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Ⅲ ロンドンへの道
26 がんばれ、足
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12時30分。降りしきる雨の中、号砲が鳴った。
競技場内を1周して、外へ出たら少し北上してから折り返す。
びわ湖を左に見ながら南下していくが、どの選手もスタートダッシュでものすごく速い。
優勝したら五輪に出られるのだから、前半押さえて後半勝負というセオリーなんか吹っ飛んでしまっている。5キロまでで少しでも順位を上げたいが、前の集団が多すぎる。速すぎる。
そうだ。部員を探さなくては。
5km表示の手前で、1回生の栄本さんと三上さんが、六甲大学と染めた幟を持って待っていた。
両手で丸の合図。三上さんが携帯で連絡しているのが見えた。栄本さんが叫んだ。
「45秒。20位。いけるよ!」
『14分』は省いてるんだな。次は瀬田川を渡る。びわ湖はもやっていてきれいに見えない。
落ちていく選手もいるが、大半は必死に食らいついている。橋を渡った所で薮田君が叫んだ。
「52秒。16位。40m。頑張れ!」
40mは先頭までの距離か。『がんばれ』という声が後ろから聞こえた。
大丈夫。先頭はまだ見えている。でもこれ以上離されたらまずい。
両腕に着けたサポーターが濡れて重い気がする。次のポイントで誰かに渡そう。
給水所が近づいてきた。スペシャルドリンクは四か所に置くと言っていた。
東田は、見れば絶対わかると言っていたが、どれだ。
ペットボトルには由佳がピースをしている写真が貼ってあった。やりすぎだ。
少し飲んだが、笑いがこみあげてくるし捨てにくい。後で文句言わなくては。
味は甘酸っぱい。スポーツドリンクに蜂蜜入りみたいだ。おいしくもないが少し元気が出た。
先頭集団までもう少し。今のところ2位集団の先頭を走っている。
まだ全体のペースが思ったより落ちていない。頭上のヘリコプターの音がうるさい。
25km地点。3回生の先輩が二人いて、メガホンで大声を出した。
「15分ジャスト。11位。20m!」
まだ集団はばらけていない。みんな必死だ。その気持ちがひしひしと伝わってくる。
当たり前だ。オリンピックに行きたいのは俺だけじゃない。
30km地点の手前。六甲大の同期が、大声で「15分5!」と両手に口に当て怒鳴った。
少し前にいた黄色いゼッケンのペースメーカーが消えていく。
この辺りからしんどくなるはずだが、まだ大丈夫だ。着地のたびに水が跳ねる。
石山寺の表示が見えた。前に読んだ『御堂関白記』と関係のある場所だ。
ちらっとこんもりした森に目を向けた。まだ余裕ありだな。
35km地点。監督さんなど多くの六甲大生が見えてきた。東田が片手をぐるぐる回している。
ピッチを上げろっていうのか。
由佳、テレビを見ているよな。今から映ってやるよ。
ここでスパートをかけた。外側に回り、長い列になっている集団の六人を外側から一気に抜いて先頭集団の中ほどに追いついた。もっといけるか。もう少しだ。走り抜け。
ところがスパートは100mだけで力尽きてしまった。これでもうおしまいなんて情けない。
ペースを落とさないように走るだけで精一杯だ。
前にいるのは、ほとんど外国人選手ばかり。追いつけるか?
右手にまたびわ湖が見えてくる。
足の太ももが、両足ともほぼ同時に痛くなってきた。頑張れ足。走りながら太ももをたたく。
あと3キロも残っている。いや、たった3キロだ。絶対追いつく。追いつけるはずだ。
先頭集団の5人が目の前にいる。
6位や7位になるためにあれだけ練習してきたのか?
先頭との差があまり詰まらない。前でもスパートかけているみたいだ。
一人落ちてきて5位になった。苦しくて顔がゆがんでいるのが分かる。
もっと息がしたい。
由佳の『ジュン!』という声が頭の中で聞こえた。
かすれた声で何度も何度も繰り返し聞こえる。
苦しいけど絶対にスピードを落としたりしない。
俺には由佳がいる。
由佳、君の喜ぶ顔が見たい。後少しだけ、空気がもっと欲しい。
競技場内を1周して、外へ出たら少し北上してから折り返す。
びわ湖を左に見ながら南下していくが、どの選手もスタートダッシュでものすごく速い。
優勝したら五輪に出られるのだから、前半押さえて後半勝負というセオリーなんか吹っ飛んでしまっている。5キロまでで少しでも順位を上げたいが、前の集団が多すぎる。速すぎる。
そうだ。部員を探さなくては。
5km表示の手前で、1回生の栄本さんと三上さんが、六甲大学と染めた幟を持って待っていた。
両手で丸の合図。三上さんが携帯で連絡しているのが見えた。栄本さんが叫んだ。
「45秒。20位。いけるよ!」
『14分』は省いてるんだな。次は瀬田川を渡る。びわ湖はもやっていてきれいに見えない。
落ちていく選手もいるが、大半は必死に食らいついている。橋を渡った所で薮田君が叫んだ。
「52秒。16位。40m。頑張れ!」
40mは先頭までの距離か。『がんばれ』という声が後ろから聞こえた。
大丈夫。先頭はまだ見えている。でもこれ以上離されたらまずい。
両腕に着けたサポーターが濡れて重い気がする。次のポイントで誰かに渡そう。
給水所が近づいてきた。スペシャルドリンクは四か所に置くと言っていた。
東田は、見れば絶対わかると言っていたが、どれだ。
ペットボトルには由佳がピースをしている写真が貼ってあった。やりすぎだ。
少し飲んだが、笑いがこみあげてくるし捨てにくい。後で文句言わなくては。
味は甘酸っぱい。スポーツドリンクに蜂蜜入りみたいだ。おいしくもないが少し元気が出た。
先頭集団までもう少し。今のところ2位集団の先頭を走っている。
まだ全体のペースが思ったより落ちていない。頭上のヘリコプターの音がうるさい。
25km地点。3回生の先輩が二人いて、メガホンで大声を出した。
「15分ジャスト。11位。20m!」
まだ集団はばらけていない。みんな必死だ。その気持ちがひしひしと伝わってくる。
当たり前だ。オリンピックに行きたいのは俺だけじゃない。
30km地点の手前。六甲大の同期が、大声で「15分5!」と両手に口に当て怒鳴った。
少し前にいた黄色いゼッケンのペースメーカーが消えていく。
この辺りからしんどくなるはずだが、まだ大丈夫だ。着地のたびに水が跳ねる。
石山寺の表示が見えた。前に読んだ『御堂関白記』と関係のある場所だ。
ちらっとこんもりした森に目を向けた。まだ余裕ありだな。
35km地点。監督さんなど多くの六甲大生が見えてきた。東田が片手をぐるぐる回している。
ピッチを上げろっていうのか。
由佳、テレビを見ているよな。今から映ってやるよ。
ここでスパートをかけた。外側に回り、長い列になっている集団の六人を外側から一気に抜いて先頭集団の中ほどに追いついた。もっといけるか。もう少しだ。走り抜け。
ところがスパートは100mだけで力尽きてしまった。これでもうおしまいなんて情けない。
ペースを落とさないように走るだけで精一杯だ。
前にいるのは、ほとんど外国人選手ばかり。追いつけるか?
右手にまたびわ湖が見えてくる。
足の太ももが、両足ともほぼ同時に痛くなってきた。頑張れ足。走りながら太ももをたたく。
あと3キロも残っている。いや、たった3キロだ。絶対追いつく。追いつけるはずだ。
先頭集団の5人が目の前にいる。
6位や7位になるためにあれだけ練習してきたのか?
先頭との差があまり詰まらない。前でもスパートかけているみたいだ。
一人落ちてきて5位になった。苦しくて顔がゆがんでいるのが分かる。
もっと息がしたい。
由佳の『ジュン!』という声が頭の中で聞こえた。
かすれた声で何度も何度も繰り返し聞こえる。
苦しいけど絶対にスピードを落としたりしない。
俺には由佳がいる。
由佳、君の喜ぶ顔が見たい。後少しだけ、空気がもっと欲しい。
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