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Ⅲ ロンドンへの道
19 由佳が給水係
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ハーフは前回1時間3分台だった。
悪くはないが、昨年度百傑の20位にも入れないタイムだ。
これではオリンピックには程遠い。せめて1分は縮める必要がある。
走るのは何度か一緒に走った顔ばかりで、顔見知りの選手と目で挨拶をした。
しかし今日は笑顔にはなれない。記録も大事だが彼女も心配だ。
彼女が悲しい思いなんかしていたら大学を変えてやる。
落ち着かない気持ちでスタートラインに立った。
コースは競技場を3周した後、外周を5周。また競技場に戻って3周する。
外周は一周4キロ弱。彼女と五回会えるはずだ。
スタート直後からとばした。先頭で競技場内を出た。コースは枯れ木の間をくねくね走る。
由佳はどこにいる?
3キロ地点の給水所にいた。
『六甲大給水係』と書かれたビブスを着けて、紙コップを二つ持っている。
並走しながらコップを差し出したので一つ受け取った。少し口をつけてそっと転がした。
彼女は笑顔だった。やれやれだ。
競技場に戻り2周目になった。道が大きくカーブした時、振り返るとはるか後ろに数人のランナーが見えた。調子はいいようだ。でも今日は順位よりタイムだ。
3周目。曇り空が晴れ、太陽が出てきて暑くなってきた。
彼女からコップを受け取り、一口だけ飲んで、頭にかける。
口の形で『ジュン』と言ったような気がする。
4周目。息が苦しく、足も重くなってきた。彼女の笑顔が声援だ。
5周目。もう水は受け取らない。彼女を見ても手を挙げる余裕はない。
由佳も並走することはあきらめたようだ。落ち葉を踏みながらスパートをかける。
突っ走れ。
競技場に入り、トラックを3周しても2位以下は見えない。
フィニッシュと共に電光掲示板のタイムが止まった。1時間2分28秒。
前よりかなり短縮できた。
さすがに立っておれない。ふらふらしながらフィールド内でクールダウンする。
吉泉監督が握手を求めて来た。
「まずまずのタイムだ。あの娘さんのおかげだな」
表彰式が終わった後、監督や陸上部員と別れた。もうだれも淳一を引き止めたりしない。
先ほど走り抜けた公園内を手をつないでゆっくり歩いき、ベンチに座った。
もらったメダルを彼女の首に掛けた。これから何度でも掛けてやるよ。
「監督に何を言われた?」
「練習方法を詳しく聞かれた」
「嫌なことはなかった?」
「初めは緊張した。でも先生は優しかった。私の考えた練習法をほめてくれた。私のおかげで、ジュンは記録を伸ばして、故障もしないと言ってくれた。私の足のサイズやスリーサイズまで聞かれた。写真をたくさん撮られた」
「スリーサイズって何?」
怒ったような顔になった。
「ジュンは知らなくていい」
「明日から練習のやり方が変わるよ。東田さんも素敵ね」
どうやら東田の手話では会話にならず、吉泉監督とは筆談をしたそうだ。
監督は、今後やるべきことを彼女のノートに太い字で書いてくれていた。
1.体重を2kg減らす。(月1kg)
2.手の振りと、体の姿勢に気をつけさせる。(体幹を見る)
3.後半、中心線がぶれることが多いのでそれを直す。
4.食事は今の和食中心。三食共十分に。間食は不要。直前の食事は炭水化物を増やす。
5.靴の点検を小まめにする。(靴ひも・靴底の内側)
「まだあるけど、また整理して教える。明日から体重落としてね」
「食べる量を減らすのは嫌だよ」
「今からもう一度走って汗を出す?」
急に目つきがきつくなった。小さなため息をした。
いつもの回転寿司屋で二人合わせて二十皿。
まだ欲しいと思ったが、彼女が支払いを済ませさっさと店を出た。
びわ湖毎日まであと三週間。
明日は聾学校の卒業式だ。
悪くはないが、昨年度百傑の20位にも入れないタイムだ。
これではオリンピックには程遠い。せめて1分は縮める必要がある。
走るのは何度か一緒に走った顔ばかりで、顔見知りの選手と目で挨拶をした。
しかし今日は笑顔にはなれない。記録も大事だが彼女も心配だ。
彼女が悲しい思いなんかしていたら大学を変えてやる。
落ち着かない気持ちでスタートラインに立った。
コースは競技場を3周した後、外周を5周。また競技場に戻って3周する。
外周は一周4キロ弱。彼女と五回会えるはずだ。
スタート直後からとばした。先頭で競技場内を出た。コースは枯れ木の間をくねくね走る。
由佳はどこにいる?
3キロ地点の給水所にいた。
『六甲大給水係』と書かれたビブスを着けて、紙コップを二つ持っている。
並走しながらコップを差し出したので一つ受け取った。少し口をつけてそっと転がした。
彼女は笑顔だった。やれやれだ。
競技場に戻り2周目になった。道が大きくカーブした時、振り返るとはるか後ろに数人のランナーが見えた。調子はいいようだ。でも今日は順位よりタイムだ。
3周目。曇り空が晴れ、太陽が出てきて暑くなってきた。
彼女からコップを受け取り、一口だけ飲んで、頭にかける。
口の形で『ジュン』と言ったような気がする。
4周目。息が苦しく、足も重くなってきた。彼女の笑顔が声援だ。
5周目。もう水は受け取らない。彼女を見ても手を挙げる余裕はない。
由佳も並走することはあきらめたようだ。落ち葉を踏みながらスパートをかける。
突っ走れ。
競技場に入り、トラックを3周しても2位以下は見えない。
フィニッシュと共に電光掲示板のタイムが止まった。1時間2分28秒。
前よりかなり短縮できた。
さすがに立っておれない。ふらふらしながらフィールド内でクールダウンする。
吉泉監督が握手を求めて来た。
「まずまずのタイムだ。あの娘さんのおかげだな」
表彰式が終わった後、監督や陸上部員と別れた。もうだれも淳一を引き止めたりしない。
先ほど走り抜けた公園内を手をつないでゆっくり歩いき、ベンチに座った。
もらったメダルを彼女の首に掛けた。これから何度でも掛けてやるよ。
「監督に何を言われた?」
「練習方法を詳しく聞かれた」
「嫌なことはなかった?」
「初めは緊張した。でも先生は優しかった。私の考えた練習法をほめてくれた。私のおかげで、ジュンは記録を伸ばして、故障もしないと言ってくれた。私の足のサイズやスリーサイズまで聞かれた。写真をたくさん撮られた」
「スリーサイズって何?」
怒ったような顔になった。
「ジュンは知らなくていい」
「明日から練習のやり方が変わるよ。東田さんも素敵ね」
どうやら東田の手話では会話にならず、吉泉監督とは筆談をしたそうだ。
監督は、今後やるべきことを彼女のノートに太い字で書いてくれていた。
1.体重を2kg減らす。(月1kg)
2.手の振りと、体の姿勢に気をつけさせる。(体幹を見る)
3.後半、中心線がぶれることが多いのでそれを直す。
4.食事は今の和食中心。三食共十分に。間食は不要。直前の食事は炭水化物を増やす。
5.靴の点検を小まめにする。(靴ひも・靴底の内側)
「まだあるけど、また整理して教える。明日から体重落としてね」
「食べる量を減らすのは嫌だよ」
「今からもう一度走って汗を出す?」
急に目つきがきつくなった。小さなため息をした。
いつもの回転寿司屋で二人合わせて二十皿。
まだ欲しいと思ったが、彼女が支払いを済ませさっさと店を出た。
びわ湖毎日まであと三週間。
明日は聾学校の卒業式だ。
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