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Ⅲ ロンドンへの道
1 トレーニング開始
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だれかに体を揺さぶられて目を覚ました。時計を見るとまだ5時過ぎだ。
目の前に由佳がいる。
会いたかった顔がそこにあるのだが、眠くて目を開けられない。
無理やり起こされ、ランパンとシャツを渡された。
寝ぼけまなこで着替え、玄関を出る。
自転車に乗った彼女に並走してもらいながらジョグ。
深呼吸や伸びをするうちに目が覚めてきた。
ゆっくり伊吹中央公園まで走り、設置しているベンチに寝かされた。
腹筋や背筋を指示され、足を曲げるストレッチを二人でする。
柔軟運動はきつくて痛くて悲鳴を上げた。
終わると公園内の雑木林にある道を指さした。山道を走るのか。
緑のトンネルの中、セミの大合唱を全身に浴びながら走るのは新鮮で心地よい。
車道に出ると彼女がiPadにタイムを記録する。太陽は上がりかけているがまだ涼しい。
外周路の歩道に戻ると、彼女が前を指さし、両手を早く振った。
全力で走れっていうのか。よし、自転車の君に負けないくらい走ってやるよ。
半時間頑張って走り、ようやく彼女に追いついた。彼女の顔にも汗が浮かんでいる。
ペットボトルを飲んでいたので、手を出すと渡してくれた。
彼女が飲んだペットボトルに口をつけ、全部飲み干した。
それだけで今日の頑張りが報われたような気がした。
そこからゆるい上り道を20分ほど走ると伊吹東公園に着いた。これで10キロらしい。
公園に設置している高鉄棒で30秒間ぶらさがった後、彼女が指示するストレッチを行う。
一体何セットやったか覚えていないくらいやらされた。
最後に腹筋と腕立て伏せ。何で走り終わってから腕立てを50回もするんだ!
息が切れて、立ち上がれないほど疲れた。彼女は手帳を見ながら指で回数を数えている。
2時間半のトレーニングが終了した。タオルをもらって一息ついた。
「疲れたよ。すごいトレーニングコースだね」
「今日は1回だけだけど、次は2周する」
「2周も走ると倒れてしまうよ」
「ジュンは私の言うこと、なんでも聞くと約束したでしょう?」
彼女が淳一の名前を呼ぶ時、指文字で中指一本を立てる『せ』を『ジュン』に勝手に決めてしまった。背が高いというだけの理由だ。サインネームというらしい。
「コースを考えるのは楽しかった。でもジュンがいないから寂しかった」
「僕もだ。今夜、会って話したい」
「私も相談したいことがたくさんある」
「今から大学に行くけど、練習はどうする?」
「暑いけれど、少しだけでもやってきて」
寺に着くと、庭のホースで頭から水をかけられた。彼女からホースを奪い取り、彼女にもかけてやった。まるで子供だな。ずぶ濡れになった淳一に彼女がタオルと下着を持って来て、玄関を指さした。あそこで着替えるのか。でも何で俺の下着の場所を知ってるんだ?
朝食は、住職夫婦と一緒に手を合わせて頂いた。
ごはんと味噌汁、野菜の煮物。ひじき山盛りなんて小学校の給食以来だ。
「淳一さん。東北で長いこと頑張ったねえ。えらかったでしょう。いっぱい食べてね。今日は四合炊いたけど。由佳ちゃんもいるから足りるかねえ」
伯父さんが、もっと食べるよう勧めるし、彼女も二杯食べろと催促をする。これでは昼を抜いた方がいいかもしれない。
「倉本君。君の義理の父さんとはどうなっている?実は君の母さんの三回忌が今年の1月だったが、年末に連絡したら全部君に任しているとのことだ。任すと言っても高校生の君になあ。気の毒だから親族なしで一応、お経だけはあげておいたよ」
入試で必死の頃か。忘れていた。
「すみません。僕には連絡が無くて」
「それよりあちらとは、これからどうするんだ?」
「義父との関わりはもうなくなったと思います。いずれ名前も元に戻すつもりです」
「何という名前だったんだ?」
「安原淳一です。だけど手続きとかで、義理でも父親の名前が必要な時がよくあるんです」
「まあぼちぼち片づけていけばいい。できることなら力になるよ」
目の前に由佳がいる。
会いたかった顔がそこにあるのだが、眠くて目を開けられない。
無理やり起こされ、ランパンとシャツを渡された。
寝ぼけまなこで着替え、玄関を出る。
自転車に乗った彼女に並走してもらいながらジョグ。
深呼吸や伸びをするうちに目が覚めてきた。
ゆっくり伊吹中央公園まで走り、設置しているベンチに寝かされた。
腹筋や背筋を指示され、足を曲げるストレッチを二人でする。
柔軟運動はきつくて痛くて悲鳴を上げた。
終わると公園内の雑木林にある道を指さした。山道を走るのか。
緑のトンネルの中、セミの大合唱を全身に浴びながら走るのは新鮮で心地よい。
車道に出ると彼女がiPadにタイムを記録する。太陽は上がりかけているがまだ涼しい。
外周路の歩道に戻ると、彼女が前を指さし、両手を早く振った。
全力で走れっていうのか。よし、自転車の君に負けないくらい走ってやるよ。
半時間頑張って走り、ようやく彼女に追いついた。彼女の顔にも汗が浮かんでいる。
ペットボトルを飲んでいたので、手を出すと渡してくれた。
彼女が飲んだペットボトルに口をつけ、全部飲み干した。
それだけで今日の頑張りが報われたような気がした。
そこからゆるい上り道を20分ほど走ると伊吹東公園に着いた。これで10キロらしい。
公園に設置している高鉄棒で30秒間ぶらさがった後、彼女が指示するストレッチを行う。
一体何セットやったか覚えていないくらいやらされた。
最後に腹筋と腕立て伏せ。何で走り終わってから腕立てを50回もするんだ!
息が切れて、立ち上がれないほど疲れた。彼女は手帳を見ながら指で回数を数えている。
2時間半のトレーニングが終了した。タオルをもらって一息ついた。
「疲れたよ。すごいトレーニングコースだね」
「今日は1回だけだけど、次は2周する」
「2周も走ると倒れてしまうよ」
「ジュンは私の言うこと、なんでも聞くと約束したでしょう?」
彼女が淳一の名前を呼ぶ時、指文字で中指一本を立てる『せ』を『ジュン』に勝手に決めてしまった。背が高いというだけの理由だ。サインネームというらしい。
「コースを考えるのは楽しかった。でもジュンがいないから寂しかった」
「僕もだ。今夜、会って話したい」
「私も相談したいことがたくさんある」
「今から大学に行くけど、練習はどうする?」
「暑いけれど、少しだけでもやってきて」
寺に着くと、庭のホースで頭から水をかけられた。彼女からホースを奪い取り、彼女にもかけてやった。まるで子供だな。ずぶ濡れになった淳一に彼女がタオルと下着を持って来て、玄関を指さした。あそこで着替えるのか。でも何で俺の下着の場所を知ってるんだ?
朝食は、住職夫婦と一緒に手を合わせて頂いた。
ごはんと味噌汁、野菜の煮物。ひじき山盛りなんて小学校の給食以来だ。
「淳一さん。東北で長いこと頑張ったねえ。えらかったでしょう。いっぱい食べてね。今日は四合炊いたけど。由佳ちゃんもいるから足りるかねえ」
伯父さんが、もっと食べるよう勧めるし、彼女も二杯食べろと催促をする。これでは昼を抜いた方がいいかもしれない。
「倉本君。君の義理の父さんとはどうなっている?実は君の母さんの三回忌が今年の1月だったが、年末に連絡したら全部君に任しているとのことだ。任すと言っても高校生の君になあ。気の毒だから親族なしで一応、お経だけはあげておいたよ」
入試で必死の頃か。忘れていた。
「すみません。僕には連絡が無くて」
「それよりあちらとは、これからどうするんだ?」
「義父との関わりはもうなくなったと思います。いずれ名前も元に戻すつもりです」
「何という名前だったんだ?」
「安原淳一です。だけど手続きとかで、義理でも父親の名前が必要な時がよくあるんです」
「まあぼちぼち片づけていけばいい。できることなら力になるよ」
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