沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅲ ロンドンへの道

27 日本人一位

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40km地点を通過した。
後2キロ。交差点を曲がって南下する。最後のがんばり所だ。
皇子山競技場が見えてきた。
苦し紛れに口を大きく開く。
手と足が勝手に動いているような気がしてきた。

もう一度だけスパートできるか?できなくてもやってやる。
太ももが痙攣してきた。ずきずきするこの痛みは初めてだ。我慢できるか?
くそ、この足。握りこぶしでまた何度も叩いた。
ストライドを大きくしよう。手の振りも大きくした。
もうバラバラな走りだ。

競技場の手前の大きくカーブしたところで一人抜いた。
これで日本人一位だ。
競技場に入った途端、大歓声が聞こえてきた。
まだ前に三人いる。全部アフリカ勢だ。

一人だけでも抜こう。3人が一列になってゴールを目指している。
抜きたい。絶対抜く。
最後の直線コースは全力疾走。先頭2人はゴール間近。少し後ろのあいつだけでも抜かそう。
残り20mで前の選手に追いつき、ほぼ同時にフィニッシュ。

何位だ。3位か4位か?首に掛けられた札を見た。
3位か。
これで精一杯だったのか?
2時間8分11秒で、日本人一位。前のアフリカ人選手は2人とも7分台だ。

テレビカメラが近寄って来た。
「おめでとうございます。本日の最年少ランナー倉本選手です。堂々の日本人トップ。3位入賞です。今のご感想は?」 

競技場全体に声が響いている。何か言わなくては。本音でいいのかな?
「あと二人、追いつけなかったのが残念です」
「これでオリンピックに王手をかけました」
「みんなのおかげです。大学の仲間とか、監督やコーチとか」

コーチなんて言わなくてもいいことを口走ってしまった。
質問は続いたが、ハイとか、うれしいですとしか答えられなかった。
アイシングとマッサージをすぐしたい。できればしてほしい。

来てくれた陸上部の仲間は20人もいて、一人ひとりと握手をした。
みんな喜んでくれているがまだ実感がわかない。
一番喜びを分かち合いたい由佳はいない。

吉泉監督には深く頭を下げた。
「ロンドン行きの正式決定はまだだが、このタイムなら3人のうちには入れるだろう。しかし大変なのはこれからだぞ」

表彰式の後もインタビュー。勝因は監督さんの指導と部員の支援ということを繰り返した。
人前でうれしそうに話すのは苦手だ。




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