タイムクロノス

うえ野そら

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揺れる

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時計が止まって見える現象
タイムクロノス
こないだ、ゆらゆらと揺れ続ける振りの飾りを揺らしていたら、時々、動きを止めたように見えた。
意識的に見えるにはどうしたらいいんだろうと思って何度も試してみたけど法則はわからないまま、何度か止めて見えた。
一瞬を永遠に焼き付ける。
シャッターを切るように。そんな恋を何度繰り返してきたのだろうか。
夢のような夢に終わった恋だった。
結局、恋とはそういうものなのだろう。

20年ぶりに会った梨沙は苗字が変わっていた。そういうものだろう。
20年という時間を経て変わらないものなど探すほうが難しい。子どもはいない。
望んではいなかったから、気にはしていないが、この集まりは子持ちが多いから、少し居心地が悪い、と言った。
僕には妻も子もいる。

はにかむと、ヒュっと出てくる八重歯と表情はあの頃のままだ。体型も維持しているようで、黒と白の長めのワンピースの裾を移動するたびにポケットの中からの持ち上げているのが愛らしい。
お酒が出回った最初から同期女子とひたすら杯を重ねている。顔色は相変わらず、透き通るように白い。この程度のお酒がなんだ、と言わんばかりにきれいな白肌。
今は埼玉にいる、加奈代とは同じ関東勢だけど、向こうでは会わないんです。こっちに来てお酒飲んで笑ってたら十分。と、お酒なんて飲んでませんという顔色とは裏腹に動きと呂律はずいぶんと怪しい。
頬杖をついて座っていたかと思えばウトウト。気づけばひとの肩を無断で拝借している。
そうだ、こういう感じだな、と思ってしまう。
ひどく危なっかしい。手を出せば火傷は必至だというのに、目が追いかける事をやめてはくれない。全身を服に包んでいて、時折仰け反って見せる胸の膨らみに魅力はない。
なのにトロンとした目と緩い口元に惹き寄せられて、手が出そうになる。
言葉は饒舌で刺激的。そして隙だらけ。
こういう女性が男を誘い込む。本人の意思とは関係なく。
腕全体から温もりが伝わる。何に対して安心しているのだろうか。
『男というより女のひとといる感覚になるんですよね』そう言わせて油断させて、最後まで安心させて、その気になる迄待つ。
そんな遊びをした事もあった。
大抵、その気が全くない時に女性というのは隙を見せない。隙を見せても大丈夫か?
お酒の場の初対面では警戒と懐柔とを繰り返す。
犬のように腹を見せて、撫でてくれるのか、牙を剥くのかを確かめている。
だから、腕の温度を感じながら、気づかぬふりで何もしない。
起きて来るまで。『おはよう』
『寝てました?』『寝てました』
カチッと音が聞こえてくる。大丈夫なひとだというスイッチ。
あとは、ただ焦らずに。
お互い大人なら。
結局、多くの男は釣られる事でしか、遊ぶ事は出来っこない。
どれだけ上手に転がされるのか。
そのタイミングと賞味期限とを間違えない事。
おそらく3カ月程の蜜月と長く続く特別な関係。直接の接触はなく、精神的な一時的なつながり。
それ以上は求めてはいけない。
深入りもしない程度に。
きっと、女性からすれば、一番手ではなくて2番手。それも、無理のない。
困ったときに、言葉をもらうくらい。いいひと。とってもいいひと。そうして、どうでもいいひと。
代えをつくるのは少し難しいけれど、いなくても困らない。
一番手がしっかり満足させてくれれば、それでいい。
男は、そんな存在でいれた事を満足しておかねば。
勘違いして、自分の魅力と思って進めば、失うものしかないだろう。
そういうものだ。
彷徨う夜の金魚たちが、ひとまずの居場所に、見つけ出しただけ。
いろいろ疲れてる金魚は右眼を閉じて男を見て、左眼は半開き。
餌をくれるのか、居心地良い水槽なのかと、ただそれだけ。

ぴしゃんと梨沙が跳ねる
『はい、もう水の時間。飲み過ぎ』
『はい』『よろしい』
簡単な遣り取り、帰りの準備の始まり。
席は変わらないまま。
『先輩は飲まないんですか?』
『うん?僕はまったく飲めませんよ』
『飲み潰れたら後をお願いします。』
『知りません』
『ひどいですね』
『非道です。道に非ず』
『もういいです。そこの徳利ください』
『はい、お水。一息着くなら考えます』
『は~い』

そうだ、と少しは頬を染めて梨沙は話を続ける。
『浮気の範囲ってどこからですか?』
『手をつなぐ』
『えっ?キスとかじゃなくて?厳しくないですか?束縛タイプ?』
『いいや、キスの方が勢いとか雰囲気とかで簡単にできてしまったりする。例えば、周りが囃し立てたり完全に酔った子に無理やりとか。でも、帰りしなに手をつなぐには、かなりの決意がいる。周りにも見られる。リスクも高い。自覚しないと出来ない事だと思う。』
『なるほど~。で、先輩に浮気はありますか?』
『ないよ。』
『うそ』
『この話で嘘をついても仕方が無いし、嘘をつかない事も嘘くさい。』
『それもそうかも』
『どうぞ想うように捉えておいて』
じゃあこれで浮気ですねと梨沙は手を合わせてきた。
そうだねぇ、と返して会話を続ける。
テーブルの下は周りの連中からは見えなくて、雰囲気に蜜の香りを感じても誰もが酔の顔色で違和感さえ起こらない。
そういう術を持っている。
梨沙は紛れも無い高級金魚でいて、僕を相手にしばらく過ごす事に決めたらしい

会計を済ませる。梨沙とはバラバラに
胸ポケットにアドレスを挿し込んで離れていった。
僕からの連絡がある事を疑わない。

シャッターを切るように梨沙を止める
振り向いた一瞬を捉えて


タイムクロノスという現象よりも
自分の意思で止められる時間
記憶の中にだけ
あとは流れて流れて流される
終わりのはじまりを

じっと眺めていたら
梨沙が戻ってきて手をつないで歩いた
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