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Ⅱ 君とオリンピックに行きたい
22 遠野ボランティアセンター
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引っ越して3目目。
この部屋を一週間も空けることになった。
神戸発のボランティアバスに応募していたのだが、抽選で落ちていた。
ところが急に欠員が出たとのことで東北に行けることになったのだ。
まだ荷物は片付いていないし、寺の仕事もろくにできていない。
住職夫婦は、東北に行くならと快く了承してくれたが、由佳は、理解できないようだった。
「せっかくコースを考えたのに、まだ1回も走っていない。私と練習したくないの?」
「違う。僕は今、走ることより大事なことがしたい。
帰ったら、君の言うとおりに練習をするから許してほしい」
「今度だけね。私に出来る事はない?」
「ない」
そう伝えると、うらめしそうに口をとがらせた。あわてて付け足した。
「お金を少し貸してくれる?」
出発の前日、10万円を持ってきてくれた。
「父さんと私で半分ずつ出した。父さんの分は、返さなくていいと言っていた」
ため息が出た。お金に困ったことなんかないのだろうな。
バスは神戸から11時間かけて、岩手県の遠野市まで行く。
そこを拠点にして各地に出かけるそうだ。
マイクロバスで、長時間身動きができないのはつらいが仕方ない。
車中では魯迅選集を読破していった。小説はどれも短く内容の重い作品ばかりだ。
魯迅の願いや怒りが伝わって来る。しかしもっと気楽に読める本を持ってきてもよかった。
遠野には夜着いた。ボランティアセンターの男子棟で全国から来た人たちと雑魚寝をする。
次の日は、陸前高田市の海岸近くにある魚工場跡地の整備をした。
魚の缶詰工場が被災して大量の冷凍魚が広範囲に散乱していた。
猛烈な悪臭で、黒いかたまりに見えるほどのハエが飛び回る中で、数百人が袋に魚を土ごと入れていく。作業はどんどん進んでいき、機械なしでも協力して働けば、かなりの作業ができるということを体感した。
3日目は大槌町にある川の整備。精霊流しのため、川や周辺をきれいに清掃をした。
作業は割と簡単に終わり、近くの風呂屋で汗を流したら、もう神戸へ帰る準備をする。
淳一はこれだけしかで終わるのは納得できないと思った。
リーダーに相談すると、一週間後またバスが戻って来る。
その時、空き席があれば乗せるが確約はできないということだ。
席がなければ自費で戻らねばならない。借りたお金もあるしそれでもいいか。
毎日泊まる仮設の宿舎には、常時数十人が寝泊まりしていた。
少し離れた棟は、支援に来た県警の宿舎になっていた。
その宿舎を横目に見ながら、もし防衛大に入っていたら、こんなゆるい活動ではない苦労をしていたに違いないと思った。本当はそうしたかった。
4日目から、できるだけきつい仕事を選んだ。
重機が入る前にがれきの下にある遺品や遺骨を探す作業だ。
やりがいはあったが、泥にまみれたランドセルや学用品、アルバムを見つけては持ち主のことを考えて胸が痛んだ。遺骨は探し出せなかった。
この部屋を一週間も空けることになった。
神戸発のボランティアバスに応募していたのだが、抽選で落ちていた。
ところが急に欠員が出たとのことで東北に行けることになったのだ。
まだ荷物は片付いていないし、寺の仕事もろくにできていない。
住職夫婦は、東北に行くならと快く了承してくれたが、由佳は、理解できないようだった。
「せっかくコースを考えたのに、まだ1回も走っていない。私と練習したくないの?」
「違う。僕は今、走ることより大事なことがしたい。
帰ったら、君の言うとおりに練習をするから許してほしい」
「今度だけね。私に出来る事はない?」
「ない」
そう伝えると、うらめしそうに口をとがらせた。あわてて付け足した。
「お金を少し貸してくれる?」
出発の前日、10万円を持ってきてくれた。
「父さんと私で半分ずつ出した。父さんの分は、返さなくていいと言っていた」
ため息が出た。お金に困ったことなんかないのだろうな。
バスは神戸から11時間かけて、岩手県の遠野市まで行く。
そこを拠点にして各地に出かけるそうだ。
マイクロバスで、長時間身動きができないのはつらいが仕方ない。
車中では魯迅選集を読破していった。小説はどれも短く内容の重い作品ばかりだ。
魯迅の願いや怒りが伝わって来る。しかしもっと気楽に読める本を持ってきてもよかった。
遠野には夜着いた。ボランティアセンターの男子棟で全国から来た人たちと雑魚寝をする。
次の日は、陸前高田市の海岸近くにある魚工場跡地の整備をした。
魚の缶詰工場が被災して大量の冷凍魚が広範囲に散乱していた。
猛烈な悪臭で、黒いかたまりに見えるほどのハエが飛び回る中で、数百人が袋に魚を土ごと入れていく。作業はどんどん進んでいき、機械なしでも協力して働けば、かなりの作業ができるということを体感した。
3日目は大槌町にある川の整備。精霊流しのため、川や周辺をきれいに清掃をした。
作業は割と簡単に終わり、近くの風呂屋で汗を流したら、もう神戸へ帰る準備をする。
淳一はこれだけしかで終わるのは納得できないと思った。
リーダーに相談すると、一週間後またバスが戻って来る。
その時、空き席があれば乗せるが確約はできないということだ。
席がなければ自費で戻らねばならない。借りたお金もあるしそれでもいいか。
毎日泊まる仮設の宿舎には、常時数十人が寝泊まりしていた。
少し離れた棟は、支援に来た県警の宿舎になっていた。
その宿舎を横目に見ながら、もし防衛大に入っていたら、こんなゆるい活動ではない苦労をしていたに違いないと思った。本当はそうしたかった。
4日目から、できるだけきつい仕事を選んだ。
重機が入る前にがれきの下にある遺品や遺骨を探す作業だ。
やりがいはあったが、泥にまみれたランドセルや学用品、アルバムを見つけては持ち主のことを考えて胸が痛んだ。遺骨は探し出せなかった。
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