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Ⅱ 君とオリンピックに行きたい
24 絶対来いよ
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お昼から、また鬼ごっこが始まった。
運動場全部を使って、子供たちの間をすり抜けるように逃げる。
待ち伏せをしたり、飛びついて来たりする子もいるので、けがをしなか心配しながら走り回った。
女の子もやってきて十数人になった。
子供たちに交じって、ろうの子供も汗びっしょりになっているのを見てうれしくなった。
休憩していると先生がスイカを切って持ってきてくれた。歓声を上げてみんなでかぶりつく。
その後、ケイドロをすることになった。淳一と数名の女の子対男子全員だ。
ケイドロのルールは関西と同じらしい。
3時前になり、さすがにもう終わりと宣言した。
先程の先生にお盆を返しに行った。この学校の教頭先生だった。
「ご苦労さん。よく頑張ってくれたな。あの子らもあんなに走り回ったのは久しぶりだろう。ところで君は学生さんか?」
「はい、文学部の1回生です」
「じゃあ教師になることができるな」
「いや教師が向いているか、分かりません」
先生は、笑いながら言った。
「いやあ君は向いているよ。あんな小さな子らでも、本気で関わってくれたことはちゃんと分かっているから君から離れなかったんだ。教員免許だけは取れよ」
明日東北を離れると言うと、子供たちを集めて一緒に写真を撮った。学校のホームページに載せるという。迎えのバスがもうやって来た。
「明日も絶対来いよ」
リーダー格の男の子が命令口調で言った。明日はいないとも言えず「来れたら」と小さく答えた。
ろうの子が手を離さず困った。こんな時どうしたらいいんだ。
バスから手を振ると、みんな一斉に奇声を上げたり、おかしな顔をして見送ってくれた。
ろうの子供に、頑張れの手話をすると同じように返してくれた。
それを見ると、涙があふれ出て止まらなくなった。
汚れたタオルを顔に押し当て、声を出さずに泣いた。
8日目の早朝、運よく神戸まで空きがあるバスに乗ることができた。
バスから見ると津波が引いた後の更地には草が生い茂り、道路だけがきれいになっていた。
被災した車が何百台も野ざらしで積み上げられ、巨大なモニュメントのように見えた。
この短い旅行で得難い経験ができた。
ボランティアで人を助けに来たと思っていたのに、学んだことや得たことの方が大きかった。
だれかに今の気持ちを伝えたいと思った。
長いバス旅で今考えていることを頭の中で組み立て、それを手話に置き換える作業に熱中した。
寺にたどり着いたのは夜の9時過ぎ。部屋に入ると布団が敷いてある。
ひきっぱなしだったかな、と思いながら倒れるように寝ころんだ。
疲れているのになかなか眠つけない。何度も目覚めては、今どこにいるか分からなくなった。
運動場全部を使って、子供たちの間をすり抜けるように逃げる。
待ち伏せをしたり、飛びついて来たりする子もいるので、けがをしなか心配しながら走り回った。
女の子もやってきて十数人になった。
子供たちに交じって、ろうの子供も汗びっしょりになっているのを見てうれしくなった。
休憩していると先生がスイカを切って持ってきてくれた。歓声を上げてみんなでかぶりつく。
その後、ケイドロをすることになった。淳一と数名の女の子対男子全員だ。
ケイドロのルールは関西と同じらしい。
3時前になり、さすがにもう終わりと宣言した。
先程の先生にお盆を返しに行った。この学校の教頭先生だった。
「ご苦労さん。よく頑張ってくれたな。あの子らもあんなに走り回ったのは久しぶりだろう。ところで君は学生さんか?」
「はい、文学部の1回生です」
「じゃあ教師になることができるな」
「いや教師が向いているか、分かりません」
先生は、笑いながら言った。
「いやあ君は向いているよ。あんな小さな子らでも、本気で関わってくれたことはちゃんと分かっているから君から離れなかったんだ。教員免許だけは取れよ」
明日東北を離れると言うと、子供たちを集めて一緒に写真を撮った。学校のホームページに載せるという。迎えのバスがもうやって来た。
「明日も絶対来いよ」
リーダー格の男の子が命令口調で言った。明日はいないとも言えず「来れたら」と小さく答えた。
ろうの子が手を離さず困った。こんな時どうしたらいいんだ。
バスから手を振ると、みんな一斉に奇声を上げたり、おかしな顔をして見送ってくれた。
ろうの子供に、頑張れの手話をすると同じように返してくれた。
それを見ると、涙があふれ出て止まらなくなった。
汚れたタオルを顔に押し当て、声を出さずに泣いた。
8日目の早朝、運よく神戸まで空きがあるバスに乗ることができた。
バスから見ると津波が引いた後の更地には草が生い茂り、道路だけがきれいになっていた。
被災した車が何百台も野ざらしで積み上げられ、巨大なモニュメントのように見えた。
この短い旅行で得難い経験ができた。
ボランティアで人を助けに来たと思っていたのに、学んだことや得たことの方が大きかった。
だれかに今の気持ちを伝えたいと思った。
長いバス旅で今考えていることを頭の中で組み立て、それを手話に置き換える作業に熱中した。
寺にたどり着いたのは夜の9時過ぎ。部屋に入ると布団が敷いてある。
ひきっぱなしだったかな、と思いながら倒れるように寝ころんだ。
疲れているのになかなか眠つけない。何度も目覚めては、今どこにいるか分からなくなった。
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