沈黙のメダリスト

友清 井吹

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Ⅳ オリンピック代表

3 祝オリンピック出場

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3月末、オリンピック代表選手団の競技役員で、長距離担当コーチである大河原さんから連絡があった。大学や企業の陸上部監督を長年やってきた偉い人らしい。

彼から何でも希望を言ってくれと言われた。トレーナーとして由佳の同行を頼んだが、あっさり却下された。どうしてもと言うなら自費で行くしかないそうだ。せめて選手村に入れないかと聞いたら「もう少し常識を持て」とまで言われ唇をかんだ。俺のサポートは由佳以外に考えられない。
がっかりしてそのことを由佳に告げたが、彼女は淳一のように落ち込まなかった。

「私、母とロンドンへ行く。ジュンより早く行っていろいろ調べたい。帰りは一緒になりたい。ジュンの行く日は私が決める」
「でもすごく費用がかかるよ」
「ジュンは自分の体調だけ気をつけたらいい。メダルを取ったら賞金はもらう」
「行けただけで精一杯だよ。メダルは世界で三人しかいない」
「あと四か月ある。あなたならまだ記録を伸ばせる。一緒に頑張ろう」

可愛い笑顔で元気づけてくれた。
やっと頂上にたどり着いたと思ったら、まだそこからはるか彼方に目指す山頂が見えてきたみたいだ。
「君の言うとおりにする。でも看護学校は?」
「両親と話し合って決めた。あなたをサポートしながら学校に行く」
両立できるのかな?すごくハードな生活になりそうだ。

新年度から生活が変わった。
朝5時起床。以前より1時間早い。簡単に体を温め、いつものコースを2周走る。
6時前には彼女が公園で待ち構えていて、入念なストレッチと筋トレ。マッサージは寺で行い、その後シャワー。

彼女の骨折は、ほぼ治ったが左薬指に小指が付かなくなっている。
ジュンを押さえる力が増したからよかったと言うが、手をつないだ時、小指を見ると心が痛む。

一緒に朝食をとった後、寺の庭や納骨堂の掃除をする。終われば淳一は大学、彼女は看護学校に行く。
授業では何を言っているかほとんどわからないので、教科書と友達のノートを見て暗記しているらしい。

昼食後は、部室か吉泉研究室のマシンを使って筋トレやトレーニング。研究室へ行けば、毎回データを取られる。夕刻、大学か王子の競技場で三千か五千のインターバル。
どの練習でも、部員が一緒に走ったりタイムを測ったりしてくれる。

テレビや新聞社の取材は、マネージャーさんが窓口になって対応してもらっているが、断りばかりでかなり迷惑をかけているようだ。寺には、いてもいなくても留守にしているが、電話だけでなく訪れてくる人も増え、伯母さんは困っていると聞いた。

淳一の通った小、中、高の学校と今住んでいる地域の自治会から、応援団を作るという連絡があった。挨拶には行けないと伝えた。それぞれ勝手に応援会をやるそうだ。

通学のたび、駅前のアーケードにある『祝 六甲大 倉本淳一君オリンピック出場』という大きな垂れ幕の下を通るのは何とも気恥ずかしい。大学でも作ったりしないように学生課に頼みに行った。注文する直前だったようで、林田さんは残念そうだった。

インタビューをされたら、いつも同じことしか言わない。
「二人の先輩の後を追いかけます。ロンドンで経験を積み、次で花を開かせたいです」

「女性のコーチに指導を受けていると聞いたけど?」
そんな質問した記者がいて焦ったことがある。由佳は表に出したくない。
五輪に選ばれた後の事など考えてもいなかった。



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