沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅰ 未完のアスリート

4 水泳部

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高校に入ったら何かスポーツをして、今までの自分を変え、心も体も強くなりたいと思っていた。

陸上、柔道、バスケット、サッカー部・・・。どのクラブを見学してもしっくりこない。今まで運動部やスポーツクラブに一度も入ったことがない。一から始めるにはどこも敷居が高すぎる。何をやっても素人だし金もかかりそうだ。もう部活なんかしなくていいか。そう思いながら運動場の端でぼんやりたたずんでいた。

「おい、そこの新入生」
頭の上から声がした。
「もう部活決まったんか。まだやったら水泳部を一度見に来いよ」
見上げると、プールのフェンス越しに声をかけてきた先輩がいた。

「でも俺、あんまり泳げません」
「いいって。全部教えてやるから大丈夫だって」
そうだな。水泳なら水着だけで安上がりかもしれない。その日のうちに、水泳部に入部した。

高校生活が始まると、毎日家事に追われた。母が入院してからは、義父と食事や洗濯の仕事を分担していたが、これからは全部一人でしなければならない。
朝起きたら、まず洗濯機を回す。朝食は納豆にご飯だけが多い。何でもいいから食べておかないと昼前にかなりつらい思いをする。
弁当は夕食の残りと海苔やふりかけをご飯の上に散らすだけ。天気を見て、家の外か中に洗濯物を干してから登校する。

学校で話すのは水泳部の男子ぐらい。女子生徒は、みんな自分よりはるかに大人びて見えた。
入学して間もなく、三人の女子に声をかけられた。
「倉本君、クラスの連絡網を作るから、携帯の番号とメルアド教えてくれる?」

ぼそっと携帯を持っていないことを伝えると、唖然とした顔つきになった。
「とりあえず家の電話番号でいいよ」
一人が優しく言ってくれた。けれど義父が家を出た時、電話も撤去されていた。
後で配られたプリントには、枠外に長々と淳一の住所が記されてあった。

水泳部の練習は甘くなかった。溺れない程度には泳げたが、競泳レベルには程遠く、他の新入部員とは別に基礎練習ばかりやらされた。淳一を誘った白井部長は責任を感じたのか、いつも熱心に教えてくれたので、なんとか泳ぎ方も様になってきた。

ネックは腕力の弱さだ。キック練習はついていけるが、ビート板を足にはさみ、腕だけで進むプルの練習は苦手だ。白井先輩は淳一のことを何かと気にかけてくれた。
「腕立てとか、ダンベルでもやって鍛えとけよ。水をかく力が付くから」

夏を経て身長が伸び、肩幅も広がった。しかし他の部員と見比べるとひょろっとした貧弱な体形で、いつも恥ずかしい思いをしていた。

一応泳げるようになったクロールと背泳の記録は、水泳大会のたびに伸びた。100mの自由形で2分もかかっていたのが、徐々にタイムを上げ、8月初めの大会で1分20秒。九月の新人戦では1分12秒まで縮めることができた。たいして速くもないが、やっとみんなに追いつくことができたという安ど感を得た。

2年生の仁志紀和子先輩は、淳一の手を取って腕のフォームを教えてくれた。今までに見たことのないきれいな人で、どぎまぎしながらも言われたことを繰り返し練習した。彼女からほめてくれるのがうれしくて、なおのこと練習に打ち込んだ。




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