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Ⅱ 君とオリンピックに行きたい
17 彼が好き
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突然、部屋の壁にある丸くて白い機器が何度も光った。
続けてチャイムの音もしたので、思わず立ち上がってしまった。
そうか、声の代わりなのか。外から父親の声が聞こえた。
「お茶の用意ができたから、下りて来てくれるかな」
リビングに座ると、電話をしている母親の声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
「君に怪我をさせた奴の家に怒鳴り込もうとしたら、妻に止められた。今向うの母親と話し合い中だ。ともかく君には礼を言うよ。由佳を助けてもらって」
母親が戻ってきた。
「本山さんに粘られて困ったわ。一度の過ちなんか十年の付き合いがあれば消えるはずだとか言われてね。でも由佳の気持ちはとっくに離れていると言ったら、電話を切られてしまった」
そこで淳一の方を向いた。
「それであなたは由佳にどうしてほしいの?家がなくなるという話も教えてくれる?」
しまった。全部聞かれていたのか。
話しづらいが、仕方がない。少しお茶に口をつけ、ぽつりぽつりと話し始めた。
父は震災で死んだと聞いた。母と二人だけの生活が8年。母は再婚したが4年前亡くなった。
義父が三度目の結婚して家を出たので、今は一人暮らしをしている。
高校の先生の助けで何とか卒業して、大学にも進学ができた。
今、住んでいる家を売る話が進んでいる。
そうなったら家を出なければならないので、住むところを探している。
彼女とは、寺やスーパーで会って、ずっと気になっていた。
陸上の応援に来てくれて本当にうれしかった。おかげで優勝もできた。
彼女が応援してくれたら、これから記録をもっと伸ばせると思う。
母親は手話で彼女に話を伝えているので、言葉を選びながらゆっくり話した。
さすがにオリンピックという言葉は言えなかった。最後に練習してきた手話をした。
「由佳さんとまた会いたいです。手話をもっと覚えるし、彼女を大事にします」
父親は、いつの間にかウイスキーを飲んでいた。
「私は由佳がいいなら、別にかまわん。それで由佳はどうなんだ?」
彼女は、淳一と両親の顔を順に見てから、二文だけの手話をした。
「彼が、好き」
ほっとしてため息が出た。涙も出そうになった。
「お茶を入れ直すわ」
母親が、由佳も手伝うように手で合図をした。
父親が、笑いながら教えてくれた。
「この前、君がここに来たことを由佳に知らせたら、何でその時自分を呼ばなかったかって怒ってなあ。あの子も本当は君に会いたかったみたいだな」
医院を出たのは10時を過ぎていた。医院を見ると、彼女が二階の部屋から見送ってくれていた。
だいぶ離れているが、彼女がゆっくり手話をするのが見えた。
「私のこと好き?」
「もちろん!大好きだ。君は?」
首をかしげ、少し考える風をした。ええっ?さっきと違うよ。
すると笑顔になって、小指をほおに何度か当てた。「うそ」という表現だ。
「本当は、あなたが好き」
読み取れた。やれやれだ。
今度いつ会うか相談した。
声の聞こえない話し合いが続く。手足はずきずきするし、口元はずっと痛む。
でも今は最高の気分だ。
ロンドンオリンピックか。ものすごいことを宣言したな。
彼女がいたから五千で十四分切りができた。
またあの時のような奇跡が起きるかもしれないと思って口走ってしまった。
言ったことは消えない。でも彼女のためなら必死になれる。
その夜、興奮してほとんど眠れなかった。
明け方ランパンに着替え、朝日に向かって走りだした。
続けてチャイムの音もしたので、思わず立ち上がってしまった。
そうか、声の代わりなのか。外から父親の声が聞こえた。
「お茶の用意ができたから、下りて来てくれるかな」
リビングに座ると、電話をしている母親の声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
「君に怪我をさせた奴の家に怒鳴り込もうとしたら、妻に止められた。今向うの母親と話し合い中だ。ともかく君には礼を言うよ。由佳を助けてもらって」
母親が戻ってきた。
「本山さんに粘られて困ったわ。一度の過ちなんか十年の付き合いがあれば消えるはずだとか言われてね。でも由佳の気持ちはとっくに離れていると言ったら、電話を切られてしまった」
そこで淳一の方を向いた。
「それであなたは由佳にどうしてほしいの?家がなくなるという話も教えてくれる?」
しまった。全部聞かれていたのか。
話しづらいが、仕方がない。少しお茶に口をつけ、ぽつりぽつりと話し始めた。
父は震災で死んだと聞いた。母と二人だけの生活が8年。母は再婚したが4年前亡くなった。
義父が三度目の結婚して家を出たので、今は一人暮らしをしている。
高校の先生の助けで何とか卒業して、大学にも進学ができた。
今、住んでいる家を売る話が進んでいる。
そうなったら家を出なければならないので、住むところを探している。
彼女とは、寺やスーパーで会って、ずっと気になっていた。
陸上の応援に来てくれて本当にうれしかった。おかげで優勝もできた。
彼女が応援してくれたら、これから記録をもっと伸ばせると思う。
母親は手話で彼女に話を伝えているので、言葉を選びながらゆっくり話した。
さすがにオリンピックという言葉は言えなかった。最後に練習してきた手話をした。
「由佳さんとまた会いたいです。手話をもっと覚えるし、彼女を大事にします」
父親は、いつの間にかウイスキーを飲んでいた。
「私は由佳がいいなら、別にかまわん。それで由佳はどうなんだ?」
彼女は、淳一と両親の顔を順に見てから、二文だけの手話をした。
「彼が、好き」
ほっとしてため息が出た。涙も出そうになった。
「お茶を入れ直すわ」
母親が、由佳も手伝うように手で合図をした。
父親が、笑いながら教えてくれた。
「この前、君がここに来たことを由佳に知らせたら、何でその時自分を呼ばなかったかって怒ってなあ。あの子も本当は君に会いたかったみたいだな」
医院を出たのは10時を過ぎていた。医院を見ると、彼女が二階の部屋から見送ってくれていた。
だいぶ離れているが、彼女がゆっくり手話をするのが見えた。
「私のこと好き?」
「もちろん!大好きだ。君は?」
首をかしげ、少し考える風をした。ええっ?さっきと違うよ。
すると笑顔になって、小指をほおに何度か当てた。「うそ」という表現だ。
「本当は、あなたが好き」
読み取れた。やれやれだ。
今度いつ会うか相談した。
声の聞こえない話し合いが続く。手足はずきずきするし、口元はずっと痛む。
でも今は最高の気分だ。
ロンドンオリンピックか。ものすごいことを宣言したな。
彼女がいたから五千で十四分切りができた。
またあの時のような奇跡が起きるかもしれないと思って口走ってしまった。
言ったことは消えない。でも彼女のためなら必死になれる。
その夜、興奮してほとんど眠れなかった。
明け方ランパンに着替え、朝日に向かって走りだした。
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