沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅰ 未完のアスリート

18 5000m走

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今まで5000mは何度か走った。
学校のパソコンで外周道路の距離を調べ、腕時計でそのコースタイムを計ってみたのだ。
初め20分以上かかっていたのが、18分台に縮めることができた。

今日は17分台を出そうと思っていたが、どうでもいいという気持ちなってきた。
言われたから走るだけのことで、もう水泳だけで十分だ。

予選はなくて則決勝のタイムレース。
召集場所に行くと、萩田に言われた通り、他の選手の顔つきや体つきやシューズを見て、とんでもない世界に迷い込んだ気がした。これならプールにいて競泳女子のリレーを応援していた方がよかった。仁志先輩は400mリレーのアンカーだったのに。

トラックでの競技は初めてだ。どうせ陸上部の選手にすぐ追い抜かれる。
途中棄権したって構わない。スタート場所は二か所ある。計測タグを腰に巻いたが変な感じだ。

スタートから飛ばした。
他の選手は足をももまで上げ、跳ぶように走っている。淳一はいつものように、あまり足を蹴り上げず、地面にこするような走り方をした。この方が楽だ。
他の選手のフォームをまねをしようと思ったが、どうせ棄権するなら無理しなくていい。

息が切れてきたが、吐いて吐いて吸っての呼吸法で2周通過。確か12周半だったな。
まだ先頭集団で走っている。
千五百にするはずが、陸上の顧問は一本だけなら五千にしろと勝手に決められた。

観客席の最前列にいる麗奈が大声で応援してくれている。あいつの種目は確か走り幅跳びだったか。
香奈さんはどんな顔をして見ているのだろう。ちらっと紀和子先輩が見えた気がした。
まさかな。

5周目を通過。コーナーを回る時、後ろを見ると集団が崩れ、列が長く伸びていた。
8周目。トップ集団は五人で、淳一は3番目。息が切れてきて苦しい。
背泳のバサロで25m行く感じだ。吐いて吸って吸っての三拍子。
いやこれは拍子じゃないな。もうこの辺でパスしてもいいか。無理しすぎている。

観客席の最前列、東高陸上部の横断幕から少し離れたところに、水泳部の女子が何人か手を振っているのが見えた。来てくれていたんだ。苦しいけれど頑張る気力がわいてきた。
背の高い木ノ嶋さんがよく目立つ。紀和子先輩もすぐ分かった。俺のことを見ていてくれる。
もう少し頑張ろう。途中棄権はやめだ。
メインスタンド前の直線でさらにもう二人抜くと、何と先頭になってしまっていた。

ラスト1周。鐘が鳴らされる。
今、なぜかトップで走っている。後ろは見ない。
ラストスパートをしたつもりだが、スピードが出ている感じがしない。

最後の直線100m。内側を走る周回遅れの選手とぶつかりそうになった。
どのコースを走ればいいのか分からない。右にゴールテープが用意されている。あそこか。
フィニッシュラインを越える時、思わず両手を挙げガッツポーズをした。
そんなことをした自分自身に驚いた。

横に置いてあるデジタル時計は14分29秒で止まっている。いい方なのだろうか?
走り終えてから、芝生の上に座り込んだ。

スタンドの東高の場所に行くと、麗奈がなんと抱きついてきた。
その手をほどいて近くにいた香奈さんに手を出すと、ふれる程度に手を合わせてくれた。
応援に来てくれた女子の水泳部のメンバーにもハイタッチ。
最後に紀和子先輩。思わず手を握ってしまった。やった。

正式タイムは14分28秒45。表彰式まで時間がかかった。
式までに水泳部の女子は帰ってしまっていた。表彰状とメダルを段の一番高い所でもらったが、水泳では決勝で3位内に入ったことは一度もないので妙な気分だ。
これで責任を果たしたことになるのかな。ずっと陸上をやっているやつに悪い気もする。
何で優勝できたのか不思議だ。

一人で帰りながら考えた。自分は一匹狼のつもりでいたが、好きな人に応援されるだけでうれしくなり、頑張ってしまう単純な男だったんだな。



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