うっかり聖女を追放した王国は、滅びの道をまっしぐら! 今更戻れと言われても戻りません。~いつの間にか伝説の女王になっていました~

珠川あいる

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第2章『聖女王フローラ』

閑話「祖父たちと孫娘①…お茶会」

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 うららかな午後のひと時、フローラとユリウスは、いつかの祖父と孫娘プレイの続きを楽しんでいた。
 つい先日の不快な想いは未だにフローラの心に影を落としていたが、ユリウスのすっかり元気になった姿が、フローラの心に平穏と安寧をもたらしていた。

 そんなフローラの元にもう一人の嬉しい客が訪れた。
 オルビア大聖堂の元大司教、ヴァレンテだった。
 ヴァレンテはフローラの助けになるべく、オルビアからフローラの元までやってきたのだ。

 だが、来るなりヴァレンテは、先客であるユリウスと険悪な雰囲気を作り出している。 

 隣でフローラが"あわあわ"しているのは言うまでもない。
 
 あわわわ……
 お爺ちゃんたちはどうしたと言うのでしょうか?
 突然、険悪な雰囲気で……わわわわ……
 
 孫娘のフローラはどうすれば……?
 ……あわわわわ。


「フローラさまを心配して来てみたら……なんでお主が……このクソジジイ……」

 来るなりヴァレンテは、瞳に煉獄の炎を宿らせ、ユリウスを睨みつけている。

「ジジイにジジイ呼ばわりされとうないわい。それにそなたのほうがひとつ上じゃろう? まだくたばってなかったのか。残念でならんわい」

 やれやれと言った感じで肩を竦めたすくめた

「相変わらず口が減らんガキじゃわい」

「久しぶりに〆てしめてやろうかいのう」

 バキバキと拳を鳴らしてヴァレンテを威嚇するが、ヴァレンテは涼しい顔をしてユリウスを見下ろしている。
 ヴァレンテは聖職者ではあっても、若かりし頃より修練を積んでいる歴戦の戦士でもある。
 戦場で過ごした時間ではユリウスに大きく劣るも、彼には神々からの恩寵がある。普通に考えればヴァレンテのほうが強そうに思える。
 だが、ユリウスと言う男も侮れない。
 この二人の果し合いは現在、6575戦ほども行われているが、ユリウスが2つほど勝ち越しているのだ。
 もちろん対決方法は『拳と拳』である。
 剣や魔法など、そんなものは、この二人の変態爺ちゃんたちの戦いには無粋極まりない。

「やるなら受けて立ってやるわい」

「お、お爺ちゃん! 喧嘩しないで下さい!!」

 "あわあわ"したい気持ちを必死に抑えて、フローラは勇気を振り絞っていた。
 最近になって君主の気概を徐々に見せるようになったフローラだが、"あわあわ"癖については健在だった。

「フローラさま、この戦いは正当な祖父お爺ちゃんの座を決める世紀の一戦なのですじゃ!! いますぐこの不届き者を滅殺するのでお待ちを!」

 出るか?
 出てしまうのか?

 ヴァレンテの家に代々、一子相伝の必殺技が!

「そういうそなたこそ、殺菌消毒してやるわい!!」

 やるのか?
 遂にあれをやるつもりか!

 溜めに溜めたゲージを全て使って放つ最終奥義を!

「……65歳のワシのほうが、よっぽど祖父らしい。ガキはすっこんどれ」

 あわわわ。
 ……どうしましょう?
 お爺ちゃんたちを止めるには…?

 あわわわわ……

「なんじゃと! ワシはほっぺにチューして貰ったことがある!! しかもお食事デート込みじゃ! どうじゃ!! 参ったか!!」

 出てしまった。
 ユリウス将軍の最終奥義が!
 ヴァレンテの受けたダメージは計り知れない。
 立っているのも、やっとという感じだ。

「ぬほおおおおおおおお!? お、お主! そ、それは誠か!」

 ヴァレンテは驚愕の事実に、目をひん剥いている。このまま放っておけば卒倒しそうな勢いだ。

「ワシが嘘などつかんことは、そなたも知っておるじゃろうが」

「た、確かに、お主は曲がった事を嫌う、大した男じゃ。その点は敬意に値するわい」

 幾分か落ち着きを取り戻し、ヴァレンテはユリウスを見据えてしみじみと語った。

「そなたのほうこそ、フローラさまの為に聖職を捨てたと聞いて、ワシは涙が出たぞい!! しかも神官戦士団の諸君の奮闘は誠に天晴! あれこそ戦士の鑑じゃ。ワシは猛烈に感動したぞい!!」

 言いながらユリウスは目尻に涙を溜めている。
 なるほど、ユリウスにとっても、あの戦いの神官戦士団の勇戦ぶりは誉だったのだろう。
 長く戦場で暮らしてきた一流の男だからこそ、フローラの為に命を散らした者たちに深く敬意を払っているのだ。
 その気持ちがヴァレンテには痛いほど伝わっている。

「ユリウス、愚王に翻弄されながらも、よくぞ全土の民を救い続けてくれたな。そなたはオルビア最後の英雄じゃ、大いに誇るが良い。そなたの名は我が大聖堂と、我が信徒たちの語り草として、未来永劫語り継ぐつもりじゃ!」

 いつしかヴァレンテも表情を崩している。
 まるで旧来の友と昔を懐かしみ、その想い出に感動の涙を流すように。
 そんな感じにユリウスの功績を心から称えている。
 
「おお、ヴァレンテ……嬉しい事を言ってくれる! あ、あれ、おかしいのう、目と鼻から汁が出てきたわい……ぐすん……」

「おかしいのう、ワシもじゃ。猛烈に感動して汁が止まらんわい……ぐすん……」

 二人して涙を必死に堪えようとするも、頬を伝って止めどなく流れ落ちている。
 しかし、どちらの爺ちゃんも、その涙を拭おうとはせず、お互いを敬意の眼差しでしっかと見据えている。

「お二人はどちらも私の大事なお爺ちゃんですよ? 喧嘩をするなら孫娘やめちゃいます」

 ふふふ。
 結局、お二人とも、似た者同士の仲良しさんじゃないですか。
 孫娘を心配させたので、ちょっとだけ意地悪を言いましたよ?

「「そ、それはイカン! ジジイの楽しみを奪わんでくだされ!」」

「だったら仲良くしましょう? さあ、お茶も入ったし、孫娘のフローラに、お爺ちゃんたちのお話を聞かせて下さい」

 この日、かねてよりの約束だった、ヴァレンテとのお茶の誓いは果たされた。
 そして二人のお爺ちゃんとの、新たな絆を結ぶように、孫娘と二人のお爺ちゃんは、いつまでも楽しそうな笑い声に包まれながら、とても幸せで、とてもゆったりとした午後の時間を過ごしていた。

 フローラは心の中でこう思っていた。
 こんな幸せな時間が、全ての人々の元に訪れるべきだと。
 戦に苦しむ民などいない、平和な世の中を作るべきだと。

 彼女は聖女王フローラ、またの名を、太陽の女王フローラ。

 その名で呼ばれるのは、もうしばらく後の話になるのだが。





*****

喧嘩するほど仲が良いってね(´ー+`)

*****

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