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Ⅱ 君とオリンピックに行きたい
6 来てくれていた
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次は5000m。先程行われた400mリレーでは会場全体が歓声に包まれていたが、五千に参加しない学校は、もう帰り支度を始めている。召集は4時で今日の最終種目だ。観客席はメインスタンド以外、閑散としている。未練がましく、観客席の上から下まで眺め回したが分からない。
ジャージを脱いでストレッチを始めた。トラック上でダッシュを繰り返している選手が多い。東田からスタート前に思い切り走らない方がいいと聞いていたので、体を回す程度にしておく。
組んだ手を頭上に上げて大きく伸びをした。
観客席の一番端、退場ゲートの上にいる一人の少女が目に入った。周りにはだれもいない。西日がまぶしく顔は分からない。やっぱり違うよな。思い切り息を出し、両手で顔を叩いた。さあ行こう。
スタート位置に着いた。
高2の時、14分台で優勝したが、あれは紀和子先輩が来てくれて出したまぐれの記録だ。
高校駅伝の強豪校や実業団の人も見かけた。どの選手も日に焼けて体が引き締まっている。俺なんかの何倍も練習をしてきたのだろう。この場から逃げ出したくなった。
号砲で走り出す。
千五百で、初めから置いていかれたミスを繰り返さないように先頭集団に付いていく。どこかで抜かされるだろうが、行けるだけ行こう。今日をスタートにしたらいい。
走り方は、高校の時のすり足走法だ。後足を跳ねる走法は俺には向いていない。あれで足を痛めたし記録も出なかった。俺は俺で行こう。
3周を過ぎて、固まっていた集団が伸びてきた。今のところ前から5番目。
巨大な退場ゲートの上の席に一人だけ座っている女性が見えた。もしかして?
来ている。来てくれていた。
あれは彼女だ。でも第1コーナーのカーブするところで見ただけだから、確かめたわけではない。いや可能性五分五分かな。医院で会った時の印象とまるで違う。
次の周で確認しよう。スピードを上げた。
スタンドにいる仲間の声援が聞こえる。
東田が「まだ早い」と叫ぶ声が聞こえた。早いって何が早いんだ?
第1コーナーに差しかかり、観客席を見上げた。服は制服っぽいが、あの背格好は間違いない。
気が付くと目の前にランナーがいた。シミズ製薬陸上部の中本さんというのか。背は高くないが安定した走りだ。俺は何かドタバタ走っている気がする。
5、6周目から、先頭の中本さんとそれを追いかける淳一の二人だけの展開になった。
3位以下はどこにいるのか分からない。とにかく離されないことだ。中本さんの背中がやけに大きく見えて、とても抜ける気がしない。手の振りを彼に合わせた。ぴたっと後ろについて走る。足の運びも合わせてみた。呼吸がずい分楽になった。
8周目。ゲート上にいる女性は席から立ち上がり、胸の前で手を握り、両腕を上下に動かしていた。応援してくれているようだが、初めて見るしぐさだ。中本さんが引き離そうとしてスピードを上げる。でも離されはしない。彼女に見られていることを強く意識した。
せっかく来てくれたんだ。いいとこを見せないと。
9周目。中本さんと二人で、周回遅れの選手を何人抜いたのだろう。
後3周だ。できれば抜かそう。いや絶対抜かす。どこで?
右足裏に痛みを感じた。またかよ。左足のふくらはぎにも違和感を感じた。知らない間に跳ね上げるような走りに変わっている。戻さなければ。
観客席の中段にいた彼女は、最前列の手すりまで下りてきて、小さく手を振っている。
あの子が俺を応援してくれている。夢みたいだ。
後2周。ピッチを上げた。ストライドをもっと長くする。コーナーで中本さんと並んだ。
外側を走りながら、1、2、3と唱え、一気に彼を抜いてインコースに入った。
ラスト1周を知らせる鐘が鳴る。手の振りも速くした。もう手足がバラバラな感じだ。
最後の直線コース。中本さんの足音はもう聞こえない。フィニッシュラインは彼女の目の前だ。トップで彼女の前を走りたい。真正面に彼女がいる。彼女の姿が大きくはっきり見えてきた。呼吸の苦しさ、足の痛さなんか我慢して全力で走る。ゴールテープを切った後、さすがに足がもつれた。
コース横にある電光掲示板は、13分55秒で止まっている。
ゲート上の彼女を見上げた。表情は分からないが、あの子も俺のことを見てくれているはずだ。
スタンドの影が延びて来たフィールドで、久しく感じたことがない満ち足りた気持ちで一杯になった。
ジャージを脱いでストレッチを始めた。トラック上でダッシュを繰り返している選手が多い。東田からスタート前に思い切り走らない方がいいと聞いていたので、体を回す程度にしておく。
組んだ手を頭上に上げて大きく伸びをした。
観客席の一番端、退場ゲートの上にいる一人の少女が目に入った。周りにはだれもいない。西日がまぶしく顔は分からない。やっぱり違うよな。思い切り息を出し、両手で顔を叩いた。さあ行こう。
スタート位置に着いた。
高2の時、14分台で優勝したが、あれは紀和子先輩が来てくれて出したまぐれの記録だ。
高校駅伝の強豪校や実業団の人も見かけた。どの選手も日に焼けて体が引き締まっている。俺なんかの何倍も練習をしてきたのだろう。この場から逃げ出したくなった。
号砲で走り出す。
千五百で、初めから置いていかれたミスを繰り返さないように先頭集団に付いていく。どこかで抜かされるだろうが、行けるだけ行こう。今日をスタートにしたらいい。
走り方は、高校の時のすり足走法だ。後足を跳ねる走法は俺には向いていない。あれで足を痛めたし記録も出なかった。俺は俺で行こう。
3周を過ぎて、固まっていた集団が伸びてきた。今のところ前から5番目。
巨大な退場ゲートの上の席に一人だけ座っている女性が見えた。もしかして?
来ている。来てくれていた。
あれは彼女だ。でも第1コーナーのカーブするところで見ただけだから、確かめたわけではない。いや可能性五分五分かな。医院で会った時の印象とまるで違う。
次の周で確認しよう。スピードを上げた。
スタンドにいる仲間の声援が聞こえる。
東田が「まだ早い」と叫ぶ声が聞こえた。早いって何が早いんだ?
第1コーナーに差しかかり、観客席を見上げた。服は制服っぽいが、あの背格好は間違いない。
気が付くと目の前にランナーがいた。シミズ製薬陸上部の中本さんというのか。背は高くないが安定した走りだ。俺は何かドタバタ走っている気がする。
5、6周目から、先頭の中本さんとそれを追いかける淳一の二人だけの展開になった。
3位以下はどこにいるのか分からない。とにかく離されないことだ。中本さんの背中がやけに大きく見えて、とても抜ける気がしない。手の振りを彼に合わせた。ぴたっと後ろについて走る。足の運びも合わせてみた。呼吸がずい分楽になった。
8周目。ゲート上にいる女性は席から立ち上がり、胸の前で手を握り、両腕を上下に動かしていた。応援してくれているようだが、初めて見るしぐさだ。中本さんが引き離そうとしてスピードを上げる。でも離されはしない。彼女に見られていることを強く意識した。
せっかく来てくれたんだ。いいとこを見せないと。
9周目。中本さんと二人で、周回遅れの選手を何人抜いたのだろう。
後3周だ。できれば抜かそう。いや絶対抜かす。どこで?
右足裏に痛みを感じた。またかよ。左足のふくらはぎにも違和感を感じた。知らない間に跳ね上げるような走りに変わっている。戻さなければ。
観客席の中段にいた彼女は、最前列の手すりまで下りてきて、小さく手を振っている。
あの子が俺を応援してくれている。夢みたいだ。
後2周。ピッチを上げた。ストライドをもっと長くする。コーナーで中本さんと並んだ。
外側を走りながら、1、2、3と唱え、一気に彼を抜いてインコースに入った。
ラスト1周を知らせる鐘が鳴る。手の振りも速くした。もう手足がバラバラな感じだ。
最後の直線コース。中本さんの足音はもう聞こえない。フィニッシュラインは彼女の目の前だ。トップで彼女の前を走りたい。真正面に彼女がいる。彼女の姿が大きくはっきり見えてきた。呼吸の苦しさ、足の痛さなんか我慢して全力で走る。ゴールテープを切った後、さすがに足がもつれた。
コース横にある電光掲示板は、13分55秒で止まっている。
ゲート上の彼女を見上げた。表情は分からないが、あの子も俺のことを見てくれているはずだ。
スタンドの影が延びて来たフィールドで、久しく感じたことがない満ち足りた気持ちで一杯になった。
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