沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅲ ロンドンへの道

13 由佳は障害者?

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久しぶりに、学食で東田との昼食会。

最近学食へ行くことが減った。理由は、寺の伯母さんが弁当を作ってくれるからだ。
そういえば夕食も寺の住職夫妻と一緒に食べることが多い。
以前、スーパーで買った安売りの弁当を持ち帰ったのを見て、昼食、夕食も用意すると言ってくれたのだ。

「余分にお金はいらないからね。そうね、条件はお寺の仕事以外に由佳ちゃんの勉強を見てあげる事。それに夕食の時、お父さんの話につき合ってもらう事かな。結構大変よ」
伯母さんはそう言って笑った。

夕食時、伯父さんと話をするのは、初め緊張したがすぐに慣れた。仏教や特に禅について造詣の深い伯父さんと話したり聞いたりするのは楽しかった。食事の途中、ノートに書き留めることもある。話が長くなり、食後も話し込むことも多い。

東田に吉泉研究室に行ったことを話した。
「監督はデータ魔だからな。先輩の話では、俺たちの資産どころか、童貞かどうかも知っているんじゃないかってさ。ところで君は当然、由佳ちゃんの生理のサイクル知ってるよな」
意味が分かるまでしばらくかかり、分かったとき顔が赤くなった。

「そんなこと、聞く勇気なんかない」
「僕とこなんか妹二人いるから、あっけらかんとしたもんさ。けれど結構大事なことだよ。それに彼女は一応障害者だよな。何か困ることはないのか?」

そうか。ろう者は障害者になるのか。
「そんな風に考えたことはないな。聞こえないと分かった時は驚いたけど」
「不便だけど不幸じゃないってことか?」
「不便?それもあんまり感じたことがない。店のカウンターじゃ話しにくいことくらいかな。困ったのは、カラオケに誘われて行ったことだ。彼女、映像を見ながらノリノリだった。俺の方が歌える歌、何もなくて聞こえるんならもっと覚えろって叱られた」
「彼女歌えるのか?」
「歌詞や画面を見て、体を動かすのが楽しいそうだ。西野カナや絢香が好きらしいけど、俺はどちらもよく知らん」
あれからカラオケは行っていない。

「いつも二人でどんなことを話しているの?」
「陸上の話が多いかな。手話が分からない時は筆談もするから、話がなかなか進まない」
「いつか彼女に会わせてよ。僕は手話検定四級に合格している」
「何で手話ができるんだ?」
「親父もお袋も特別支援学校に勤めていて、小さいころからよくそこの子と遊ばされた。点字もわかるし、視覚障害者の伴走をしたこともある。彼女に僕の練習プランを考えてもらうよう頼んでみてよ」
「東田はだめだ。イケメンだし何でも出来るから心配だ。会わせたくない」

年度内にもう駅伝はない。
今月は、前に申し込んでいた三田のハーフマラソンと大阪のクロスカントリーに東田と出場する。
後は、3月のびわ湖マラソンを目標に調整していく予定だ。

ハーフマラソンは、マスターズ対象ということで年配の人が多かった。
男子ヤングの部で参加したが、1時間3分12秒で優勝。
途中から独走になり、ペース配分がつかめないままフィニッシュした。
1位になったのはうれしかったが、世界記録は58分台で日本記録はまだ1時間を切っていない。
お山の大将でいたら世界には通用しない。

万博跡地のクロスカントリーは楽しかった。
一万mにエントリーしたが、悪路の中を数千人が走る。
舗装された平坦な道を走るより鍛えられると思った。
登り道や狭い所から広くなったところで、何人も抜くのは快感だ。これなら何度でも走りたい。
由佳のトレーニングコースで、山道を走っている成果が出たようだ。入賞はできなかった。
これでお楽しみは終了。

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