沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅲ ロンドンへの道

20 聾学校卒業式

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一年前、高校の卒業式では、どうしてあんなに泣いてしまったのだろう。
読書ばかりしていると感受性が強くなり、涙もろくなるのだろうか。

県立聾学校の卒業式は、高等部と中学部合わせて15人だけの卒業生で、教師や保護者の方がはるかに多かった。
前に知り合った古河さんも来ていたので、隣りに座っり、手話での会話が始まった。

「基子さんは、卒業後どうするのですか?」
「デザイン関係の専門学校へ行く」
「器用なんですね。前から聞きたかったのですが、なぜ古河さんや基子さんは口話が上手なんですか?」
「彼女は小さい頃、病気で中途失聴した。だから話せる。僕は会社で話す機会が多いから。でも口話をしていると、聞こえると勘違いされるから困ることもある。手話だけの方がいい」
淳一の周りでも手話のおしゃべりがあちこちで行われていたが、聞こえないから邪魔にはならない。

式が始まった。証書授与の次は校長の祝辞。手話通訳士が手を動かし続けている。
大よそ理解でき
るのは由佳のおかげだ。

最後に一人一人が壇上で決意の言葉を話した。
どの卒業生も手話はゆっくりで分かりやすく一生懸命さが伝わって来た。
見ていると、手話には人によって表現の仕方がずい分違うことに気が付いた。
毎日のように由佳と手話で会話をしているから、彼女独特の言い回しになれているんだな。

高等部のトップが梶井さん。口話と手話をする。
「今から考えると十二年間楽しい思い出ばかりでした」
早くもそこで涙。古河さんも目を潤ませている。楽しかった思い出と将来への決意を話す。

由佳の番。セーラー服姿は今日が最後か。何を着ても似合う気がする。
なぜか仁志先輩のことを思い出した。彼女のセーラー服も素敵だったな。
由佳は、手話だけで話した。
まず先生方の思い出を語る。手の動きはなめらかで淳一にはよく読み取れた。

「今まで人に助けてもらってばかりいた。でもこれからは、人の夢をかなえられるよう手助けをしたい。そんな仕事に就きたい。そして愛する家族、愛する人と共に歩んでいきたい」
俺に言っているような気がする。思い切り、手話の拍手をした。

最後は本山宗太郎。
俺を吹っ飛ばした奴だ。怒ったように手を動かしていたが、なぜか途中でやめてしまった。
結局何も分からなかった。

小一時間で式は終わった。
三田島先生から食事に誘われたが断った。
これから王子競技場でトレーニングだ。多くの部員が待っていてくれている。

校庭では保護者や卒業生が教師を囲んで別れを惜しんでいた。
彼女と二人だけの写真を撮ってもらってから校門を出た。

駅の方へ歩き出すと、悲鳴が聞こえたような気がした。
振り返ると、運動場で大きな輪ができている。余興でもしているのだろうか。
何人かが走り回っている。
何かトラブルが起きたようだ。

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