沈黙のメダリスト

友清 井吹

文字の大きさ
87 / 139
Ⅳ オリンピック代表

5 君以外の女性にふれない

しおりを挟む
すぐにメールを返した。
「彼女は、高校の同級生。それだけ。店で待っている」

返事はなかった。
仕方なしに駅前のファミレスに行くと、先に東田や三上さんたちがいて一緒に座るよう誘われた。
まあいいか。彼女が来たら席を移ればいい。
六甲大のメンバーは、どの種目でも健闘したものの1位はなかったようだ。残念会は盛り上がった。

「倉本君が最後、バーンと優勝するか、日本新でも出すと思っていたのに」
「そんなに甘くないよ。あれでも自己新なんだから、自分で自分をほめたいくらいだ」
ビールを注がれるまま飲んだ。いい気持ちでいくらでも飲めそうだ。

由佳に会えないまま2時間ほどしてお開き。
さすがに気になってメールを送った。
「待っていたけど会えなかった。今から君の家に行く」
すぐに返事が返って来た。
「お店に行ったけれど、ジュンは他の人と楽しそうにしていて、邪魔をしたら悪いから帰った。
今日は会いたくない」

ここで帰るわけにはいかない。
三田島医院まで歩いたが、ふらふらして千鳥足だ。飲み過ぎて気持ち悪くなってきた。
医院に着いたが、こんな酔っぱらった顔で入ることはできない。酩酊状態でメールをした。

「今、家の前。謝りたいから、出てきてほしい」
返事はなかった。俺がいるのは分かっていても、出てこないのは許さないということか。

中では、浩輔と美智子が押し問答をしていた。
「早く開けてやろう。長いこと外に立ったままだろう」
「鍵はかけてないわ。絶対入れるなって由佳が念押ししたから、あの子怒るわよ」

今日は彼と食事をして遅くなるからと言って、いつもより念入りにメイクをして出かけた。
ところが夕方に早々と帰って来た。
その後もう一度出かけたが、今度は怒り心頭という顔で戻って来た。
どうも由佳の逆鱗に触れるようなことがあったらしい。
妻が理由を聞いた。

「走る前、長いこと女性の手を握っていた。約束した店に行くと大勢でお酒を飲んでいた。私のことを完全に忘れている」
「彼、今、外であなたを待っているよ」
「メールで謝って来たけど、許してあげない。絶対ドアを開けないで」

結婚したらこんな事くらい、いくらでもあるのに。とにかくもう入れてやろう。
そう思って玄関のドアを開けると、戸の下に白い紙が突っ込まれていた。
表彰状だ。今日の試合では3位だったのか。

表彰状の裏に何か書かれてある。
『p.s.タカラモノ。5.君以外の女の人にふれない』
よく分からないが、由佳にそれを見せると、機嫌よく賞状を持って部屋に戻った。

玄関の外に出ると彼はいなかった。まだいたら車で送ってやったのに。
オリンピック選手も由佳の前では形無しだな。由佳の言いなりではこれから困るぞ、淳一君。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...