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聖騎士ロイ編
第10話 聖騎士、穢れに手を伸ばす(1/4)
しおりを挟む【時系列:第6話、第7話時点 / 視点:ロイ】
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自由行動日の昼下がり。
騎士団詰所で、『商業区の治安が悪化している』という噂を耳にした。
気になって、パトロールを口実に現地へ足を運ぶ。
こういうことに自分から関わろうとするなんて、以前の俺なら考えられなかった。任務じゃないなら、やらなくていい。そう思っていたはずだ。
……けれど、ジークに再会してから、その考えは少し変わった。
あいつは、いつだって誰かのために行動する。気付けば人のために動き、手を差し伸べている。
昔から、そう。今回の旅でも、それは存分に発揮されていて。
『いいんだ、俺が助けたかっただけだから!』
軽く笑って、そう言うのだ。
その無償の行動力が、彼を“勇者”に選ばせたのだろう。
……そして俺は、そんな彼に、どうしようもなく惹かれている。
もし、この想いを伝えることができたなら。
抱きしめて、名前を呼んで、口付けて。「好きだ」と、言えたなら――
そんな叶わぬ願いを想像していた、そのときだった。
商業区の裏路地、薄暗がりの中から出てきた人物と鉢合わせた。
――ジークだった。
一瞬、誰か分からなかった。
女物のブラウスとスカート。ふんわりと巻かれた花柄のスカーフ。かすかに残る化粧の名残。なのに、驚くほど自然だった。
「ジーク、その格好は……」
戸惑いながら声をかけると、ジークはびくりと身を震わせ、こちらを凝視する。そしてぎこちない笑みを浮かべ、弁解じみた言葉を並べた。
変装、息抜き……何を言ってるのか、本人も混乱しているようだった。
それでも、その言葉の端々から、何かを隠そうとしているのは伝わってくる。
そして次の瞬間、気づいてしまった。
「……これは……?」
指先が、彼の頬の涙の跡をなぞっていた。
思わず、手が伸びていた。
触れないと誓ったはずの、その肌に。
ジークが少し身体を震わせ――纏う雰囲気が一気に変わる。
「……裏通りで……ちょっと、変な人に……」
伏し目がちに呟く彼。肩が揺れ、腰に添えられた手が、どこか庇うように動いた。スカートには不自然な皺。裾の汚れも目についた。
瞬間、腹の底が煮え立つような怒りで沸騰した。
ジークに何をした。
誰だ。どこの誰が、ジークを傷つけるようなことを――
初めて、“殺意”という言葉を理解した。
すぐにでも剣を抜き、犯人を八つ裂きにしてやりたい衝動に駆られた。
だが、目の前のジークは、今まさに震えている。助けを求めてはいない。けれど、助けなければならなかった。
きっと、一人で抱えこむつもりだったのだろう。鉢合わせた時の動揺っぷりをみるに、こういった趣味を、俺に知られたくなかったのかもしれない。
――そんなの、俺は少しも否定しないのに。
もっと、ジークと向き合えていたら。
もっと、ちゃんと想いを伝えられていたら――こんな目に、遭わせずに済んだのに。
己の未熟さが、悔しかった。
胸の内で繰り返していた「好きだ」という言葉が、途端に空虚になる。
俺なんかに、その言葉を伝える資格はないのかも知れない。
「今はまず……宿に戻ろう。ジークが落ち着ける場所へ」
そう告げて、俺は彼に寄り添って歩き出した。
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