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1 ハヤシライス
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♢ ♢ ♢
「昴くん、ご飯ちょうど出来たよ! 食べよう!」
「お風呂先にありがとう。わあ……ハヤシライスだ」
「前好きだって言ってたよね? 簡単なやつだけどサラダもあるよ」
風呂から出た昴がリビングに戻れば、トマトと肉が煮込まれた良い香りが漂っていた。仕上げにケチャップと中濃ソースで味を整えて完成したトマトと豚肉のハヤシライス。
炊きたての白米を平皿の端にまあるく盛り、脇に完成したハヤシライスがたっぷりと注がれた。
二人用のダイニングテーブルに料理が置かれて、席についた二人は手を合わせる。
「「いただきます」」
ハヤシライスとご飯を一緒に掬ったスプーンが昴の口に運ばれる。その様子をじっと見つめる空の視線に気付くことはなく、咀嚼し、飲み込んだ昴の顔がふにゃりと緩んだ。
「ん……辛くなくて美味しい。空くんの作るハヤシライス本当に美味しいなぁ」
「……うん、良かった! 最後に入れるケチャップがさー甘さを引き出すんだよね!」
「空くんも食べな?」
「うん、でも俺は昴くんが美味しそうに食べてくれるのを見るだけでお腹いっぱいになるよ?」
「そんな訳ないでしょ。ほら、冷めちゃうから」
「はーい」
ニコニコと笑いながら冗談めいたことを言う空に、呆れたように笑って昴は食べることを促した。
ようやく食べ始めた空と、今日の一日について互いに話し合う。
「どう? 今日は変なお客さん来なかった?」
「大丈夫だったよ。……でもミスはしちゃった。もう何年も働いてるのに、何回も同じミスをしてお客さんを苛つかせて……はぁ」
「昴くんは悪くないよ。ほら、嫌だったら仕事辞めてもいいんだし! 俺、昴くんがずっと家に居てくれたら嬉しいよ」
「もう。また冗談ばっかり」
「……じゃあ、面白い話を聞かせてあげる! 俺の同僚の変な先生の話、昴くん好きでしょ?」
「あ、あの化学と数学の? 聞きたい!」
空が話す学校での愉快なエピソードに笑いつつ、食事は穏やかに進んでいく。二人が食べ終わって食器を流しへと持っていき、昴は両腕の袖を捲った。
「片付けはやるから、空くんはお風呂入ってきてね」
「ありがとう! 直ぐに入って片付け手伝うね」
「出なくていいから、ゆっくり入って!」
不満そうな空の背中をぐいと押して、昴は食器洗いを始める。
スポンジに洗剤を垂らし、泡立て、カチャカチャと無心で皿の汚れを落としていく。
無心で、洗う、流す、洗う……
「あっ」
皿を水切りのカゴに移す時、ツルリと手が滑った。
皿がスローモーションで足元へ落下していく。
昴の思考は停止し、ただ眺めることしか出来ない皿は一秒後、ガチャンと音を立てて床で割れた。
「……本当に、自分は……」
足元の戻らない皿を眺めながら、出しっぱなしの水の音がザアザアと動けなくなった昴の耳に響く。
自分は片付けすらまともに出来ない。出来損ない。なんで、嗚呼――
「昴くん?! 怪我はない?!」
呆然としている昴を、空が抱きしめる
「……もう、馬鹿。しかも空くん……裸じゃん」
「タオルは巻いてるから許してよ。何か割れる音がしたから、心配で……」
「……ふ、ふふ……あはは!」
風呂場から腰にタオルだけ巻いて駆けつけた空の身体は濡れていて、抱きしめられた昴の服も濡れていく。
ぽたぽたと髪の毛から滴る水と、心配そうに昴を見つめる姿が何故かとても面白くて、昴は声をあげて笑ってしまった。
「ふふ、空くんってもう本当に……心配性だなあ」
「そんなに笑うー? ちょ……っと動かないでね、綺麗に割れてるけど細かい破片が落ちてるかもしれないから。
あ、あーごめんっ昴くんも濡れちゃったね。このままだと風邪引いちゃうかもしれないから、お風呂一緒に入ろうよ」
昴を抱きしめていた腕を一度離して、足元で割れた皿を集めていく。濡らした付近で昴の立つ床の周囲を手際よく拭いた後、空は笑って提案をした。ほぼ裸で、甲斐甲斐しく尽くす姿に申し訳なさを通り越して笑えてきてしまった昴の目は、それでも少しだけ潤んでいた。
「空くんのアホ。……いいよ。狭くても許してね」
「やった! じゃあ早速、脱いで脱いで!」
「ちょっと、もう! 自分で脱げるからぁ!」
空の優しさは昴の胸を温め、同時にしんしんと悲しくさせる。
椎堂空という素晴らしい人間が、
鈴岡昴という矮小な人間に飽きるその時まで。
自分には不相応の愛を甘受することを許されたい。
そんな事を考えながら、嬉しそうな空の顔を目に焼き付けた。
「昴くん、ご飯ちょうど出来たよ! 食べよう!」
「お風呂先にありがとう。わあ……ハヤシライスだ」
「前好きだって言ってたよね? 簡単なやつだけどサラダもあるよ」
風呂から出た昴がリビングに戻れば、トマトと肉が煮込まれた良い香りが漂っていた。仕上げにケチャップと中濃ソースで味を整えて完成したトマトと豚肉のハヤシライス。
炊きたての白米を平皿の端にまあるく盛り、脇に完成したハヤシライスがたっぷりと注がれた。
二人用のダイニングテーブルに料理が置かれて、席についた二人は手を合わせる。
「「いただきます」」
ハヤシライスとご飯を一緒に掬ったスプーンが昴の口に運ばれる。その様子をじっと見つめる空の視線に気付くことはなく、咀嚼し、飲み込んだ昴の顔がふにゃりと緩んだ。
「ん……辛くなくて美味しい。空くんの作るハヤシライス本当に美味しいなぁ」
「……うん、良かった! 最後に入れるケチャップがさー甘さを引き出すんだよね!」
「空くんも食べな?」
「うん、でも俺は昴くんが美味しそうに食べてくれるのを見るだけでお腹いっぱいになるよ?」
「そんな訳ないでしょ。ほら、冷めちゃうから」
「はーい」
ニコニコと笑いながら冗談めいたことを言う空に、呆れたように笑って昴は食べることを促した。
ようやく食べ始めた空と、今日の一日について互いに話し合う。
「どう? 今日は変なお客さん来なかった?」
「大丈夫だったよ。……でもミスはしちゃった。もう何年も働いてるのに、何回も同じミスをしてお客さんを苛つかせて……はぁ」
「昴くんは悪くないよ。ほら、嫌だったら仕事辞めてもいいんだし! 俺、昴くんがずっと家に居てくれたら嬉しいよ」
「もう。また冗談ばっかり」
「……じゃあ、面白い話を聞かせてあげる! 俺の同僚の変な先生の話、昴くん好きでしょ?」
「あ、あの化学と数学の? 聞きたい!」
空が話す学校での愉快なエピソードに笑いつつ、食事は穏やかに進んでいく。二人が食べ終わって食器を流しへと持っていき、昴は両腕の袖を捲った。
「片付けはやるから、空くんはお風呂入ってきてね」
「ありがとう! 直ぐに入って片付け手伝うね」
「出なくていいから、ゆっくり入って!」
不満そうな空の背中をぐいと押して、昴は食器洗いを始める。
スポンジに洗剤を垂らし、泡立て、カチャカチャと無心で皿の汚れを落としていく。
無心で、洗う、流す、洗う……
「あっ」
皿を水切りのカゴに移す時、ツルリと手が滑った。
皿がスローモーションで足元へ落下していく。
昴の思考は停止し、ただ眺めることしか出来ない皿は一秒後、ガチャンと音を立てて床で割れた。
「……本当に、自分は……」
足元の戻らない皿を眺めながら、出しっぱなしの水の音がザアザアと動けなくなった昴の耳に響く。
自分は片付けすらまともに出来ない。出来損ない。なんで、嗚呼――
「昴くん?! 怪我はない?!」
呆然としている昴を、空が抱きしめる
「……もう、馬鹿。しかも空くん……裸じゃん」
「タオルは巻いてるから許してよ。何か割れる音がしたから、心配で……」
「……ふ、ふふ……あはは!」
風呂場から腰にタオルだけ巻いて駆けつけた空の身体は濡れていて、抱きしめられた昴の服も濡れていく。
ぽたぽたと髪の毛から滴る水と、心配そうに昴を見つめる姿が何故かとても面白くて、昴は声をあげて笑ってしまった。
「ふふ、空くんってもう本当に……心配性だなあ」
「そんなに笑うー? ちょ……っと動かないでね、綺麗に割れてるけど細かい破片が落ちてるかもしれないから。
あ、あーごめんっ昴くんも濡れちゃったね。このままだと風邪引いちゃうかもしれないから、お風呂一緒に入ろうよ」
昴を抱きしめていた腕を一度離して、足元で割れた皿を集めていく。濡らした付近で昴の立つ床の周囲を手際よく拭いた後、空は笑って提案をした。ほぼ裸で、甲斐甲斐しく尽くす姿に申し訳なさを通り越して笑えてきてしまった昴の目は、それでも少しだけ潤んでいた。
「空くんのアホ。……いいよ。狭くても許してね」
「やった! じゃあ早速、脱いで脱いで!」
「ちょっと、もう! 自分で脱げるからぁ!」
空の優しさは昴の胸を温め、同時にしんしんと悲しくさせる。
椎堂空という素晴らしい人間が、
鈴岡昴という矮小な人間に飽きるその時まで。
自分には不相応の愛を甘受することを許されたい。
そんな事を考えながら、嬉しそうな空の顔を目に焼き付けた。
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