2 / 2
揺れる
しおりを挟む
時計が止まって見える現象
タイムクロノス
こないだ、ゆらゆらと揺れ続ける振りの飾りを揺らしていたら、時々、動きを止めたように見えた。
意識的に見えるにはどうしたらいいんだろうと思って何度も試してみたけど法則はわからないまま、何度か止めて見えた。
一瞬を永遠に焼き付ける。
シャッターを切るように。そんな恋を何度繰り返してきたのだろうか。
夢のような夢に終わった恋だった。
結局、恋とはそういうものなのだろう。
20年ぶりに会った梨沙は苗字が変わっていた。そういうものだろう。
20年という時間を経て変わらないものなど探すほうが難しい。子どもはいない。
望んではいなかったから、気にはしていないが、この集まりは子持ちが多いから、少し居心地が悪い、と言った。
僕には妻も子もいる。
はにかむと、ヒュっと出てくる八重歯と表情はあの頃のままだ。体型も維持しているようで、黒と白の長めのワンピースの裾を移動するたびにポケットの中からの持ち上げているのが愛らしい。
お酒が出回った最初から同期女子とひたすら杯を重ねている。顔色は相変わらず、透き通るように白い。この程度のお酒がなんだ、と言わんばかりにきれいな白肌。
今は埼玉にいる、加奈代とは同じ関東勢だけど、向こうでは会わないんです。こっちに来てお酒飲んで笑ってたら十分。と、お酒なんて飲んでませんという顔色とは裏腹に動きと呂律はずいぶんと怪しい。
頬杖をついて座っていたかと思えばウトウト。気づけばひとの肩を無断で拝借している。
そうだ、こういう感じだな、と思ってしまう。
ひどく危なっかしい。手を出せば火傷は必至だというのに、目が追いかける事をやめてはくれない。全身を服に包んでいて、時折仰け反って見せる胸の膨らみに魅力はない。
なのにトロンとした目と緩い口元に惹き寄せられて、手が出そうになる。
言葉は饒舌で刺激的。そして隙だらけ。
こういう女性が男を誘い込む。本人の意思とは関係なく。
腕全体から温もりが伝わる。何に対して安心しているのだろうか。
『男というより女のひとといる感覚になるんですよね』そう言わせて油断させて、最後まで安心させて、その気になる迄待つ。
そんな遊びをした事もあった。
大抵、その気が全くない時に女性というのは隙を見せない。隙を見せても大丈夫か?
お酒の場の初対面では警戒と懐柔とを繰り返す。
犬のように腹を見せて、撫でてくれるのか、牙を剥くのかを確かめている。
だから、腕の温度を感じながら、気づかぬふりで何もしない。
起きて来るまで。『おはよう』
『寝てました?』『寝てました』
カチッと音が聞こえてくる。大丈夫なひとだというスイッチ。
あとは、ただ焦らずに。
お互い大人なら。
結局、多くの男は釣られる事でしか、遊ぶ事は出来っこない。
どれだけ上手に転がされるのか。
そのタイミングと賞味期限とを間違えない事。
おそらく3カ月程の蜜月と長く続く特別な関係。直接の接触はなく、精神的な一時的なつながり。
それ以上は求めてはいけない。
深入りもしない程度に。
きっと、女性からすれば、一番手ではなくて2番手。それも、無理のない。
困ったときに、言葉をもらうくらい。いいひと。とってもいいひと。そうして、どうでもいいひと。
代えをつくるのは少し難しいけれど、いなくても困らない。
一番手がしっかり満足させてくれれば、それでいい。
男は、そんな存在でいれた事を満足しておかねば。
勘違いして、自分の魅力と思って進めば、失うものしかないだろう。
そういうものだ。
彷徨う夜の金魚たちが、ひとまずの居場所に、見つけ出しただけ。
いろいろ疲れてる金魚は右眼を閉じて男を見て、左眼は半開き。
餌をくれるのか、居心地良い水槽なのかと、ただそれだけ。
ぴしゃんと梨沙が跳ねる
『はい、もう水の時間。飲み過ぎ』
『はい』『よろしい』
簡単な遣り取り、帰りの準備の始まり。
席は変わらないまま。
『先輩は飲まないんですか?』
『うん?僕はまったく飲めませんよ』
『飲み潰れたら後をお願いします。』
『知りません』
『ひどいですね』
『非道です。道に非ず』
『もういいです。そこの徳利ください』
『はい、お水。一息着くなら考えます』
『は~い』
そうだ、と少しは頬を染めて梨沙は話を続ける。
『浮気の範囲ってどこからですか?』
『手をつなぐ』
『えっ?キスとかじゃなくて?厳しくないですか?束縛タイプ?』
『いいや、キスの方が勢いとか雰囲気とかで簡単にできてしまったりする。例えば、周りが囃し立てたり完全に酔った子に無理やりとか。でも、帰りしなに手をつなぐには、かなりの決意がいる。周りにも見られる。リスクも高い。自覚しないと出来ない事だと思う。』
『なるほど~。で、先輩に浮気はありますか?』
『ないよ。』
『うそ』
『この話で嘘をついても仕方が無いし、嘘をつかない事も嘘くさい。』
『それもそうかも』
『どうぞ想うように捉えておいて』
じゃあこれで浮気ですねと梨沙は手を合わせてきた。
そうだねぇ、と返して会話を続ける。
テーブルの下は周りの連中からは見えなくて、雰囲気に蜜の香りを感じても誰もが酔の顔色で違和感さえ起こらない。
そういう術を持っている。
梨沙は紛れも無い高級金魚でいて、僕を相手にしばらく過ごす事に決めたらしい
会計を済ませる。梨沙とはバラバラに
胸ポケットにアドレスを挿し込んで離れていった。
僕からの連絡がある事を疑わない。
シャッターを切るように梨沙を止める
振り向いた一瞬を捉えて
タイムクロノスという現象よりも
自分の意思で止められる時間
記憶の中にだけ
あとは流れて流れて流される
終わりのはじまりを
じっと眺めていたら
梨沙が戻ってきて手をつないで歩いた
タイムクロノス
こないだ、ゆらゆらと揺れ続ける振りの飾りを揺らしていたら、時々、動きを止めたように見えた。
意識的に見えるにはどうしたらいいんだろうと思って何度も試してみたけど法則はわからないまま、何度か止めて見えた。
一瞬を永遠に焼き付ける。
シャッターを切るように。そんな恋を何度繰り返してきたのだろうか。
夢のような夢に終わった恋だった。
結局、恋とはそういうものなのだろう。
20年ぶりに会った梨沙は苗字が変わっていた。そういうものだろう。
20年という時間を経て変わらないものなど探すほうが難しい。子どもはいない。
望んではいなかったから、気にはしていないが、この集まりは子持ちが多いから、少し居心地が悪い、と言った。
僕には妻も子もいる。
はにかむと、ヒュっと出てくる八重歯と表情はあの頃のままだ。体型も維持しているようで、黒と白の長めのワンピースの裾を移動するたびにポケットの中からの持ち上げているのが愛らしい。
お酒が出回った最初から同期女子とひたすら杯を重ねている。顔色は相変わらず、透き通るように白い。この程度のお酒がなんだ、と言わんばかりにきれいな白肌。
今は埼玉にいる、加奈代とは同じ関東勢だけど、向こうでは会わないんです。こっちに来てお酒飲んで笑ってたら十分。と、お酒なんて飲んでませんという顔色とは裏腹に動きと呂律はずいぶんと怪しい。
頬杖をついて座っていたかと思えばウトウト。気づけばひとの肩を無断で拝借している。
そうだ、こういう感じだな、と思ってしまう。
ひどく危なっかしい。手を出せば火傷は必至だというのに、目が追いかける事をやめてはくれない。全身を服に包んでいて、時折仰け反って見せる胸の膨らみに魅力はない。
なのにトロンとした目と緩い口元に惹き寄せられて、手が出そうになる。
言葉は饒舌で刺激的。そして隙だらけ。
こういう女性が男を誘い込む。本人の意思とは関係なく。
腕全体から温もりが伝わる。何に対して安心しているのだろうか。
『男というより女のひとといる感覚になるんですよね』そう言わせて油断させて、最後まで安心させて、その気になる迄待つ。
そんな遊びをした事もあった。
大抵、その気が全くない時に女性というのは隙を見せない。隙を見せても大丈夫か?
お酒の場の初対面では警戒と懐柔とを繰り返す。
犬のように腹を見せて、撫でてくれるのか、牙を剥くのかを確かめている。
だから、腕の温度を感じながら、気づかぬふりで何もしない。
起きて来るまで。『おはよう』
『寝てました?』『寝てました』
カチッと音が聞こえてくる。大丈夫なひとだというスイッチ。
あとは、ただ焦らずに。
お互い大人なら。
結局、多くの男は釣られる事でしか、遊ぶ事は出来っこない。
どれだけ上手に転がされるのか。
そのタイミングと賞味期限とを間違えない事。
おそらく3カ月程の蜜月と長く続く特別な関係。直接の接触はなく、精神的な一時的なつながり。
それ以上は求めてはいけない。
深入りもしない程度に。
きっと、女性からすれば、一番手ではなくて2番手。それも、無理のない。
困ったときに、言葉をもらうくらい。いいひと。とってもいいひと。そうして、どうでもいいひと。
代えをつくるのは少し難しいけれど、いなくても困らない。
一番手がしっかり満足させてくれれば、それでいい。
男は、そんな存在でいれた事を満足しておかねば。
勘違いして、自分の魅力と思って進めば、失うものしかないだろう。
そういうものだ。
彷徨う夜の金魚たちが、ひとまずの居場所に、見つけ出しただけ。
いろいろ疲れてる金魚は右眼を閉じて男を見て、左眼は半開き。
餌をくれるのか、居心地良い水槽なのかと、ただそれだけ。
ぴしゃんと梨沙が跳ねる
『はい、もう水の時間。飲み過ぎ』
『はい』『よろしい』
簡単な遣り取り、帰りの準備の始まり。
席は変わらないまま。
『先輩は飲まないんですか?』
『うん?僕はまったく飲めませんよ』
『飲み潰れたら後をお願いします。』
『知りません』
『ひどいですね』
『非道です。道に非ず』
『もういいです。そこの徳利ください』
『はい、お水。一息着くなら考えます』
『は~い』
そうだ、と少しは頬を染めて梨沙は話を続ける。
『浮気の範囲ってどこからですか?』
『手をつなぐ』
『えっ?キスとかじゃなくて?厳しくないですか?束縛タイプ?』
『いいや、キスの方が勢いとか雰囲気とかで簡単にできてしまったりする。例えば、周りが囃し立てたり完全に酔った子に無理やりとか。でも、帰りしなに手をつなぐには、かなりの決意がいる。周りにも見られる。リスクも高い。自覚しないと出来ない事だと思う。』
『なるほど~。で、先輩に浮気はありますか?』
『ないよ。』
『うそ』
『この話で嘘をついても仕方が無いし、嘘をつかない事も嘘くさい。』
『それもそうかも』
『どうぞ想うように捉えておいて』
じゃあこれで浮気ですねと梨沙は手を合わせてきた。
そうだねぇ、と返して会話を続ける。
テーブルの下は周りの連中からは見えなくて、雰囲気に蜜の香りを感じても誰もが酔の顔色で違和感さえ起こらない。
そういう術を持っている。
梨沙は紛れも無い高級金魚でいて、僕を相手にしばらく過ごす事に決めたらしい
会計を済ませる。梨沙とはバラバラに
胸ポケットにアドレスを挿し込んで離れていった。
僕からの連絡がある事を疑わない。
シャッターを切るように梨沙を止める
振り向いた一瞬を捉えて
タイムクロノスという現象よりも
自分の意思で止められる時間
記憶の中にだけ
あとは流れて流れて流される
終わりのはじまりを
じっと眺めていたら
梨沙が戻ってきて手をつないで歩いた
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる