74 / 139
Ⅲ ロンドンへの道
20 聾学校卒業式
しおりを挟む
一年前、高校の卒業式では、どうしてあんなに泣いてしまったのだろう。
読書ばかりしていると感受性が強くなり、涙もろくなるのだろうか。
県立聾学校の卒業式は、高等部と中学部合わせて15人だけの卒業生で、教師や保護者の方がはるかに多かった。
前に知り合った古河さんも来ていたので、隣りに座っり、手話での会話が始まった。
「基子さんは、卒業後どうするのですか?」
「デザイン関係の専門学校へ行く」
「器用なんですね。前から聞きたかったのですが、なぜ古河さんや基子さんは口話が上手なんですか?」
「彼女は小さい頃、病気で中途失聴した。だから話せる。僕は会社で話す機会が多いから。でも口話をしていると、聞こえると勘違いされるから困ることもある。手話だけの方がいい」
淳一の周りでも手話のおしゃべりがあちこちで行われていたが、聞こえないから邪魔にはならない。
式が始まった。証書授与の次は校長の祝辞。手話通訳士が手を動かし続けている。
大よそ理解でき
るのは由佳のおかげだ。
最後に一人一人が壇上で決意の言葉を話した。
どの卒業生も手話はゆっくりで分かりやすく一生懸命さが伝わって来た。
見ていると、手話には人によって表現の仕方がずい分違うことに気が付いた。
毎日のように由佳と手話で会話をしているから、彼女独特の言い回しになれているんだな。
高等部のトップが梶井さん。口話と手話をする。
「今から考えると十二年間楽しい思い出ばかりでした」
早くもそこで涙。古河さんも目を潤ませている。楽しかった思い出と将来への決意を話す。
由佳の番。セーラー服姿は今日が最後か。何を着ても似合う気がする。
なぜか仁志先輩のことを思い出した。彼女のセーラー服も素敵だったな。
由佳は、手話だけで話した。
まず先生方の思い出を語る。手の動きはなめらかで淳一にはよく読み取れた。
「今まで人に助けてもらってばかりいた。でもこれからは、人の夢をかなえられるよう手助けをしたい。そんな仕事に就きたい。そして愛する家族、愛する人と共に歩んでいきたい」
俺に言っているような気がする。思い切り、手話の拍手をした。
最後は本山宗太郎。
俺を吹っ飛ばした奴だ。怒ったように手を動かしていたが、なぜか途中でやめてしまった。
結局何も分からなかった。
小一時間で式は終わった。
三田島先生から食事に誘われたが断った。
これから王子競技場でトレーニングだ。多くの部員が待っていてくれている。
校庭では保護者や卒業生が教師を囲んで別れを惜しんでいた。
彼女と二人だけの写真を撮ってもらってから校門を出た。
駅の方へ歩き出すと、悲鳴が聞こえたような気がした。
振り返ると、運動場で大きな輪ができている。余興でもしているのだろうか。
何人かが走り回っている。
何かトラブルが起きたようだ。
読書ばかりしていると感受性が強くなり、涙もろくなるのだろうか。
県立聾学校の卒業式は、高等部と中学部合わせて15人だけの卒業生で、教師や保護者の方がはるかに多かった。
前に知り合った古河さんも来ていたので、隣りに座っり、手話での会話が始まった。
「基子さんは、卒業後どうするのですか?」
「デザイン関係の専門学校へ行く」
「器用なんですね。前から聞きたかったのですが、なぜ古河さんや基子さんは口話が上手なんですか?」
「彼女は小さい頃、病気で中途失聴した。だから話せる。僕は会社で話す機会が多いから。でも口話をしていると、聞こえると勘違いされるから困ることもある。手話だけの方がいい」
淳一の周りでも手話のおしゃべりがあちこちで行われていたが、聞こえないから邪魔にはならない。
式が始まった。証書授与の次は校長の祝辞。手話通訳士が手を動かし続けている。
大よそ理解でき
るのは由佳のおかげだ。
最後に一人一人が壇上で決意の言葉を話した。
どの卒業生も手話はゆっくりで分かりやすく一生懸命さが伝わって来た。
見ていると、手話には人によって表現の仕方がずい分違うことに気が付いた。
毎日のように由佳と手話で会話をしているから、彼女独特の言い回しになれているんだな。
高等部のトップが梶井さん。口話と手話をする。
「今から考えると十二年間楽しい思い出ばかりでした」
早くもそこで涙。古河さんも目を潤ませている。楽しかった思い出と将来への決意を話す。
由佳の番。セーラー服姿は今日が最後か。何を着ても似合う気がする。
なぜか仁志先輩のことを思い出した。彼女のセーラー服も素敵だったな。
由佳は、手話だけで話した。
まず先生方の思い出を語る。手の動きはなめらかで淳一にはよく読み取れた。
「今まで人に助けてもらってばかりいた。でもこれからは、人の夢をかなえられるよう手助けをしたい。そんな仕事に就きたい。そして愛する家族、愛する人と共に歩んでいきたい」
俺に言っているような気がする。思い切り、手話の拍手をした。
最後は本山宗太郎。
俺を吹っ飛ばした奴だ。怒ったように手を動かしていたが、なぜか途中でやめてしまった。
結局何も分からなかった。
小一時間で式は終わった。
三田島先生から食事に誘われたが断った。
これから王子競技場でトレーニングだ。多くの部員が待っていてくれている。
校庭では保護者や卒業生が教師を囲んで別れを惜しんでいた。
彼女と二人だけの写真を撮ってもらってから校門を出た。
駅の方へ歩き出すと、悲鳴が聞こえたような気がした。
振り返ると、運動場で大きな輪ができている。余興でもしているのだろうか。
何人かが走り回っている。
何かトラブルが起きたようだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる