沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅲ ロンドンへの道

24 プロジェクトチーム

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大学の吉泉研究室に、母親から託された見舞いのお礼の品を持って行った。

「後三日だな。ここしばらくは、あの子が心配であんまり走れていないだろう。まあそれは仕方がない。どのみち今頃からじたばたしても手遅れだ。君は今までよく走り込みができているから、その蓄積を生かすしかない。さてペース配分だが」

白いボードには、5キロ刻みで40キロまで区切った長い直線が引かれてあり、その下に十数人の部員名が書かれている。

「最初の5キロから、35キロまでの7区間で5kmごとに陸上部員が立っている。各区間を15分前後、詳しく言うと14分50から15分20で走ることだ。16分台は許されない。君ならできるはずだ。部員が5キロのラップタイムを知らせるから、それで走りを修正するんだ。GPSウオッチを持たすことも考えたが、今までしてないからやめた。腕時計に気を取られず、まっすぐ前を見て走るんだ。ペースメーカーには、絶対置いていかれるな」

ラミネートされた由佳の写真を手渡してくれた。
「あの娘さんの応援は無理だろうから、これを作っておいた」
可愛く写っているが、どこで撮ったんだ。これをポケットに入れて走れということか。用意周到すぎる。

「明日と明後日の二日。朝と昼は軽いジョグとストレッチ。ただし夜は無しだ。それと、彼女とのセックスはないと思うが、オナニーも厳禁だ。がまんしてさっさと寝ること。食べ物の指示はこの紙に書いている。彼女の伯母さんに渡してくれ。さて前日、私は役員会で打ち合わせがあるから大津のホテルに泊まる。君はどうする?」

平然とした顔で注意を聞かされた。返事がしにくい。
「あの、早起きは慣れているので、当日の朝、電車で向かいます」
「12時スタートだから、まあいいだろう。東田君に伝えておくよ」
彼が俺の世話係か。それにしては、監督は俺の事に詳しすぎる。

部室で東田に問いただした。由佳とのことは、彼が教えたのに決まっている。
「吉泉教授にしつこく聞かれて、知っていることは洗いざらいしゃべらされた。由佳ちゃんと君が、まだキス止まりだろうということもね。ただ今度の事件は想定外で、君がショックで投げ出すことを心配していた。本当なら彼女に35キロ地点にいてもらって、最後の頑張りを引き出す作戦だったんだけどな」
「何の作戦だって?俺は聞いていない」
「君をロンドンに送り出す作戦だよ。オリンピックに行きたいんだろ?陸上部でプロジェクトチームを作って応援するんだ。もうミーティングを何回もやった。携帯とストップウォッチを持って君にラップタイムを知らせる練習もした」
本当にそんな計画が進んでいたのか。

「俺に行ける見込みがあるということでやってくれているのか?」
「君次第ではあるけど、可能性は分からないよ。だって君の記録は伸びてはいるけど、この時期でオリンピック選考B水準すら突破していないだろ。でも教授の話では、君の成長には賭ける値打ちがあるんだと。僕なんかインターハイから国体まで出ているのに君の付き添いだけだよ」

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