」
鍛冶屋の店主は、予想していた言葉を聞いて何だか嬉しそうな顔をしている。
ヒルダの才能が埋もれるのを惜しいと思いつつ、その力を正しい事に使おうとしていることを、この鍛冶屋の店主も嬉しいと思っている。
何しろ彼自身もオルビア最高峰の鍛冶師だ。
大きすぎる力の行先が、常に正しい方向でなければならないことを、彼も良く知っているのだ。
「あたしの願いは1つだけ。フローラさまがいつも笑っていて下さる事……」
「ああ、そうだな」
ヒルダにとってクラウスは仇敵だった。
命の恩人であり、誰よりも敬愛するフローラを苦しめた相手として。
ヒルダはフローラに代わって、クラウスをとことん苦しませると心に誓っていた。
彼女の通り名は、四聖賢者ヒルダ、煉獄のヒルダ。
流浪し落ちぶれてはいるが、大陸最高の魔導師だった。
そのヒルダが、クラウスに静かに狙いを定めている。
「で、お前、あいつと寝たのか?」
「そんなわけないでしょ。アイツが相手にしたのは『そば殻の枕』だよ。あたしの幻覚魔法で枕をあたしに見せかけはしたけどね。もう必死になって腰を振ってて大笑いしたわ」
「そ、そうか、そいつは哀れだな……」
*****
呪われたマジックアイテムシリーズその1でした(´ー+`)
*****
こんなみすぼらしい格好をしているが王だった男だ。
不義理な家臣共に、国を奪われてしまった……
しかし、腹が減って死にそうだ……
「ちょっと兄さん?」
ひもじさに苦しむクラウスに、40代くらいの美しい女性が声を掛けてきた。
若くはないが、色気と艶っぽさと、それらに相反する落ち着きを備えている。
彼女を良く観察すれば、その身なりから魔導師だと分かったはずだ。
「聞いているの?」
お、おに、にいさん?
ぶ、無礼な女だ……
「な、なんだ、私に何か用か?」
ほう? なかなか美しい女じゃないか。
まあ、若くは無いが美味そうな身体をしておる。
「何か困ってるみたいだし、ウチ来なよ。ごはん食べるでしょ」
「あ、ああ、かたじけない。恩に着る」
ほう? この女、私に惚れてしまったのか。
無理もない。
仕方がないな。
今回は特別に誘いに乗ってやろう。
うはははははは
モテる男は辛いな!
―――
げふう。
久しぶりに満腹になったわ。
あの王都の戦いから今日まで、ろくな物を口に入れていない。
これほど食い物に感謝した事はなかったな。
思えば民たちのお陰で、私は贅沢をできていたのだな。
王位を取り戻した暁には、更に民を愛する王になろう。
今までよりも更に、更に、慈悲深い王にな!
「兄さん、お風呂入っちゃいなよ。あたしはもう済ませたし」
魔導師の女性は全裸にタオル一枚の格好になっていた。
久しぶりの女性の柔肌に、クラウスはたちまち興奮し始める。
「お、おう、分かった! すぐに出てくるから、待っておれ!」
うははははははは。
可愛い奴め。
私が王位に返り咲いたら側室に……
いや、恩を返すつもりで、王妃にしてやろう。
―――
「……ハッ……! んん? 私は何時の間に眠っておった?」
「なんだい? 独り言かい? んふふ」
クラウスの隣には半裸の魔導師の女性が寝そべっている。
「ああ、ヒルダ。昨夜は心地よかったぞ」
「兄さん、激しすぎて壊れちゃうかと思ったわ」
「うはははは、これでも女の経験は豊富だからな!」
そうだろう?
伊達に王をやっていたわけではないぞ。
何人もの美女を味わったしな。
しかし、フローラは惜しい事をした。
あそこまでの美女もそうはおらぬ。
「兄さん、あんたこれからどうするんだい?」
「あ、ああ、うむ。そなたには本当の事を教えよう」
クラウスはヒルダにこれまでの経緯を全て話して聞かせた。
普通に考えて、こんなみすぼらしいオッサンが『実は王なんだ』と言った所で、頭がおかしいと思われるだけだが、意外な事にヒルダはクラウスの話を信じると言ってきた。
「そうかい。苦労したね王さま、よし! あたしも魔導師の端くれだ。王さまの王位奪還の協力をするよ」
「お、おお、分かってくれるのか! そなたに限ってはどんな行いも咎めぬ!!」
「はは、何を言ってるんだい。じゃあまあ、まずは金を稼ぎなよ。商品は私が卸してやるからさ、初回はタダでいいよ?」
「おお、かたじけない。王位を取り返したら厚く報いるぞ!」
ヒルダは微笑みつつ『期待しないでおくよ』と言った。
クラウスはすっかりヒルダに恋をしていた。
このままヒルダと二人で生きるのも悪くはないと思いはじめていた。
この日の午後、クラウスはヒルダから商品を受け取って街頭に立った。
どれだけ愚かだったとはいえ、一国の王だったクラウスがいまや、露店のオヤジである。
「ちょっと、あんた聞いてるの?」
身の不幸を嘆く妄想に耽っていた所、記念すべき最初の客が訪れた。
どこにでもいるような、気の強そうなオバサンだった。
「……あ、ああ、らっしゃい」
かつて王だった男が『らっしゃい』である。しかも意外と板についている。
「もう。あんた気持ち悪いわよ。これとこれちょうだい」
「……き、きさ、へ、へい! 二つで銅貨30枚になります!」
ぶ、無礼者め! しょ、処刑だ!! し、しかし、今は軍資金を……
「あら、安いわね」
「有難うございました!! またのお越しを!」
あ、あの、ばばあ!
この聖王クラウスを『気持ち悪い』だと!!
無礼者め!
く……しかし、今は力を蓄える時だ、我慢するんだ……
しかし、あのおばさん、巨乳だったな、また来ないかな……
「クククク」
素晴らしい。
飛ぶように売れるではないか!
既に金貨3枚の売り上げになったぞ。
まあ、3枚ぽっちの金貨など大したことはないが。
どうやら私には商才もあったか!
そんな幸せな妄想に夢中になっているクラウスの元に、物々しい格好をした者たちが押し掛けてきた。
彼らの表情からするに、ただ事では無さそうだ。
全く身に覚えのないクラウスは、腑に落ちない顔をしていた。
「貴様がこの露店の主か!!」
人だかりの向う側から、騎士風の男が前に進み出てきた。
「……そうですが」
無礼者だが騎士を相手にはできん。
我慢だ……
「この指輪はお前が売っていた物だな?」
「あ、ああ、はい。そうですが……」
「こんなふざけた物を売るとは、貴様はどういうつもりだ!!」
はあ?
どういうってただの指輪だろう。
指輪自体が『ふざけたもの』だと言うのか?
この騎士は頭がおかしいのか?
「普通の指輪ですよ、騎士さま」
「普通の指輪が、こんな卑猥な発言をするのか!」
なんだって?
指輪に対話機能でもついていたのか?
「え、ちょっと、どういう事かわかりません……」
それはそうだろう。
クラウスはこの件については無実だ。
「だったら貴様が指輪をはめてみろ!!」
「は、はあ、じゃあ、そうしますよ」
何だコイツは?
怒鳴りまくりおって、周りの迷惑を考えたらどうなのだ。
まったく親の顔が知りたいわ。
でもまあ、言う事を聞くしかないだろう。
(嵌めましたけど……?)
(ん……声が出ぬぞ!! なんだ! どういう事だ!!)
「あらん♥ 騎士さま、す・て・き・うふふん♥」
突然、クラウスのはめた指輪が『クラウスの声』で騎士を口説き始めた。
クラウスが指輪をはめると同時に、彼の声が封じられて、変わりに指輪が喋りだしたのだ。
「き、貴様! 私を愚弄する気か!」
(ち、ちがう! 私じゃないんだ!! くそ! この指輪、外れんぞ!!)
「あはん♥ そっちのトマトさんも素敵♪」
「ト、トマト? おい、貴様、頭は大丈夫か?」
(だから! 私じゃない!! トマトなど口説くか!!!)
「そっちの鉛筆さん♥ 私を貫いて、く・れ・る? うふふん♥」
「き、貴様! ええい、このド変態をひっ捕らえろ!! 不良品売買の現行犯で逮捕する! 売り上げと商品も没収する!!」
(そ、そんな! それは私が自分で稼いだ金だあああ!!)
「そんなに鉛筆が好きなら、拷問係によく伝えておくから楽しみにしておけ!!」
「あはあん♥ 筋肉モリモリのお兄さんをお願いするわぁ♪」
(ぐおおおお!! 黙れ! このクソ指輪があぁぁぁ!!)
「ご要望に沿った男好きの拷問係を用意してやる! 続きはそいつとやってろ!! 気持ち悪くてしょうがないわ!」
「ああん♥ 思う存分、私を貫いてええええ♥」
(や、やめろ! 私はそっちの趣味はないんだ!! いやだああああああああああああ!!!)
この数日後、クラウスはようやく釈放された。
筋肉モリモリお兄さんと、どうなったかは全宇宙の支配者(作者)も知らなかった。
彼もきっと死ぬまで語るつもりは無いだろう。
―――
「おう、ヒルダ」
ヒルダの魔法用品店に、近所の鍛冶屋の店主がやってきた。この二人はかつて冒険者だった頃からの古い友人だった。
「何か用?」
ヒルダは面倒そうな顔つきで、ぶっきらぼうに返事をした。
「相変わらずだな。聖女さまにしか興味はないのか?」
「あたしにとって、あの方は女神さまなの、フローラさまのなさったことで、あたしは今こうして生きていられるし、他のみんなもそうでしょ」
遠くを見つめるような目で、ヒルダはフローラを語っている。
フローラとユハが救った人間は大勢居る。恐らく彼女もそんな一人なのだろう。
「まあな。俺も聖女さまには感謝してるよ」
鍛冶屋の店主も同意していることから彼にも覚えはあるようだ。
「で、何?」
「いやお前よ、そろそろ士官したらどうだ。お前の能力なら、どの王国でも重臣待遇だろうよ」
「ふん。あたしは自分の好きに魔法を研究できればそれでいい。あたしの作ったものがみんなの役に立てればいいんだよ。そしていつの日か凄いものを作れたら、それをフローラさまに差し上げたい。それで喜んで下さる顔を見たいんだよ」
「まあ、お前がそんなだから、俺もお前を世話するんだけどな」
鍛冶屋の店主は、予想していた言葉を聞いて何だか嬉しそうな顔をしている。
ヒルダの才能が埋もれるのを惜しいと思いつつ、その力を正しい事に使おうとしていることを、この鍛冶屋の店主も嬉しいと思っている。
何しろ彼自身もオルビア最高峰の鍛冶師だ。
大きすぎる力の行先が、常に正しい方向でなければならないことを、彼も良く知っているのだ。
「あたしの願いは1つだけ。フローラさまがいつも笑っていて下さる事……」
「ああ、そうだな」
ヒルダにとってクラウスは仇敵だった。
命の恩人であり、誰よりも敬愛するフローラを苦しめた相手として。
ヒルダはフローラに代わって、クラウスをとことん苦しませると心に誓っていた。
彼女の通り名は、四聖賢者ヒルダ、煉獄のヒルダ。
流浪し落ちぶれてはいるが、大陸最高の魔導師だった。
そのヒルダが、クラウスに静かに狙いを定めている。
「で、お前、あいつと寝たのか?」
「そんなわけないでしょ。アイツが相手にしたのは『そば殻の枕』だよ。あたしの幻覚魔法で枕をあたしに見せかけはしたけどね。もう必死になって腰を振ってて大笑いしたわ」
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