妹の身代わりで結婚したら、残虐公爵様に溺愛されています!

天音ジーノ

文字の大きさ
2 / 7

はじめましては突然に

しおりを挟む
馬車に揺られて時間はどのくらい経ったのだろうか、私はサンドウィッチをもぐもぐと頬張りながら誰も居ない目の前の席を見つめる。

すると、ガクンと馬車が大きく揺れたかと思うと、扉が勢い良くバタン!と開いた。

しかし誰も来ないので荷物を持って外に出てみると、御者は馬車に乗っていなかった。

降り積もる雪の中、ハッとして後ろを向くも間に合わず、私は御者に太ももを短剣で刺されてしまった。きっと足を潰して逃げられなくする為だろう。

「いっ…!?」

「エレン様からの命令でなぁ、殺せと言われたからには痛めつけてから殺さないとなぁ?」

「ひっ…だ…誰か…!!」

「誰もこねぇよ、可哀想なルチェットお嬢様よぉ!」

もう駄目だ、と思った。頭がやけに早く回って、色々な思い出が駆け巡る。

顔も覚えていない母は、今どこで何をしているのだろうか。

きっと、私の事なんて忘れて、幸せに暮らしているかも。

「痛い…」

次に目の前に広がった光景は、真冬の掃除の冷たいバケツの水、痛々しく赤くなった手。

廊下や階段をひたすらに、手の感覚が無くなっても綺麗に掃除し続けたんだっけ。

痣だらけの身体、毎晩見る悪夢。

痛くて、寝られなくて。

毎晩、死への恐怖と戦っていた。

あぁ、特によく覚えているのは母の形見の指輪をエレンに取られそうになった時のこと。

結局取られてしまったけれど。

お父様に酷く怒られていつもより激しく折檻された傷が今も残っている。

とても痛くて苦しくて、助けを求めても返ってくるのは笑い声だけだった。

それよりも苦しく、私はこのまま死ぬのかな。

でも、私は生きたい、ほんの少しだけでいいから幸せに生きてみたい。

私は着ていた分厚い上着を御者の頭にかけて、痛む足を引きずって逃げる。

足からは血が出てきて嫌に熱いけれど、それを我慢して必死に走る。

「まて!この小娘!!」

逃げても怪我と雪のせいで上手く走れず、すぐに追いつかれてしまった。

「いや!!やめて!!」

「来世ではお幸せにな!!」

私は本当に死ぬと感じて、ぎゅっと目を閉じた。

来世では幸せになれますように、そう願って目を閉じ静かにその時を待っていた。

すると、何処からか馬の鳴き声がして、バタリと何かが倒れる音がした。

恐る恐る目を開けると、そこには地面に伏せている御者と、馬車の馬ではない知らない馬の顔があった。

「大丈夫ですか!?って、血が出てる…!」

「あ…ぅ……」

先ほどまで死にかけていた私にとって、他の人という存在は恐怖でしかなかった。

血が足りないからか、恐怖なのか、ほっとしたからなのかは分からないが、ドサッと音がして私が倒れたのだと理解した。

意識が遠のいて暗くなっていく。

馬に乗っていた男の人がなにか叫んでいるけれど、私はぼんやりとしか聞き取れず、意識を手放した。

「あっ、気絶してしまったか…!」

ルチェットが意識を手放して、男はさらに焦っていた。

馬も何処か落ち着かない様子で心配している。

男は馬から降りてルチェットを抱え、また馬に乗り直す。

「急いで公爵邸に帰るぞ、頼む。」

馬はヒヒンと軽く鳴いて、雪の中を軽やかに走り出した。

ルチェットの顔色は悪く、呼吸も浅いのを見て男は顔を歪めた。

「はぁぁ…今日は公爵様の婚約者が来るって言うのに…!」

こんな時に何故事件が起こるんだ、と男は愚痴を吐く。

雪はいつの間にか先ほどより優しく降っていて、ルチェットを歓迎するかのように頬にポツリと落ちてじゅわりと解けた。

しばらく馬を走らせていると、大きな門へ辿り着く。門番は慌てて頭を下げてこう言った。

「お疲れ様です、騎士団長。」

「お疲れ様です。」

「いいから!!この女性が見えるなら早く!!」

門番は抱えられたルチェットを見ると、目を大きく見開きながら急いで門を開けた。

「ありがとう、門番さん!」

男は馬で庭を一気に駆け抜ける。

後で、知らない女性を勝手に敷地内に入れたことで、怒られる事を少し気にしているが、それどころではないため許してくれるだろう、と目の前に集中する。

すぐに大きな玄関扉の前に着いたので馬から降りる。

「寒いだろうが少し待っていてくれ。」

馬はぶるぶると鳴いて返事をしたようだ、返事を聞いてから玄関扉を開けて中に駆け込む。

そして、大きく息を吸い込んでからガラスが割れそうなくらいの気持ちで叫ぶ。

「誰かッ!!!来てくれッ!!!」

すると色々な方向からドタドタと物音がして、メイドや執事、料理人や騎士団の団員など様々な人間が集まった。

「この女性を頼む、僕は公爵様に伝えてくるから。」

集まった人々は一斉に分かりましたと返事をしてルチェットを預かる。

世話が得意なメイドを中心に、ルチェットを手当てする。

筋力がある騎士団の団員は直接圧迫して止血をして、執事が暖炉を焚けて休ませる部屋を用意して、料理人は止血が終わったらルチェットを執事が用意した部屋へと運んだ。

人々は皆改めてルチェットを見る。

容姿は整っているが、服は質素な物を着ているし騎士団長が抱えて来た為、平民の女性だと思っている。

その内に自分の仕事や訓練を思い出して、他の人々は持ち場に戻った。 


________


「う~……ん……??」

私が目を覚ましたのは、ふかふかで手触りのいいシーツがかけられたベッドの上だった。

首を動かしキョロキョロとすると窓があり、外はすっかり暗くなっていた。

私は意識を手放す前のことを振り返る。

確か、男の人が助けてくれて、声をかけてくれて、そこで意識を手放したんだと思う。

私は身体を起こして立ち上がろうとしたけれど、足が痛くて上体を起こすことしか出来なかった。

それにしても、ここはどこなのだろうか。

アルベレア家の私の部屋よりはるかに広く綺麗にされている。辺りを見回していると、大きくて縦長に丸い鏡が目に入った。

「………酷い顔。」

そういえば、アルベレア家では食事が貰えない時もあったっけ。

と思い出しながら、私はこんなに痩せていたのかと驚いた。

頬も少しこけていて目の下にはクマがあり、不健康を物語っていた。

なにより血が少ないようで顔色がとても悪かった。

もう少し寝させてもらおうかな、なんて考えていていたその時、ギィ…と扉が控えめに開く音がした。

無言で入ってきたのは美形だけどどこか怖いような顔をした男性で、黒色の髪に白色の髪が混じっていて狼のようだった。

その男性はこちらを淡い水色の瞳でジロリと見た。

「あの、えっと、ベッドをお借りしてます…?」

「……名を名乗れ、話はそれからだ。」

「あっ…ルチェット・アルベレアです、実はシルベリアの公爵様のもとへ嫁ぐ予定だったのですが…この通り…」

男性は眉をピクリと動かした後、さらに顔をしかめてしまった。

人前で喋るのは苦手だしあまり経験がない為、分からない。もしかしたら失礼な言い方をしてしまったかもしれない。

「ごめんなさい、なにか無礼を…?」

「それは、お前が俺の婚約者ってことなのか?」

「………えっ?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。

完璧な政略結婚のはずでしたが、宰相閣下の“私の妻”扱いが甘すぎます

星乃和花
恋愛
政略結婚のはずでした。 家同士の利も、立場の釣り合いも、全部きちんと整った、完璧に合理的な結婚。 ……なのに、夫となった冷徹宰相は、なぜか人前で私を「最高の妻」と紹介し、暮らしを完璧に整え、他人に近づかれると不機嫌になってしまいます。 “天使”と噂される穏やかな令嬢フィオナもまた、 そんな不器用な優しさに少しずつ心をほどかれて――。 これは、条件で選ばれたはずの夫婦が、 いつの間にかお互いを“ただ一人”として欲しくなるまでの、甘くてやさしい政略結婚物語。 (毎日21:50更新ー全8話)

追放された香りの令嬢は、氷の宰相に溺愛されています ~契約結婚のはずが、心まで奪われました~

深山きらら
恋愛
いわれのない汚名を着せられ、王都を追われた香水師の令嬢リシェル。 だが、彼女には「香りで人の内面を感じ取る魔法」が宿っていた。 冷徹で有能な宰相バートラムは、政略のため彼女を妻として迎えるが――彼女の香りが、彼の過去の傷を溶かしていく。 やがて二人は、王国を揺るがす陰謀の中心へと巻き込まれ……。 「君の香りが、私を生かしている」――冷たい政略結婚が、やがて運命の恋へ変わる。

一度目で黒狼公に討たれた私ですが、二度目の夜はお父様のそばでしか眠れません

師走
恋愛
八歳の冬、リリア・ヴァルグレイは父に殺された。 王国最強の討魔貴族――黒狼公レオンハルト・ヴァルグレイ。 人にも魔にも容赦のないその男は、黒花の災厄に呑まれかけた実の娘を、自らの手で討ったのだ。 けれど次に目を覚ました時、リリアは赤ん坊に戻っていた。 もう二度と、お父様に剣を向けられたくない。 そう願うのに、夜になるとまた黒花の囁きが忍び寄る。甘くやさしいその声は、孤独な心に触れて、静かに破滅へと導こうとする。 そして、その囁きがぴたりと止むのは――世界でいちばん怖いお父様のそばだけだった。 一度目の父は、同じ城で暮らしていても遠い人だった。 リリアを見ない。抱かない。呼びもしない。 そのくせ二度目の父は、相変わらず冷たいまま、なぜか夜ごとリリアを放っておいてくれない。侍女を替え、部屋を守らせ、怯えて眠れない娘を黙って自分の近くへ置いてしまう。 人にはあれほど容赦がないのに、リリアにだけ少しずつおかしくなっていく。 怖い。近づきたくない。 それでも、その腕の中でしか眠れない。 またあの冬が来る。 また同じように、黒花はリリアを呑み込もうとするかもしれない。 今度こそ囁きに負けないために。今度こそ父に剣を抜かせないために。 一度目で父に討たれた娘は、二度目の人生でもっとも恐ろしいその人のそばへ、自分の意志で手を伸ばしていく。 小説家になろう様でも掲載中

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

異世界に転生してチートを貰ったけど、家族にハメられて敵国の捕虜になったら敵国の王子に求婚されました。

naturalsoft
恋愛
私は念願の異世界転生でチートをもらって旅立った。チートの内容は、家事、芸術、武芸などほぼ全ての能力がそつなくプロレベルに、こなせる万能能力だった。 しかし、何でも1人でやってしまうため、家族に疎まれて殺されそうになりました。そして敵国の捕虜になったところで、向こうの様子がおかしくて・・・? これは1人で何でもこなしていた弊害で国が滅ぶ寸前までいったお話です。

処理中です...