屋島に咲く

モトコ

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藤戸合戦

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 数日後、通信は再び範頼のもとに呼ばれた。土肥實平を筆頭に、佐々木盛綱、梶原景時、そして通信が集められていた。戦功をとりまとめていたのだろう。範頼の横で、あの京武者が忙しなく筆を動かしている。

「さて、これからのことだが」

 範頼が口を開いた。

 無事に児島から平家の軍勢を追いやったものの、戦況が大きく動いたわけではない。東からの兵站線を一部守ったというだけで、相変わらず物資は少なく舟もない。藤戸にとどまり続けるわけにもいかないので、西へと進軍し九州に入るべきだが、先に進んだ軍勢からは、兵糧と物資の不足を嘆く便りばかりが届く――ということだった。

「一度、京へ戻るのはどうでしょうか」

 盛綱が口を開いた。

「それは難しいでしょう。京とてこの人数をまかなうだけの体力はない」

 實平が遮る。

「三河殿を第二の朝日将軍にしたいのであれば、いいんじゃないですかね」

 景時の皮肉に、盛綱の表情が歪んだ。

「京へは戻れない。兄上が許すはずがない」

 範頼からの追い打ちで、盛綱は完全にうなだれてしまった。

「兄上……鎌倉殿の厳命だ。必ず海上が穏やかな日を選び、四国屋島にて決戦を。平家の舟団を陸に追いやって、四国本土にて主上と三種の神器を無事に手にいれること。そして可能であれば、平家との和平を結ぶ事。これを違えることは、ゆるされない」

「でしょう。じゃあ、やっぱり九州に行くしかないんじゃないですか」

 景時が言う。

「そのために臼杵次郎と緒方三郎を先に行かせたわけでしょ」
「しかし、そうはいってもこの数だぞ」
「話が戻っちゃったじゃない。だからこそ、ここにとどまり続けるわけにもいかんでしょ」

 範頼が押し黙る。

「平三は、京からなにか知らせをうけているか」

 見かねたのか實平が口を挟んだ。

「法皇が我らの狼藉に怒り心頭ってところでしょうか」

 景時の身も蓋もない言葉に、範頼が呻き声をあげた。

「ま、そのあたりは鎌倉に抑えてもらえばいいんです。そのためにあなたの兄上は前線まで来てないんですから」
「それは」
「そもそも三河殿の率いる坂東の軍勢を、無理言って西海へ派遣させたのは院なのですから、知らねぇよって逃げられると思いますけどね」
「だが、兄上は」

 なにかを言いかけた範頼の口を、實平の手が無遠慮に塞いだ。

「ま、そのへんの駆け引きは、向こうにやってもらいましょ。目下、おれたちがやるべきことは、四国決戦に向けた準備でしょ」
「そう、そうだな」

 気圧された一同が、小さくうなずいた。

「ところで、もうしわけございませんが、景時は播磨に戻らせていただきますので」

 唐突な景時の言い分に、範頼が目を剥いた。

「まってくれ。梶原殿の戦力は」
「いえ、せっかく兵站線を守ったにもかかわらず、おれがそっちに行ったら」
「梶原殿は、苦境から逃げだすというわけですな」

 盛綱が鼻で笑った。

「そうとらえてもらっても構いませんよ。ただ、このままではあんたたちのやってきたこと、すべて水の泡になるんじゃねぇのって、おれは言ってんの」
「平三、お前もう少し噛み砕け。おれたちとお前とじゃあ、わかっていることが違いすぎる」

 實平の怒気を含んだ声に、さすがの景時も肩をすくめる。

「第一に、児島の平家戦力が屋島に集結した以上、いままで以上に播磨、備前、備中の兵站線を守る必要があること。第二に、摂津国や播磨国へ上陸の足がかりになる淡路を再び平家に抑えられるわけにはいかないということ。第三に、九州を制圧するあなたがたと、京の軍勢は連携をとらなければならないということ」
「京の軍勢」

 範頼が小さく呟いた。

「こうなれば、やむを得ません。総力戦ですな」

 腕を組み、目をつむって聞いていた實平が呟いた。

「それで、河野四郎はおれが連れて行ってもいいですか」

 思いがけない言葉に、通信は耳を疑った。そんなこと、なにも聞いていない。

「平三、河野殿には水軍を」
「屋島で決戦をしようとすれば、おのずと伊予の河野にはやってもらわなきゃならないことがでてきますでしょうし。そうだろう、河野四郎」
「え」

 いったい景時にはなにが見えているのか。まったく話についていけずに、通信は間抜けな声を出すことしかできなかった。

 だれもが眉間に皺を寄せるなか、景時一人が揚々としている。軽い足取りで通信の前に立つと、満面の笑みを浮かべてこう言った。

「お前には、九郎判官に会ってもらおう」

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