46 / 48
能登守
2
しおりを挟む
景時が義経に対して憐憫の眼差しを向けていた理由が、ほんの少し理解できるような気がした。
きっと義経は、だれかとともに対等に、時にふざけあったり、ぶつかりあったり。そうやって育まれる友情を、肩を並べあう関係を、築くことができなかったのだろう。
通信にとっても、いままでそれは希薄なものだった。けれど景高や景平といったものたちとの付きあいのなかで、意思を酌み交わすということの大切さに気がついた。
だからこそ悲しく思う。義経は常に孤独だったのだ。
「いまのままの九郎殿だったら、これは無駄死にです。一緒におれも死んでしまいます。九郎殿が死ぬのはいい。知ったこっちゃありません。でもおれは、無駄死にをするくらいならば、いまは逃げます。おれはもっと大きくなって、三島の大蛇のように西海を呑みこんでやります。それが、死んでいったものたちへの弔いってものです」
義経がじっと通信の目を見つめていた。一体なにを考えているのか、通信にはわからなかった。ただ、少しでも伝わればいいと思った。世間から見て間違っているとか、不格好だとか、そういったことはどうでもいい。通信が、通信なりに考えたことである。
「逃げるのか、源氏の!」
教経が吠えていた。
「九郎義経。お前だけはおれがくびり殺して、その首刎ねて晒してやる」
矢が放たれる。さきほどよりも距離があるはずなのに、義経の近くにある掻盾が砕けた。
「あいつは一体なんなんだ」
信家が焦ったような視線を通信に向けている。そういえば、信家は能登守教経と直々に対峙したことはなかった。
「とにかく、後退!」
逃がしてなるものかと、平家の舟団が迫ってくる。純粋な早さは互角か、こちらが少し上か。海が干潮から徐々に満ち始めている。後退する通信たちにとっては願ってもない潮流ではあるが、それは追う平家とて同じことである。
「好機だ、逃すな!」
教経の声に、敵兵が勢いづく。
通信は自分の舟を殿にして、舟を縦に並べた。七郎の小型舟と信家の中型舟が先導するように先へ行く。北西の風が吹いていた。
「河野殿。おっしゃっていることは、わかりました」
義経が、通信の肩に手を置く。
「そのうえで言うのですが、このままでは良くて無駄生き、悪くて無駄死にです」
語りかける義経の表情は、それまでの悲壮なものから、どこかすっきりとした、爽やかなものに変わっていた。
「梶原殿の援軍がいつ来るかわからないまま、河野殿はいつまで逃げることができますか。よしんば逃げきったとして、命があったとして、しかし名には傷がつきますよ」
「それは」
「傷ついたまま生きていけるほどに、わたしたちの世界は優しいものではないでしょう。なにもしなければ、弱いと思われれば、すぐに攻めたてられて、追い落とされてしまうでしょう。それじゃあ、結局なにも守れないんじゃないですか」
通信は息をのんだ。ぐうの音もでない正論に、どうしようもなく無言でうなずく。
「だから一矢報いてやりましょう。ただの逃げ恥を、功名にかえるのです。そのほうが面白い」
目の前の男の、いたずらを思いついた少年のような眼ざしに心が揺れた。
「ただ、いまを生き残るだけではなく、さらにその先を良く生きるための提案です」
兜緒をきつく縛り、流れ矢に射貫かれないように、身をかがめながら義経が言う。通信は義経にならって、みずからも兜緒を締めなおした。
「ほら、あそこ。平家の舟足に乱れが出ている」
義経が掻盾の隙間を指さした。通信は身をかがめたまま、背後から追ってくる平家の舟団を見る。たしかに義経が指摘するように、教経の舟の速さについてくることができていない舟が、ままあった。
「河野殿、ここで交渉なのですが」
義経が美しい顔の前で指を立てた。
「わたしはあの男に一矢報いたい。河野殿は功名を得たい。これは両立すると思います」
「なにか妙案でも」
「ひとつ思いつきました。おれの策を聞いていただけますか」
「九郎殿は舟戦をよくご存知ないのでしょう。おれが聞いて勝算がないと思ったら、あなたを海に突き落としてでも、このまま逃げますよ。死ぬよりは無様でも生き残って、再起をはかりたいので」
「それでかまいません」
義経がおおらかに笑った。
「ひとつお聞きしたい。舟というものは、走行しながら帆をおろすことができるものですか」
「できます」
「では、能登守の舟についてきていない舟の真横に、他の舟をすべて突っこませましょう」
義経の言葉の意味がわからずに、通信は眉間に皺を寄せた。こうしている間にも、殿である通信の舟には、矢が射こまれ続けている。
「能登守は、わたしを狙っています。ですから、わたしを囮に使わない手はありません」
「ああ、なるほど」
通信はうなずいた。奇しくも比志城で通信が考えていたことと同じだ。
「この舟は囮となりながら、風上のほうへ舵を。残りの舟は帆をおろして風の力で敵陣の隙間を突きます。いざとなれば矢で水夫を射ってしまいましょう。ほら、あそこの」
細い掻盾の隙間から、男二人が肩をぶつけながら外を覗き見ている姿は、さぞや滑稽だろうなと通信は思った。ちらりと振り返ると、にやにやしている景平と目があった。
「あの図体の大きい舟の動きを止めてしまいましょう。そうすれば、後続の舟が前に出てこられなくなります。そこを一気に」
「乱戦になりますね。そうなれば数の少ない我らの不利です。騎馬とちがって、舟は小回りがききません」
「河野水軍の機敏さは、天下一だと聞いておりましたが、わたしの思い過ごしでしたか」
義経が、薄らと口角をつりあげる。
「あなたがたであれば平家の舟団を切り裂いて、能登守を孤立させることくらい造作もないのでは?」
通信は黙って腕を組む。義経の策は賭けの要素が強い。もし大型舟が止まらなかったら。もし能登守が後続を気にしたら。それこそ河野の舟が、平家の舟団に取りかこまれてしまう。
しかし通信にも意地がある。ここまで言われて簡単に、「できない」とは言えなかった。
「わかりました。しかし、これはおれの独断ではなんとも言えません。みなの命を賭けることです。すべての舟が一丸とならなければ厳しいでしょう。おれの郎等たちに、是非を問うてもよろしいでしょうか」
「そういうことでしたら、どうぞ。いま一度、わたしが説明いたしましょう」
通信は太刀を振って指示をだした。信家と七郎を呼んだのだ。しばらくすると器用に舟を伝いながら、両者が通信の舟にやってきた。信家と七郎に景平を交えて、再度、義経は策を語った。
「水夫や梶取を狙うってのは、どうなんでしょうね。陸の戦でいうところの、馬を射るみたいなもんですぜ」
七郎が苦言を呈した。
「馬を射る、馬に当て身を食らわす――坂東ではやりますけどね」
景平が、烏帽子から零れたくせ毛を指に巻きつける。
「なるほど卑怯だと。では、もしそれであなたがたが卑怯者と罵られることがあれば、九郎判官に命じられてしかたがなかった、とでも言えばいい」
「え」
「わたしは大将ですよ。わたしに命じられて反することのできるものなど、なかなかいませんよ」
義経が、ちらりと通信に視線を投げた。
「まあ、戦場ですから。意図せずに矢が当たってしまうことはよくあることです」
信家が口元に歪な笑みをたたえている。
「河野殿とわたしの乗ったこの舟が、能登守をぎりぎりのところまで引きつけて、そうしたら小早川殿と河野殿が射てください」
「判官殿は」
「わたし、強い弓が引けないんですよね。見た目のまま」
そう言って、義経がひらひらと両腕を振ってみせた。
「そうはいったって判官殿。いくらおれたちの舟が、小回りがきくからって、この作戦、けっこう難しいと思う」
「でも、殿の功名に関わることなのですよね」
七郎の気弱な言葉を、信家が遮った。
「殿は、どうしたいのですか」
信家が通信の顔をのぞきこむ。
「おれは」
通信は一度目を瞑った。腹の奥底で、大蛇が鎌首をもたげている姿が見える。
「能登守に一矢報いたい。沼田で奴になぶられた記憶にけじめをつけたい」
通信の意思を得て、信家がはっきりとうなずいた。
「では、やるだけのことはやりましょう。殿と河野水軍の名を、わたしも轟かせたいのです」
やりとりを眺めていた義経が視線を逸らした。死んだもののことを重ねていたのかもしれないと通信は思った。
しばらくして、各々の舟に戻った信家と七郎から準備が整ったと合図がきた。
「ありがとうございます、河野殿。おれは――」
舳先に立った通信の背に、義経がなにかを言いかける。
「九郎殿。そういうの、いらないです」
気弱な呟きを振りはらい、通信は平家の舟団を見据える。戦うからには簡単に負けてなるものか。陸の上ならいざしらず。この西海の波の上では絶対に負けない。打ち負けては、それこそ名折れである。せめてこの名を強者として残す。
空の青。海の青。思わず魅入って吸いこまれそうな青に埋めつくされた世界に、赤地錦が冴え冴えとした。
きっと義経は、だれかとともに対等に、時にふざけあったり、ぶつかりあったり。そうやって育まれる友情を、肩を並べあう関係を、築くことができなかったのだろう。
通信にとっても、いままでそれは希薄なものだった。けれど景高や景平といったものたちとの付きあいのなかで、意思を酌み交わすということの大切さに気がついた。
だからこそ悲しく思う。義経は常に孤独だったのだ。
「いまのままの九郎殿だったら、これは無駄死にです。一緒におれも死んでしまいます。九郎殿が死ぬのはいい。知ったこっちゃありません。でもおれは、無駄死にをするくらいならば、いまは逃げます。おれはもっと大きくなって、三島の大蛇のように西海を呑みこんでやります。それが、死んでいったものたちへの弔いってものです」
義経がじっと通信の目を見つめていた。一体なにを考えているのか、通信にはわからなかった。ただ、少しでも伝わればいいと思った。世間から見て間違っているとか、不格好だとか、そういったことはどうでもいい。通信が、通信なりに考えたことである。
「逃げるのか、源氏の!」
教経が吠えていた。
「九郎義経。お前だけはおれがくびり殺して、その首刎ねて晒してやる」
矢が放たれる。さきほどよりも距離があるはずなのに、義経の近くにある掻盾が砕けた。
「あいつは一体なんなんだ」
信家が焦ったような視線を通信に向けている。そういえば、信家は能登守教経と直々に対峙したことはなかった。
「とにかく、後退!」
逃がしてなるものかと、平家の舟団が迫ってくる。純粋な早さは互角か、こちらが少し上か。海が干潮から徐々に満ち始めている。後退する通信たちにとっては願ってもない潮流ではあるが、それは追う平家とて同じことである。
「好機だ、逃すな!」
教経の声に、敵兵が勢いづく。
通信は自分の舟を殿にして、舟を縦に並べた。七郎の小型舟と信家の中型舟が先導するように先へ行く。北西の風が吹いていた。
「河野殿。おっしゃっていることは、わかりました」
義経が、通信の肩に手を置く。
「そのうえで言うのですが、このままでは良くて無駄生き、悪くて無駄死にです」
語りかける義経の表情は、それまでの悲壮なものから、どこかすっきりとした、爽やかなものに変わっていた。
「梶原殿の援軍がいつ来るかわからないまま、河野殿はいつまで逃げることができますか。よしんば逃げきったとして、命があったとして、しかし名には傷がつきますよ」
「それは」
「傷ついたまま生きていけるほどに、わたしたちの世界は優しいものではないでしょう。なにもしなければ、弱いと思われれば、すぐに攻めたてられて、追い落とされてしまうでしょう。それじゃあ、結局なにも守れないんじゃないですか」
通信は息をのんだ。ぐうの音もでない正論に、どうしようもなく無言でうなずく。
「だから一矢報いてやりましょう。ただの逃げ恥を、功名にかえるのです。そのほうが面白い」
目の前の男の、いたずらを思いついた少年のような眼ざしに心が揺れた。
「ただ、いまを生き残るだけではなく、さらにその先を良く生きるための提案です」
兜緒をきつく縛り、流れ矢に射貫かれないように、身をかがめながら義経が言う。通信は義経にならって、みずからも兜緒を締めなおした。
「ほら、あそこ。平家の舟足に乱れが出ている」
義経が掻盾の隙間を指さした。通信は身をかがめたまま、背後から追ってくる平家の舟団を見る。たしかに義経が指摘するように、教経の舟の速さについてくることができていない舟が、ままあった。
「河野殿、ここで交渉なのですが」
義経が美しい顔の前で指を立てた。
「わたしはあの男に一矢報いたい。河野殿は功名を得たい。これは両立すると思います」
「なにか妙案でも」
「ひとつ思いつきました。おれの策を聞いていただけますか」
「九郎殿は舟戦をよくご存知ないのでしょう。おれが聞いて勝算がないと思ったら、あなたを海に突き落としてでも、このまま逃げますよ。死ぬよりは無様でも生き残って、再起をはかりたいので」
「それでかまいません」
義経がおおらかに笑った。
「ひとつお聞きしたい。舟というものは、走行しながら帆をおろすことができるものですか」
「できます」
「では、能登守の舟についてきていない舟の真横に、他の舟をすべて突っこませましょう」
義経の言葉の意味がわからずに、通信は眉間に皺を寄せた。こうしている間にも、殿である通信の舟には、矢が射こまれ続けている。
「能登守は、わたしを狙っています。ですから、わたしを囮に使わない手はありません」
「ああ、なるほど」
通信はうなずいた。奇しくも比志城で通信が考えていたことと同じだ。
「この舟は囮となりながら、風上のほうへ舵を。残りの舟は帆をおろして風の力で敵陣の隙間を突きます。いざとなれば矢で水夫を射ってしまいましょう。ほら、あそこの」
細い掻盾の隙間から、男二人が肩をぶつけながら外を覗き見ている姿は、さぞや滑稽だろうなと通信は思った。ちらりと振り返ると、にやにやしている景平と目があった。
「あの図体の大きい舟の動きを止めてしまいましょう。そうすれば、後続の舟が前に出てこられなくなります。そこを一気に」
「乱戦になりますね。そうなれば数の少ない我らの不利です。騎馬とちがって、舟は小回りがききません」
「河野水軍の機敏さは、天下一だと聞いておりましたが、わたしの思い過ごしでしたか」
義経が、薄らと口角をつりあげる。
「あなたがたであれば平家の舟団を切り裂いて、能登守を孤立させることくらい造作もないのでは?」
通信は黙って腕を組む。義経の策は賭けの要素が強い。もし大型舟が止まらなかったら。もし能登守が後続を気にしたら。それこそ河野の舟が、平家の舟団に取りかこまれてしまう。
しかし通信にも意地がある。ここまで言われて簡単に、「できない」とは言えなかった。
「わかりました。しかし、これはおれの独断ではなんとも言えません。みなの命を賭けることです。すべての舟が一丸とならなければ厳しいでしょう。おれの郎等たちに、是非を問うてもよろしいでしょうか」
「そういうことでしたら、どうぞ。いま一度、わたしが説明いたしましょう」
通信は太刀を振って指示をだした。信家と七郎を呼んだのだ。しばらくすると器用に舟を伝いながら、両者が通信の舟にやってきた。信家と七郎に景平を交えて、再度、義経は策を語った。
「水夫や梶取を狙うってのは、どうなんでしょうね。陸の戦でいうところの、馬を射るみたいなもんですぜ」
七郎が苦言を呈した。
「馬を射る、馬に当て身を食らわす――坂東ではやりますけどね」
景平が、烏帽子から零れたくせ毛を指に巻きつける。
「なるほど卑怯だと。では、もしそれであなたがたが卑怯者と罵られることがあれば、九郎判官に命じられてしかたがなかった、とでも言えばいい」
「え」
「わたしは大将ですよ。わたしに命じられて反することのできるものなど、なかなかいませんよ」
義経が、ちらりと通信に視線を投げた。
「まあ、戦場ですから。意図せずに矢が当たってしまうことはよくあることです」
信家が口元に歪な笑みをたたえている。
「河野殿とわたしの乗ったこの舟が、能登守をぎりぎりのところまで引きつけて、そうしたら小早川殿と河野殿が射てください」
「判官殿は」
「わたし、強い弓が引けないんですよね。見た目のまま」
そう言って、義経がひらひらと両腕を振ってみせた。
「そうはいったって判官殿。いくらおれたちの舟が、小回りがきくからって、この作戦、けっこう難しいと思う」
「でも、殿の功名に関わることなのですよね」
七郎の気弱な言葉を、信家が遮った。
「殿は、どうしたいのですか」
信家が通信の顔をのぞきこむ。
「おれは」
通信は一度目を瞑った。腹の奥底で、大蛇が鎌首をもたげている姿が見える。
「能登守に一矢報いたい。沼田で奴になぶられた記憶にけじめをつけたい」
通信の意思を得て、信家がはっきりとうなずいた。
「では、やるだけのことはやりましょう。殿と河野水軍の名を、わたしも轟かせたいのです」
やりとりを眺めていた義経が視線を逸らした。死んだもののことを重ねていたのかもしれないと通信は思った。
しばらくして、各々の舟に戻った信家と七郎から準備が整ったと合図がきた。
「ありがとうございます、河野殿。おれは――」
舳先に立った通信の背に、義経がなにかを言いかける。
「九郎殿。そういうの、いらないです」
気弱な呟きを振りはらい、通信は平家の舟団を見据える。戦うからには簡単に負けてなるものか。陸の上ならいざしらず。この西海の波の上では絶対に負けない。打ち負けては、それこそ名折れである。せめてこの名を強者として残す。
空の青。海の青。思わず魅入って吸いこまれそうな青に埋めつくされた世界に、赤地錦が冴え冴えとした。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
偽夫婦お家騒動始末記
紫紺
歴史・時代
【第10回歴史時代大賞、奨励賞受賞しました!】
故郷を捨て、江戸で寺子屋の先生を生業として暮らす篠宮隼(しのみやはやて)は、ある夜、茶屋から足抜けしてきた陰間と出会う。
紫音(しおん)という若い男との奇妙な共同生活が始まるのだが。
隼には胸に秘めた決意があり、紫音との生活はそれを遂げるための策の一つだ。だが、紫音の方にも実は裏があって……。
江戸を舞台に様々な陰謀が駆け巡る。敢えて裏街道を走る隼に、念願を叶える日はくるのだろうか。
そして、拾った陰間、紫音の正体は。
活劇と謎解き、そして恋心の長編エンタメ時代小説です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる