沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅱ 君とオリンピックに行きたい

15 けんかの仕方

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洋二兄が久しぶりに淳一に会いに来た。今の家を処分する話が進んでいるそうだ。

「親父はここを売って、今のマンションの借金を完済したいらしい。淳一はどうするんやと聞くと、大学に入ったら出て行くとはっきり聞いた、と言い張っている。今すぐということはないと思うが、なみ江さんがせかしているらしい。俺も兄貴も、今安売りするのは反対やけどなあ」

貯金は、入学金を払い込んだ分が戻ってきたので30万円程ある。
6月から始めた家庭教師と奨学金で月7万円。下宿すると六千円増額されるが、それで生活できるだろうか?下宿代が3万以下なら何とかなりそうだが、そんなところが果たしてあるかな。
バイトは仕方ないが、陸上はやめたくない。

今のところ、かなり助かっている家庭教師を向うの家でやるようにした。
簡単な夜食を作ってくれるのがありがたい。
閑静な住宅街の中だが、それほど裕福とは思えない家だった。子供もだいぶなじんできてくれた。
なぜ塾にせず家庭教師にしたのかもわかった。いじめだ。
教えている小6の大輔は、気弱で若干肥満気味。塾でも学校でも同じ奴にちくちくやられてきたらしい。

淳一は、転校した当初しばらくやられたことがある。そのいじめは、母も担任も知らないはずだ。
解決は難しくない。男子の場合、いじめてくる相手をやっつければいいだけのことだ。
大輔にいじめをする奴を倒すやり方を伝授した。   

やられてもへらへら笑うな。そいつの襟を思いっきりつかめ。
後はその体勢で壁まで押しまくれ。殴られても手を離すな。
実際にやらせてみた。殴ったり蹴ったりしてはいけない。ただ押しまくれ。
向うが泣くか謝ったら離せ。大輔の顔つきが変わっていた。明日学校でやってみろ。

「やったよ、先生」
次の日、彼から弾んだ声で電話があった。こんなこと親父が教えてやれよ。

家庭教師が終わったのは8時前。疲れ果てた。
駅へ歩きながらため息をついた。私学受験の問題は難しすぎる。

小腹が減ったからおにぎりでも買おうか。
そう思って駅近くのコンビニに入ろうとすると、店の前で男女がもつれあっていた。
言い争っているのに声は聞こえない。ふざけているだけか。

ちらっと顔を見ると、まさかの由佳だった。
ずんぐりとした男に無理やり手を引っ張られ、それに抵抗している。
こんな所で何をしている?若い男は、筋肉質で腕も首筋も太い。

何も考えずに二人の間に割って入った。
間違っていたなら大恥だ、と思いながら女性の顔を確かめたら、やはり彼女に違いない。
口元に強烈なアタックがきて吹っ飛ばされた。立ち上がってつかみかかると足払いをされ、また派手に転んだ。淳一の持ち物が辺りに散乱した。

周りを取り囲む人が増えてきた。
コンビニの店員も出てきて「警察を呼びますよ」と大声を出した。
男がこちらを睨み、逃げるように走り去った。
結局、何にも力になれず、口を切り鼻血を出しただけだ。
周りの人に手を引かれ、何とか立つことができた。情けないし恥ずかしい。

由佳が落ちていた、ノートや文具を拾い、自宅方向を指さして歩き出した。
その後をハンカチで鼻や口を押さえながらついて行く。
こんな格好じゃなくて会いたかった。
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